第十話
結局のところ、俺は三打数二安打一四球、うち、ホームランを一回。投手としても、六回を被安打四、無失点に収めれた。
これはむしろ俺にとっては当然の結果であり、予想できたことだった。
あった、のだが……
「それでは、合格者を発表します」
少年たちは試験官の前に整列する。試験官は、次々と名前を呼んでいく。
「ウェインリッチ君」
その中には、涙目になっているあの金髪の少年もいた。まあ、良かった。俺も、罪悪感を感じずに済んだ。
「――以上となります」
そして、まあ、やっぱり、というべきか。俺の名前は、ついに呼ばれなかった。
「ちょっと待ってくれ」
よし、ボヌスさんに説明に行こうと思ったところで、そのボヌスさんが恐ろしい剣幕(いつも恐ろしい顔をしてはいるけど)で歩いてくるのが見えた。
「何故うちの子が落とされたのか、説明を願えるか?」
恐ろしい顔をした人がグラウンドに入ってきて、入団テスト会場は一転地獄絵図と化した。
泣き叫ぶ子供、狼狽する保護者。試験官も及び腰になって、逃げ出す人もいる。
「……」
自分が起こした災害に、ボヌスさんは不機嫌な表情で立ち尽くす。
「ご説明いたします」
結構な身長のある青い肌をした人が、ボヌスさんに向かっていった。人――いや、違う。頭の上に角がある。そうか、オークだ。亜人と呼ばれる、人と異なる種族。
「私の息子が、先ほどの試合では一番活躍したように見えましたが?」
その人に向かって、ボヌスさんは尋ねる。オークは、ちりちりの後ろ髪をぼりぼりと掻き、「良いでしょう」と頷いた。
「なぜこの少年が不合格なのか、実演してもらいましょう。ウェザー、頼めるか?」
後片付けを手伝っている少年に、オークの人は声をかけた。ウェザーと呼ばれた前髪を切りそろえている少年は、「分かりました」と承諾。
と、彼はグラブとボールを受け取って、マウンドへと駆け足で上がった。
「カズヤ君。このウェザーから一打席勝負して……そうだね、ヒット性の当たりを打ったら合格ということにしよう」
見た目に反して、穏やかな口調でオークの人は言う。
「……分かりました」
嫌な予感がしつつも、俺は承諾し、再びバッターボックスに向かった。
ウェザーと呼ばれた少年が、構える。ワインドアップモーション。金髪の少年とは違い、綺麗なオーバースロー。体全体を使い、全身の力を余すことなく使って投げる。魔力光。魔法を使った球……?
ズバ―ン!
「ッットライーク!」
主審の手が上がった。外角低めぎりぎり一杯にストレート。これは……魔法を使った、あの剛速球じゃない! それよりも遅い、少年らしい緩めの速球だ。
こんなにも早く、壁が立ちふさがるなんて。
分かっていたけれども。分かっていたんだけれども……悔しい。
続いて第二球。
同じくワインドアップモーション。先ほどと全く同じ流れで、投げた。魔力光はない。通常の球。
ボールの軌道は、先ほどと同じコース……だと思う。俺はそう予測し、振りぬいた。
が、ボールは外に曲がっていき、完全に空ぶった。スライダーだ。
「ッットライーク!」
第三球。
再びワインドアップモーション。投げた。
「!?」
ボールはリリースした瞬間に急加速し、ボールはキャチャーーミットに収まった。魔法を使ったあのストレート。
「ッットライーク! バッターアウト!」
まぎれもなくど真ん中を見逃し三振。まさに、力の差を感じさせる、三球三振だった。