第十三話
「調子はどうなんだ?」
ここにきて、ボヌスさんが顔を見るごとに俺の調子を聞いてくるようになった。
俺は「変わりありません」と答えるほかはない。
「そうか……」
と何故だか肩を落として去っていくボヌスさん。辞めさせたいんじゃないのか? 相変わらず、分からない人だなあと思う。
お屋敷の中庭の一部は俺のための練習場となっていた。
そこで、俺は再びアンダースローで投げてみる。
「うーん……」
もう一度、セットポジションから、大きく左足を踏み出し、お屋敷の壁に向かって下から投げる。
ぽん、とボールが跳ね返って、点々と転がる。
全然だめだ。
そして、何で駄目なのか、これが全然わからないと来てる。
「こりゃ、駄目だな……」
ころころと転がってくるボールを拾い、嘆息。
努力が無に帰してしまったのは、当然と言えば当然ではあった。
見よう見まねで出来るほど――しかも、手本となるべき存在が、この世界には存在しない――甘くはない。
そこへ、底抜けに明るい声が俺を呼んだ。
「カズヤー! 久しぶりー!」
振り返ると、飛び込んでくるアーニャさんの姿が。
「うおっ」
と二、三歩後退して、彼女を受け止める。
「大きくなったねー」
ぽん、ぽん、と俺の頭を軽くたたく。
俺の身長は、大体百七十を越えないくらい。野球選手としては全く物足りないが、小さなときしか見ていない彼女からしてみれば、そりゃ、大きくなったとしか言いようがないか。
「まあ……男の子ですから……というより、いきなり抱き着いてくるの、やめてくださいよ。危ない」
「久しぶりなんだから、固いこと言わない」
アーニャさんは宮廷魔術師を目指すべく、セントサイモンの学校に通っていた。
その四年前から、彼女は全く変わっていないように見えた。もう地球換算で言えば成人をとっくに迎えているはずなのだけど。子供っぽさが全然抜けていない。
「何でパーシモンに?」
この四年間、アーニャさんは一度も家に帰ってこなかった。それがいきなりなので、何かあったのかと俺は思った。
それには答えず、彼女は俺を遊びに誘って来た。
「どうせ暇でしょ? 今日はお姉ちゃんに付き合ってよ」
「いや、暇じゃないんですけど」
「いいから。トレーニングは休息が必要なんでしょ? 言ってたじゃない。ほら、着替えた着替えた」
そういうわけで、強制的に、俺は外へ連れ出された。