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ニートのあたしが声優の影響でMMOを男の娘キャラで始めて出会ったカレは無双チートする変態でした

作者: 伊邪耶ゼロ

 あたしは釘乃宮ハナ。

 19歳女子、身分は学生でも社会人でもない、いわゆるニートってやつ?

 高校時代はそれなりに男子にもモテたし勉強もできたんだけど、気付いたらこうなってたんだ。

 実家で肩身の狭い思いをしながらも、特に就職活動をしてるでもなく、部屋でアニメとネットムービーを見ながらゴロゴロしてる毎日。

 そんなあたしがMMORPG『フェルメージュ』と出会ったのは今から二ヶ月前。

 きっかけは、好きなアニメ声優のツイートだった。


 『俺もフェルメージュ始めますた。キャラメイクで既に1時間経過した件。つかこのゲーム種族と職業多すぎっしょ!?』

 フェルメージュ?

 何だろうと思って早速ググってみたら、ヘッドマウントディスプレイと付属コントローラを使った相当リアルなPC用MMORPGだと知った。

 ゲーム自体はPCですぐに無料でダウンロードできるみたいだけど、肝心のヘッドマウントディスプレイ一式のお値段は5万円。

 ニートには高すぎる……天文学的な数字だよ。

 意を決したあたしは、部屋にある単行本、薄い本、アニメの円盤など数々のオタグッズを全部専門店である『おたくだらけの穴』に持ち込んで処分した。

 結果、3万4,800円で売れたけどまだ目標額には足りない。

 こうなったら最後の手段である。

 チェストから下着を全部取り出し鞄に詰めて、中古女性下着専門店である『ブルマリーン』に持ち込んだ。

 結果、『あたしのでーす♪』と書かれ目線を隠したチェキを店員に撮られはしたものの、6万2,000円で売れた。

「最初っからここに来ればよかったじゃない! あーもうっ、あたしのオタグッズ売らなきゃ良かった~!」

 思わず店を出て頭を抱え込むけどもう遅い、これっていわゆる『時すでにおすし』ってやつ?

 その流れで回る方のお寿司を食べに行って、いくらかストレスを発散させた後、家電販売店『レディオ電器』であたしはようやく念願のヘッドマウントディスプレイをゲットしたのだ。

 家に帰るとすぐにポポイと服を脱ぎ散らかしてTシャツとパンツ姿になり、氷をたっぷり入れたタンブラーにコーラを注ぎ、ポテチの袋を縦に開けて、田舎風クッキー、美味い棒とあたしのおやつ三銃士たちを配置する。

 手を汚さないように割り箸もちゃーんと用意したよ。

「よしっ、これで完璧。さあフェルメージュ、どんとこい!」

 説明書を軽くチラ見しただけでゲームを立ち上げ、速攻でキャラメイクを始めた。

「えーっと、種族は人間、天人、魔人、エルフ、ダークエルフ、シルフ、ドワーフ、ダークドワーフ、オーガ、オーガクォーター、ドラゴン、ドラゴンハーフ、スライム、ミノタウルス、ゴブリン、オーク、絶倫オーク、ネズミ、夜光ネズミ……ちょ、ちょっと待ってよ。種族っていくつあるのコレ?」

 イケメン若手声優の天宮ユート君が言っていた通り、本当に半端ない数だよ。

 これにさらに職業と外見の設定までしないといけないなんて……。

 結局キャラメイクだけで一日使ってしまった。


 フェルメージュのプレイを開始して二ヶ月後。

 あたしの分身『みるく』はレベル20に成長していた。

 種族はダークエルフ、職業は男の娘、ゴシックロリータ調のフリフリドレスを着た褐色の肌のとっても愛らしいキャラクターなんだ。

 フェルメージュには残虐&性的表現&PKの規制された『アンダー18サーバー』と、何でもアリアリな『オーバー18サーバー』がある。

 あたしが選んだのは勿論『オーバー18サーバー』だ。

 ただ、ここは楽しいけど本当に危ない。

 人気のない場所で一人でいようものなら、たちまちPKの餌食にあって身ぐるみ剥がれちゃうことだって日常茶飯事だし、それが女キャラだったりしたならたとえゲームの中とはいえ、えげつない陵辱をされちゃうこともあるんだって。

 あたしはそういうのは嫌だったけど、女の子っぽいオシャレも楽しみたかったし、カワイイ男の子にも憧れがあった。

 だから男の娘というのは、まさにそんなあたしのために用意されたような打って付けの職業だったんだよ。

「よーし、今日も一発稼ぎますか!」

 すっかりフェルメージュの世界の住人と化したあたしは、慣れた手つきでヘッドマウントディスプレイの電源をオンにするとコントローラを握った。

 『WELCOME TO FERMAGE』

 その文字が消えると、目の前にはまるで現実かと疑うような光景が……というのはさすがにウソだけど、下手な映画よりはよっぽどクオリティの高いCGの世界が繰り広げられた。

 さっそくあたしは設定していた転移先である、所属するギルド『ちむちむチェリーボーイズ』のホールに飛ぶ。

 するとすぐに仲間たちがかわいく手を振って出迎えてくれた。

 甘えん坊年下キャラのこの子も、三白眼のツンデレ風なあの子もみーんな男の娘、全員が男の娘キャラという同好の士が集まって作られたギルドなのだ。

「みるくちゃーん、こんちー」

「おこんちでーす」

 フェルメージュではチャットは完全ボイスチャットで、その声も自分の好きなように事前に設定したボイスチェンジャーを通して再生されている。

 あたしはみるくの声をアニメで女性声優が演じる活発系少年の声みたいに設定していた。

「困ったよぅ。隣町まで誰か行ける人いるぅ? お客さんに『きわどいガーターベルト(黒)』を届けないとイケないのぉ」

 チェックのミニスカートからその膨らみの眩しい、しまパンをチラチラさせたキルシェちゃんが、泣き出しそうな声でギルメンに尋ねる。

 あたしたちのギルドは男の娘用装備の生産もやってて、これが意外と隠れた需要があって結構な稼ぎになっているんだ。

「ボクが行こうか?」

 すかさずあたしが名乗りを上げると、キルシェちゃんは不安そうな顔になる。

「うう、危ないよぅ。最近峠にはPK山賊団が出るんだよぉ」

「大丈夫だよ。ボクもレベル20でスキルを覚えたし、ちむちむのみんなの中ではボクが一番強いからね。大船に乗ったつもりで任せて!」


 そう威勢良く出発したのはいいけれど、峠に差し掛かるとわらわらとPK山賊団が本当に出ちゃった。

「へっへっへ、カワイイお嬢ちゃんよ。死にたくなけりゃあ素っ裸になりな!」

「残念でしたーっ、ボク男の娘だもんねー!」

 あっかんべーと山賊たちを挑発するあたし。

「何ぃ? こんなにカワイイ男がいるワケねえだろうが! 俺のスキル『シーフズ・アイ』で本当かどうか調べてやらぁ!」

 それはどうもありがとう、最高のホメ言葉頂いちゃいました。

 そんな場合ではなく、山賊の一人がみるくに対してスキルを使用した。

「プレイヤー名・みるく、種族・ダークエルフ、職業・男の娘、レベル20……マジかよっ!?」

「お生憎様でした、いっくよーボクのスキル『プリティデビル・テンプテーション』」

 あたしが自分のスキルを使用すると、誘惑されて頭がどうにかなっちゃった山賊たちは同士討ちを始めて勝手に自滅していく。

「目を覚ませオメーラ! スキル『コンディション・グリーン』」

 山賊の一人が使ったスキルであたしの使った状態異常スキルが無効化されちゃったみたい!

 じりじりと目に怒りの色を讃えて迫って来る山賊たち。

 みるく、ピンチです!

 その時、プラチナ色の紛うことなき車、それも海外のスポーツカーみたいな凄いのがあたしたち目がけて猛スピードで突っ込んできて急停止した。

「車!? このゲーム世界観どうなってんだよっ!!」

 速攻で突っ込みを入れるあたしだったけれど、もしかしたら白馬の王子様ならぬ、外車の王子様かも知れないよね。

「ケーッケッケ、オレ様の『霊神具(レーシング)マスターロード ZUS-777』の餌食は誰だぁ!?」

 車から出てきたのは白馬の王子様でもなんでもなくて、背が曲がって瘤だらけの醜いゴブリンだったよ……でも人(?)は見かけによらないって言うし。

「お頭、こいつ女かと思ったら男の娘らしいですぜ! 油断したウィリーとビリーの奴がやられちまったよ!」

 訂正、こいつらのお頭って……やっぱり見かけどおりの悪党じゃないの!

「何ぃ男の娘だぁ? ふざけやがってこの変態め、そのケツの穴から木の杭を打ち込んで、オレ様の愛車のパーツとして飾ってやるぜぇ!」

「へ、変態はそっちだろっ!」

 あたしのカワイイみるくの貞操の危機どころか命の危機だ。

 美少年に何か別のモノを優しく挿れられるならともかく、木の杭をあんな醜いゴブリンの手でお尻に打ち込まれるなんて想像したくもない!

 お頭と呼ばれたゴブリンは車に乗り込んでエンジンをふかし始めた。

 こ、怖いよう。

「イヤだ、誰か助けてぇーっ!」

 あたしが心の底から叫んだその時――。

「オウオウオウ、待ちな! 白昼堂々とPKたぁ見過ごせねーなっ」

 切り立った崖の上から誰かが叫んだ。

「何者だ!?」

 それは今度こそ、正真正銘の白馬……ではなく黒馬に跨った武将風の格好をした男の人だった。

「俺のスキル『シーフズ・アイ』でテメェの強さ、調べてやらぁ!」

 そう言って山賊の一人がスキルを使用する。

「プレイヤー名・劉備人徳、種族・人間、職業・武人、レベル……ば、バカな!」

 スキルを使った山賊が驚愕の色を顔に浮かべる。

「レベル1だと? ただのバカじゃねーか!」

 あたしも含む全員が盛大にずっこけた。

 レベル1って……それであの威勢のいい啖呵を切れるなんて、なんか逆に凄いんですけど。

 というか一応助けに来てくれたみたいだし、気持ちは嬉しいかな。

 すると人徳さんは黒馬に跨ったまま崖から颯爽と駆け下りてきた。

 ちょっとその姿は格好良いと思ったけど、近くで見るととっても間の抜けたぼーっとした顔をしてるよこの人。

 まるで何も考えてないみたい。

「どこを見ているおまえらっ、俺はここだぜっ」

 えっ?

 ええーっ!?

 今喋ったのは、間違いなく人徳さんではなく黒馬だよ!

「プレイヤー名・宇宙銀河黒雲号、種族・馬……って馬かい!」

 山賊が凄い勢いで突っ込んだ。

 う、うま……確かにそんな種族もあった気がする。

 でもこのゲームでは、マイナー種族は悲しいほどにただのネタ種族でしかなく、馬は馬のスペックの域を出ない。

 だって武器も持てないし、魔法も使えないんだよ?

 馬でレベリングってそもそもどうやるのかも謎だ。

 スライムでも踏むのかな……。

 というか何を考えたら馬になろうなんて考えるの!?

 そう考えるとこの人もなんだか新手の変態っぽくて怖い。

「マイナー系種族でお笑い取ろうって魂胆が寒いんだよヴァーカ!」

「この狩場で半年ガチレベリングしてきた赤ネームド山賊の怖さ、教えてヤンヨ!」

 山賊の皆さんを怒らせちゃったのか、やる気が凄いよ。

 ああ、あたしのカワイイみるくはやっぱりここで終わりみたいです……。

「ゆくぞ人徳っ!」

 宇宙銀河黒雲号がそう叫ぶと、人徳さんはその背から降りて、よたよたと頼りない手つきで黒馬の頭部にでっかい刃物を装着したよ。

 一体何が始まるんですか?

「いくぜっ、限界突破スキル『インビンシブル・チャージング』」

 虹色のオーラに包まれた宇宙銀河黒雲号が恐ろしい速さで突撃をすると、山賊たちのHPバーが一瞬で消滅してあたしは目を疑った。

「ふざけやがって宇宙銀河黒雲号! 峠の最速最強はこのオレ様の『霊神具(レーシング)マスターロード ZUS-777』だぁ!!」

 ゴブリンのお頭の車が猛スピードで宇宙銀河黒雲号に突っ込んでいく!

「危ないっ!」

 あたしが思わず目を伏せると、どんがらがっしゃんと交通事故のような凄い音がした。

 恐る恐る目を開けると辺り一面にモクモクと煙が立ち込めている。

「宇宙銀河黒雲号さん……」

 あたしが思わず泣きそうになると、煙の晴れた場所に一頭の馬が堂々とその勇姿を見せた。

「宇宙銀河黒雲号さんっ!」

 あの高そうなスポーツカーは真っ二つになってオシャカになってるよ。

「オレ様の愛車がぁぁぁぁ!! 畜生、宇宙銀河黒雲号め、覚えていやがれ!」

 ゴブリンはそう捨て台詞を残してどこかに転移しちゃった。

 残されたのは二人と一匹。

「宇宙銀河黒雲号さん、助けてくれてどうもありがとうございました! 人徳さんも」

 あたしがそう言うとブルルと馬っぽく笑う。

「人徳はただのユニークアイテムの囮人形(デコイプレイヤー)だ。馬だけじゃこの世界何かと不便だからなっ」

 そうなんだ……道理でアホっぽいはずだよ。

「近くの街まで連れてってやる。遠慮しなくていいぜ、乗りなっ」

 促されるままあたしは宇宙銀河黒雲号の背に跨る。

 タマタマがたまに変な具合に当たってちょっと痛いけど、彼の背中はとっても頼もしい。

「そういえば、宇宙銀河黒雲号さんのレベルはいくつなんですか?」

「俺のレベルは60だぜっ」

 ああ、馬でそこまでレベル上げてるなんて、やっぱり変態だこの人。


 暗い部屋で一人、ホイップクリームのたっぷりと浮いたウィンナーコーヒーを飲みながら声優の天宮ユートは魅力的なボイスで呟く。

「やれやれ……男の娘、か」

 フッと甘いマスクに微笑を浮かべる天宮ユート。

 そして気を取り直したようにPCに向かうと愛用のメタリックなキーボードを叩いた。

『フェルメージュで30万課金してゲットした俺の愛車が大破しますた;;絶許』



 <おわり>

『僕の就職先は戦士、それも悪の。』という長編も連載中です。

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