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とある異世界転生者のアンダースロー  作者: 村山良朝
アンダースローと異世界転生者
15/30

第十四話

 それから、俺たちはオペラを見に行き、その後は街をぶらぶらと散策、レストランで食事を楽しみ、そのついでにアーニャさんはお酒を飲んだ。

 もう凄い飲みっぷりで、水みたいにぐびぐびと飲んでいく。

 だというのに、酔っている様子が見られない。その間、上機嫌でセントサイモンの暮らしぶりを語っていた。


 どうやら、彼女は上手く生活しているようだった。名門ベルモント家はもう彼女が背負って立つしかないのだから、これは朗報ではある。


「へー、凄いなあ、姉さんは」


適当な俺の相槌に、


「そう、凄いのよ、姉さんは!」


 ケラケラ笑いながら、グラスを空けていくアーニャさん。

 そんなに飲んで大丈夫なのか、と尋ねたが、「大丈夫、大丈夫」と取り合わない。


 帰るという時になって、彼女の足腰は案の定、ふらふらとなっていた。

 仕方なく、俺はアーニャさんを背負って歩くことになる。


「いやーごめんねえ、かずやー」

「いいよ、これくらい。つか、飲みすぎだよ」


 辺りはすっかり夜のとばりが下りていて、虫の声や鳥の鳴き声がする。お屋敷へは、街の東西を走る川沿いを歩いていくのが近道だった。

 川のせせらぎを耳にしながら、俺は歩いてく。背中に暖かな体温を感じながら。


「ねー、カズヤ。最近、どうなの?」

「なにが?」

「決まってるでしょ。野球のこと」


 俺はちょっと迷って、正直に言った。


「芳しくはないね」

「駄目じゃない」

「駄目だよ、うん」


 と俺が苦笑したら、彼女は耳を引っ張ってきた。


「いたたたた!」

「笑ってる場合じゃないでしょ!」


 けらけらと笑うアーニャさん。酔っ払いめ……人の気も知らずに。


「でもね、大丈夫よ。カズヤなら」


 耳から手を離して、彼女は耳元で囁いてきた。


「何を根拠に、言ってるんだ」


 俺が反論すると、彼女は言った。


「だって、頑張ってるんだもの。良くやるわーって思うわ」

「……努力が、報われるとは限らないじゃないか」


 現に、今、そういう状態だ。四年間の時間は無駄になった。


「全然、上手くいってないんだ?」


 うん、と俺は答える。


「いいんじゃないの? 出来なかったら出来なかったで」


 彼女はあっけらかんとした声で答えた。


「ええ……」


 俺は困惑の声を上げる。


「だーかーら、初めから言ってるでしょ。カズヤは、あたしが面倒見てあげるって。出来なかったらそれでいいじゃん? 何か問題あるの?」

「いや、だってそれは姉さんに迷惑が」

「迷惑なんて誰が言ったの? てーいーうーかー、カズヤって、なんか考え方が後ろ向きだよね? 常にボーっとしてるのにさ、案外よね」


 放っておいてほしい。


「あーそうか……そうか、あのこと、言っちゃえばいいんだ」

「……何?」

「……」


 ん? なんか言葉が止まったけど……?

 背中越しに彼女が震えているのが分かる。何だってんだ一体。


「ごめん……下ろして……限界を……迎えつつ……」


 次の瞬間、俺の背中に、生暖かな感触がでろりと這いよった。

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