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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第一章 冒険前の下準備
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9 特殊スキル実践編

 わたしの心に戦慄が刻まれたあの日から、またいくらか時間がたった。


 アーシュのおしおきに始まり体の洗い方を教えてもらったときとか思い出したくないことがいっぱいあったけどこうして今元気に過ごしています。精神改造されてる今の状態が元気かどうか自信ないけど主観では元気です。これってもう手遅れってことなのかな。


 まあとにかく。

 いろいろなものを乗り越え投げ捨てながら進んできたわたしはようやく一通りの勉強を終え、ついに実践編に突入することになりました! 拍手!


「復習はそのつどするんですけどね」


「現実はいつだって残酷だね……」


 もう慣れたけどね、理不尽にも女の子にも。




「ではスキルの実践をしていくにあたって、特殊スキルの使い方、覚えていますか」


「基本は名前を思い浮かべるだけでいいんだよね」


 そうしたら世界スキル側が勝手に発動させてくれる。

 でも発動させてどうするかは自分でイメージしなければいけない。それが疎かだと予想以上の効果が出て、最悪は自分を巻き込んで暴走する。

 技量が足りないと発動すらしない通常スキルとは違って発動だけはしてしまうから使いこなせない特殊スキルはただの不発弾だ。刺激を与えると爆発する。


「そうなりたくなかったらイメージをしっかりする必要がある。そしてイメージをするためには……」


「そのスキルについての知識が必要になる、とそういうわけです」


 渡されるのは一冊の本。表紙を開いて中身を読む。



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 【空間征服】

 魔力を使用し周囲の空間を征服する。

 征服した空間は自由に操ることができる。




「この書庫には当然、ヤクモちゃんの特殊スキルについての情報もあります。まずはそれをもう一度確認してイメージをしっかり構築しましょう」


 アーシュの声を聞きながら内容を把握していく。特殊スキルには概要が抽象的なものも多い。その分自由度が高いんだけど裏返せば暴走しやすいってことでもある。わたしの特殊スキルはそういうものが多い。

 不発弾になりたくなかったら、ここで気を抜くわけにはいかない。


「イメージができたら、さっそく発動させましょう。気負う必要はありません」


 たしかに。見守ってるのは女神だもんね。


 深呼吸一つ、イメージを構築する。


「じゃあ、いくよ?」


「いつでもどうぞ」



「――――【空間征服】」



 声とともにイメージを流し込み、それに従ってスキルが発動していく。魔力が体から抜けていく感覚がする。薄くしなやかに伸ばされたわたしの一部が空間に溶けていく。プレートを具現化させたときのような不快感は感じない。世界からの補助に引っ張られすぎていない証だ。

 ――きっとうまくいく。


 予想は覆ることなく……何事もなく、静かに発動は終わった。

 征服できた空間は、まるで新しい体がくっついたみたいだった。その内部で起きる何事も自分の事のように分かるしわたしの指示に従って動くだろう感覚がある。


「はあ…………」


 失敗しなかった安堵からその場に座り込んでしまう。でも、気分は悪くなかった。


「ふふ、疲れました?」


 微笑むアーシュに笑い返す。


「ちょっとね」


 魔力を使ったのこれで二回目だし、慣れないことして疲れたなーって思ってるのはたしか。魔力は生命活動で生まれるエネルギーの余剰分だから使い切っても問題ないのは知ってるんだけどね。


「問題ないようなら次に行きます?」


「そうだね、流れに乗ったまま次にいっちゃおう」


 【空間征服】がイメージ通り発動したことでこの書庫の一部はわたしが征服したことになる。でも、ただそれだけだ。征服した空間を操るのはこれからになる。


「でも、征服した空間なら何も消費無しで操作できるなんてすごいですよね」


「……素直にチートだって言ってくれてもいいんだよ」


 もう開き直ったあとだから。幸運の仕事が極端すぎるって。


 それに消費無しで操作できるっていってもわたしが慣れてなくてイメージできてないのかそこまで自由に操作できる感覚はない。


 宝の持ち腐れとか言っちゃダメ。


「……それでどうしようか。どんな風に操作する?」


「転移門でも繋げてみましょうか」


 転移門って、そこを潜れば対応する門のところにいけるってものだったっけ。……うん、できなくはなさそうな気がする。


「でもどこに繋げるの?」


「特殊スキルの練習にちょうどいい場所せかいがあるんです。門を開くイメージだけしてもらえれば座標指定は私がやります」


 む、なんか複雑なことを言う。それとも一部肩代わりしてもらえるだけ楽なんだろうか。やってみれば分かるかな。

 あと繋げてもらう場所がひどく遠いところになりそうな気がするけど気のせいだと思っていいよね。


「……まあいいや。内心の不安を押し殺してとりあえずやってみるよ」


「そういうことは言わないものじゃありません?」


 アーシュが小さく笑う。その通りだと思うけど、どっちにしろアーシュには読まれてるんだし言っても変わらないかなって。


 そんな風にとりとめのないことを考えてから、表情を引き締め切り替える。


 両手を前に突き出して、その先に門が開くように……征服した空間に命じる。


 わたしの意思が空間に染み渡り動き出す。

 その動きは鈍く、慣れない作業に適応しきれてないのがはっきりと分かった。

 思ったよりもきつい感覚にイメージがこぼれ落ちていくのをぎりぎりで保つ。


 初めに現れたのは罅。それが段々と広がっていき亀裂になり、人一人が通れるくらいの大きさで止まる。そして、亀裂の先の暗闇が不安定な色をした鏡面に変わった。


「……成功した?」


「一応繋がってはいるみたいですけど、門って見た目じゃないですね」


 アーシュの表情は芳しくない。初めての操作にしては上出来かなーなんて思ってたけど甘い評価はもらえなかった。イメージが途中で崩れちゃったのが問題なんだろうな、やっぱり。


「とりあえず問題がないかどうか確かめてきます」


 そう言ってアーシュは亀裂(門とはやっぱり呼べないかな)を潜っていった。とぷんと鏡面が揺れて彼女を飲み込む。そういえば、転移門を繋げるのに失敗したらどうなるんだろう。……何か危険なことに繋がらなければいいけど。

 亀裂に近寄っても先がどうなっているかなんて見えない。当然音も聞こえない。


 心配ではあったけれど勝手に亀裂に触ったりしたらあとで怒られそうだし、神様であるアーシュの力を信じることにしてじっと待つ。



 五分後くらいにアーシュは戻ってきた。駆け寄ってみても彼女の体に異変はない。どうやら危険があったわけではなさそうだ。無事なアーシュに安堵しながら、詳細を聞く。


「どうだったの?」


「亀裂には問題ありませんでした。見た目はともかくちゃんと転移門の機能を果たしています」


 それはよかった。歪な形は綺麗にできるように練習しなきゃだけど。


「じゃあわたしが潜っても問題ないかな」


「ええ。一緒に行きましょう」


 手を差し出してきたのでそれを握って、一緒に亀裂を潜る。亀裂には横に並んで入れる大きさはないのでアーシュが先頭、引っ張られるようにしてわたしが次。


 潜る瞬間、水面に飛び込んだような圧力を感じて思わず目を閉じる。


 圧力を感じなくなってから目を開くと、そこは何もない空間だった。

 何度も見た白い空間も何もなかったけどこっちは一面真っ黒。それなのに着ている黒い制服が背景に紛れることはない、不思議な黒だった。


「ここは?」


「わたしが新しく創った世界です。見たとおり何もありません」


 そうだね、何もない世界なら仮に暴走したとしても、スキルの最大威力を試してみたとしても被害ゼロだもんね。たしかに特殊スキルの練習にはちょうどいいかもしれない。

 ……新しく世界創ったとか聞こえたけど、まさかわたしのためだけに創ったわけじゃないよね?


「私にかかれば、世界の一つや二つプレゼントすることなど容易いのです」


「こんな大きなプレゼント初めてもらったよ……」


 ああ、やっぱりわたしのためだったのか。神様は人とはスケールが違うよ。


「世界をもらってどうしろと」


「ヤクモちゃんは多世界転移の影響で勇者なら皆持っているアイテムボックスのスキルが消えちゃってますからね。その代わりとして使えばいいかと」


「世界一つをアイテムボックス(スキル一つ)の代わりにしちゃうあたりが神様スケールなんだよ……」


 アイテムボックスのスキルは物体を情報に変換して魂に仕舞いこむものだから、魂が壊れかけたわたしから消えちゃうのは当然の結果だ。それを少し残念だなーみたいに愚痴ったことはあったけどこんな形でカバーしてくるとは予想外だよ。


「もらって悪いものでもないでしょう」


「……うん、まあそうだね」


 受け取らない選択肢はいろんな意味でないね。

 怒ってるアーシュには本能的に逆らえる気がしないけどにこにこ笑ってるアーシュにも逆らえる気がしない。ここで断ると罪悪感を覚えそう。この思考は男子だったからだろうか、それとも女子でもそうなんだろうか。


「ヤクモちゃんはもうだいぶ女の子よりですけど」


「あー……。とりあえず全部脇に置いて、スキルの練習しましょう。そうしましょう」



 

ここから少し、似たような話が続きそうです

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