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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
序章 幸運の定義は人それぞれ
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5 白い部屋にて(3)

ちょっと長め

 二回目だ。状況の把握くらい出来る。頭の中にある三つ目の異世界知識に呆然としそうになるけど、まずはどんな知識か確認する。

 そしてどうやらこの空間で俺がすべきことは勇者召喚と同じらしい。


〈異世界召喚プログラムが発動しました〉


 すなわち能力値の割り振り。今回のは「特殊な才能スキル」も付与されるようなのでそれに合わせた割り振りをするべきだろう。知り合いもいない戦いが日常茶飯事な世界だ、最低限自分の身を守れるだけの力は必要だ。

 だけどせっかく機会を得たんだ、最優先にどうにかすべきなのは幸運値だろう。


〈これからあなたにはその準備をしていただきます〉


 俺の現状を引き起こしている原因となっているかもしれない幸運値。これをこのままにしてもいいのか。ここで何もしなかったら酷いことになるような予感がする。蒼華と違って俺の直感は人並みだがそれでも無視してはいけない気がする。

 選択肢は二つに一つ。減らすか、増やすかだ。


 ――幸運値は……当人が幸福を感じる状況を引き寄せる力でもあります――


「まあ……幸運を減らすなんて選択はどうかと思うしな」


 聞いたばかりのアドバイスだがおとなしく従っておこう。


〈能力値の変更を開始します〉


「幸運値に六、いや七割振って残りは『特殊な才能スキル』に関係するものに振って」


 結局はこうなった。少なくとも初めから変わらない俺の意見だと言い張ることは出来る。


〈要請通りの能力値変更を終了しました。転送を開始します〉


 さあ、どうなるだろうね?




 ● ● ●




〈異世界召喚プログラムが発動しました〉


「……ミスったかな……」


 どうやらまだこれは続くらしい。幸運値を上げすぎたのかもしれない。

 ……まだ諦めないけど。こうなったら幸運を諦めるなんてことはしない。


「能力値は幸運に七割振って……残りは適当で」


〈種族を変更することができます〉


 種族? 人間じゃダメなのか。書き込まれた知識を確認する。……どうやら次の世界では人間は差別されている種族らしい。種族差別は怖いな、でも人間を捨てるかと言われたら……うーん。


 いや、いいや。どうせ知り合いはいない世界だし生まれ直すつもりでいこう。地球に帰れる手段が見つかったときに困るかもしれないが、どうせこの空間を経由するだろうからその時に人間にしてもらおう。自分からハードモードな人生を選ぶことはない。


「その世界で覇権を握ってる種族にしといてくれ」


〈要請通りの変更を終了しました〉




 ● ● ●




〈異世界転移プログラムが発動しました〉


 ……本当に幸運上がってる?


「……能力値は幸運に八割り振って、残りは適当。種族は覇権握ってるやつで」


 魔法陣が俺の体を包み込む。




 ● ● ●




〈異世界連結プログラムが発動しました〉


「……ぐっ……」


 視界が晴れても変わらない光景。ただ……今までと違って吐き気がする。いったいどういうことだ? 連続でこの空間に来てる影響……? 頭痛い……。まるで脳に異物でも詰め込まれたみたいだ……。


 ――書き込む情報量が増えるに従い加速度的に負荷が増します――


 ああ……そんなことも言われたかもな……。




 ● ● ●




〈異世界召喚プログラムが発動しました〉



〈異世界召喚プログラムが発動しました〉



〈異世界転移プログラムが発動しました〉



〈異世界召喚プログラムが発動しました〉



〈異世界召喚プログラムが発動しました〉



        ・

        ・

        ・




 ● ● ●




 俺は今仰向けに倒れている。それ以外はよく分からない。場所は多分あの白い空間だろう。球体は多分いない。目が霞んでよく分からない。手足の感覚が曖昧だ。内臓もちゃんとあるだろうか。息を吸っても吸っても体内に入っていく気がしない。そもそも飲み食いしないで結構な時間が経った気がするけど俺の体大丈夫なのだろうか。大丈夫じゃないのか。時間とかどうなってるんだろう?


「……ぎりぎり間に合ったようですね」


 ノイズだらけの音を耳が拾ってくる。いや耳が悪いだけでノイズ混じりの声ではないだろう。きっと優しい声音をしてる。球体の機械的な声とは違う。


「会話は無理そうですね。……少しあなたの身体お借りします」


「……ぇ……?」


 ぼんやりとしていた頭は次の瞬間はっきりとした。


「…………!」


 重い枷が外れたような感覚。少し軽くなりすぎたような気もするが感覚は正常だ。いきなり回復した体に困惑する。

 そして俺に正常な思考力が戻ってくるのと同じタイミングで視界にも変化が表れた。


 人がひとり目の前に立っている。


 人といっても普通の人ではない。頭に狐風の耳が付いていて、柔らかそうな尻尾も生えている。特徴のない平均的な顔をしているけど、長い髪は腰の辺りまであり体つきに起伏もあるので女性だろう。たぶん同い年くらいだと思う。

 ただ異常なことに体のあちこちがバグった映像のようにぶれて見える。


「……これは。思ったより崩壊の度合いが酷いですね。後少し遅かったら手遅れになるところでした」


 ぶれる体を見つめながら少女が口を開く。険しい顔をしているけど聞いていて心地のいい涼やかな声だ。


 おもむろに少女が目を閉じた。何をしているのかと疑問に思った直後少女の体が眩く光り始める。

 それを俺はただ呆然と見つめていた。少女の体が見えなくなるほど眩しいのに目には痛くない不思議な光。自分の悪いところが全て洗い流されていくように感じた。


「これでひとまずは大丈夫ですね」


 光が消えたときそこにいたのは少女であって少女でなかった。


 黒かった髪は色が抜け白っぽい、プラチナブロンドって感じに。瞳もどこか神々しい黄金色。尻尾もさっきより柔らかそうに見える。全体的に優しい雰囲気になって……まるで女神のようだった。

 ぶれていた体もしっかりとしたものになっている。


「夜雲さん。調子はいかがですか?」


「え……と、問題ないです。凄く調子いいです」


 少女が心配そうに聞いてくる。この流れでどうして俺の心配をしたのかはよく分からないけど、少なくとも調子は悪くない。身体的にも精神的にも。むしろ地球にいたときよりいいような気もする。


「それはよかったです」


 少女はふんわりと微笑んだ。不覚にも(?)見とれてしまった。

 だけど聞きたいこともいっぱいあるので頭を振って正気に戻る。


「それで……あなたは誰です?」


「私はそうですね……球体達の創造主といったところです。アーシュと呼んでいただければ」


 異世界召喚をサポートする球体の創造主……。


「……神様ですか?」


「その呼び名も間違ってはいないでしょう」


 目の前の少女は本当に女神様だったらしい。そう言われればオーラ的なものが見えるかもしれない。


「何をしにここへ?」


「あなたの魂が壊れかかっていたので直しに来ました」


 ……なんと女神様は俺を助けに来てくれたらしい。いろんな意味で俺の女神様だ。この邂逅だけで幸運値を上げ続けたことは間違いじゃないって言える。ありがとう女神様! 幸運万歳!!

 ふう……。


「……魂が壊れかかっていたんですか」


「それはもうボロボロでした。私のいる上位神界に連れてくるのにも苦労しましたよ」


 どうやらあと一度でも異世界転移していたら、直すために上位神界(?)に連れてくる、その刺激で壊れてしまうほどだったらしい。

 ぎりぎり間に合ったからよかったものの後少しで存在ごと消滅の危機だったらしい。


「女神様、ありがとうございました」


「いえ……。もう少し早くに気づければ良かったんですけど」


 ぎりぎりでも助けてくれただけで十分です。さすがに消滅はいやです。


 女神様はしばらく申し訳なさそうに俯いていたけど、顔を上げたときにはきりっとした顔つきになっていた。疑ってなんていなかったけど神だと実感させられる威圧感がある。


「これからのことについて話しましょう」


 壊れかけた魂は女神様が処置したのでひとまず問題はない。がこれ以上異世界と白い空間を行き来されても困るので女神様が直接特定の世界に送ってくれるそうだ。具体的には今まで訪れたことのある世界のどれか。訪れたことのある世界なんか地球しかないよと言いたいところだが女神様曰く記憶に残らないほどの時間ではあるが訪れてはいるという。

 あと大事なところでは俺の体。いくら安定したといっても壊れかけたことのある魂、これ以上変化させることは危険らしい。何が言いたいかって言うと……もう元の体には戻れないってこと。こんなことになるなら種族は頑なに人間にするべきだったかと思わないでもなかったが「もし種族が貧弱な人間のままだったら今頃消滅しているところでしたよ」なんて女神様が言うものだから今は納得してる。


 さて、もろもろを踏まえた上で俺はどこに行きたいか。

 選ぶなら二つ。

 地球に帰るか。幼なじみ達に会いに行くか。

 誰も知り合いのない世界もいけるけど、俺はまだそこまで人生リセットしたくない。


 真面目に考えてたらいつまでも結論は出ない。だからもう今の感情と勢いで決めようと思う。

 今俺の心を占めるのは、誰かに話したくてしかたない気持ち、だろう。幸運値の暴走とか、女神様に会ったこととか、非日常の話。

 たぶんこれに関しては家族はふさわしくない。

 ずっと一緒だった彼らだからこそ、異世界召喚なんて非日常に巻き込まれた仲間だからこそ言いたいことがある。聞きたいことがある。


 俺は幼なじみ達に会いに行こう。



「女神様、俺はフェールリア(勇者召喚の世界)に行きたいと思います」


「後悔はしませんか?」


 難しいことを言う。正直もう後悔するのは避けられないと思ってる。でも選択を覆すことはしない。


「その時は、幼なじみ達に愚痴に付き合ってもらいます」


 彼らはこころよく付き合ってくれると思う。そして話し終わったら今度は俺が聞くのだ、彼らの愚痴を。

 それくらいのことができないなら長年一緒になんていられない。


「そうですか」


 女神様は俺の言葉に何を読み取っただろうか。少し羨ましそうにも見えた。


「ではこれからあなたをフェールリアに送ります」


 俺の足下に魔法陣が浮かぶ。今まで見たどれよりも複雑で精巧だった。


「魂が壊れないように送ることを重視するのであまり細かく場所の指定をすることは出来ません。なるべく街に近い場所にするよう尽くしますが、どこに跳ばされるか予測が付きません」


 マジですか。


「申し訳ないですが勇者達のところまでは自力で行ってください」


「……頑張ります」


 いよいよ魔法陣が全身を包み始める。少し体が軋む気がする。魂が壊れかけてた影響だろうか。


「ほんの少しですが私の神力を流しておきました。お身体返します、あまり無茶はしないよう」


 その言葉を最後に女神様は姿を消した。一瞬自分が何かに押し込められる感覚を味わったが軋んでいる感じはしなくなった。


 もう魔法陣以外見えない。後数秒もすれば異世界に降り立つだろう。

 

 長くいたような、実際はそんなでもなかったような白い空間もこれで見納め。


「――いってきます」


 最後の挨拶はどうやら間に合ったようで。

 声が消えていくのと同時、俺は浮遊感を覚えた。





 

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