43 再会
前回更新から一か月、過ぎちゃいましたね。
ごめんなさい、遅くなりましたっ!
そのうえ少し短いです。
前回のあらすじ:孤児院に到着。金髪碧眼の少女、アステルシアと遭遇した。
陽光に照らされた庭に、歌声が響く。
優しく、緩やかに、流れるように。
激しく、艶やかに、跳ねるように。
一つの声を巧みに使い分け、時に純粋に、時には余韻すら利用する強かさを持って。
歌声の届く範囲だけ、より明るく輝いているような気もして。
まあ、何よりも、そんな歌声を奏でているのが自分だってことが信じられないけど。
観客は小さな子供たち。
目をきらきらさせて、食い入るように聞いている姿を見れば、この歌声が降って湧いた幸運で手に入れたスキルだってことも気にならなくなる。
手に入れて経緯が経緯だから、そんな後ろめたく思う必要はないと思うけどね。
周りを囲む幾人かの大人たちも、声もなくただ聞いている。
伴奏はない。
なくてもかまわない。
それならそれなりに、ひとりでも盛り上げられるように歌えばいいのだから。
カグヤがどこか悔しそうな目でわたしを見てるから、次歌うときは伴奏がつきそうではあるけど。
ふと、木陰に佇む少女と目が合った。
純金を溶かしたような髪。
透き通った青い瞳。
人形みたいに整った顔。
目が合ったのが不思議なのか、きょとんとする彼女の顔に、そういえばついさっきも見たなと思って少しおかしくなる。
彼女に小さく手を振りながら、再会したときのことが浮かんでくる――
● ● ●
「アステルシアさん……?」
「え?」
孤児院に入る門の前。
名前を呼ばれてこっちを向く彼女の顔にはやっぱり見覚えがある。
でも本人だとしたら、貴族の、しかも領主の娘である彼女が孤児院のお使いをしてるってことになるんだけど……なんかおかしいような。
何か事情でもありそうな予感がする。
一瞬きょとんとした顔をした彼女は、わたしと、隣に立つカグヤを見て目を見開いた。
「獣人の、双子……もしかして」
口元で呟くような声だったけど、かなり高性能な狐耳は余すことなく能力を発揮して、そのつぶやきを聞き取った。どうやら彼女もわたしたちのことを覚えていたようだ。
いや、会ったの一昨日だし、忘れられてたら少し悲しいけど。
「なんてーか、タイミング良いのか悪いのか」
カラジャスさんが後ろでポツリと漏らしたのが聞こえた。
「やっぱりアステルシアさんなんだよね。頬のけがはもう大丈夫なの?」
初めて会ったとき彼女はごろつきに殴られて右頬を腫らしていた。
今見るともう痕もないけど……。
「え、うと……それは大丈夫なんだけど……」
心配して聞いてみたら歯切れが悪い返事が返ってきた。
別に誤魔化すようなことじゃないと疑問に思って、よく見ると視線がたまにわたしから外れている。後ろを気にするようなそれは向きからしてフィンくんに向けられたものだ。
何か都合の悪いことでもあったろうか。
「姉さん、知り合いの方ですか?」
わたしたちの意識が自分に向けられたのに気づいたのか、フィンくんが話に混ざってくる。
彼のほうには特に含むところがあるようには思えない。
……んむ? 若干呆れてる?
「え、まあその……」
「なら僕は先に荷物を受け取って中に入ってますね」
「あ、うん。よろしく」
流れるような動きで荷物を受け取ると、フィンくんはそのまま孤児院の建物の中に入っていってしまった。なんというか慣れを感じさせる動きだった。
だけどその流れるような動きの中に、カラジャスさんを睨みつける一瞬があったのはなんでだろ。
なんとなく、みんなでフィンくんの背中を見送ってしまう。
「ん」
「…………」
「えっと……?」
「あー、とりあえず改めて自己紹介でもするか。ルシアのほうはこいつらから名前も聞いてねぇからな」
フィンくんの退場で動きの止まった場に切り込みをかけたのはカラジャスさん。
困ったような顔をしながらも目の奥に面白がるような気配がある気がする。
カグヤも気づいたようだけど、カラジャスさんの発言にバツの悪そうな顔をしたアステルシアさんは気づかなかったみたいだ。
まあともかく改めて自己紹介っていうのはいい案かも。
一昨日会った時は名乗る前にアステルシアさんいなくなっちゃったし。
「じゃあ改めましてFランク冒険者のヤクモだよ。今日は孤児院の手伝いに来ました」
「ん。同じく。カグヤ」
簡潔にまとめたわたしの自己紹介に乗っかって、さらに略した紹介をするカグヤ。
思わず視線を向けるも、涼しい顔で視線を逸らされた。
もう少し、この子も愛想よくできないものかな。
アステルシアさんはそんな短い紹介にも眉を寄せることなく、覚えこむように一度頷いて口を開いた。
「アステルシア・サザールです。えと、先日はいろいろと失礼しました」
ちょっと意外。
もっと貴族っぽさを意識したような堂々とした自己紹介をしてくるかと思ったら、なんか普通というか若干腰が引けてるようにすら思える。
「今はその、事情があってここの孤児院にお世話になってて。なのでここではルシアと呼んでほしい」
これには首を傾げざるを得なかった。
この前は貴族だって名乗ってたし、今も苗字付きで名乗ってる。廃嫡されたとかそういうわけでもなさそうなのに、孤児院で厄介になる必要があるのかな。
事情があるとは言ったけど、何か家にいられないようなもの……。
「ま、その辺にしとこうぜ。誰だって隠しときたいことくらいあるだろ? 事情は事情だって納得してくれよ」
事情について考え事をしてるのが伝わったのか、カラジャスさんが小声で割り込んでくる。
気になるけど、隠しときたいことなら無理に聞くわけにもいかない。わたしたちも人に言えない事情はそこそこあるし。
「これからよろしくね、ルシアさん」
「よろしく」
「こちらこそよろしく。……あと、呼び捨てでいい。わたしのほうが年下だし」
付け足された一言に目が点になる。
「――――え?」
「え、だってヤクモさんは冒険者資格を持ってるから十五歳以上だよね? わたしはまだ十三だから」
カラジャスさんに街を案内してもらってるときに聞いたことだけど、冒険者登録の条件に十五歳以上――つまり成人しているってことがある。わたしたちは条件を満たしてたから、ほとんど聞き流した情報だったんだけど……そういう条件があるってことは当然、冒険者っていうのは十五歳以上になるわけで。
十三歳であるルシアより年上になるのは間違いない。
ところで、ここでひとつ情報の補足をしよう。
わたしは特殊スキルの副効果で【空覚】……五感以外で空間を感じ取ることができるようになったわけだけど。
わたしから離れれば離れるほど精度は落ちていくとはいえ、今ルシアと向かい合っている距離くらいなら……指紋や髪の毛の本数、百分の一ミリ程度までの正確な身長を計測することだってできる。
そう、何が言いたいかっていうと――
――ルシアのほうが、若干わたしより背が高い。
「ヤクモ?」
「……――――っ!? な、なに?」
あんまり気にしないようにしてたけど、改めて突き付けられた身長の低さに、瞳が潤んで震えて――あ、やっぱ今のナシ。泣いてなんていません――いると、カグヤに肩を叩かれた。
思わず肩を跳ね上げて上擦った声で返すと、カグヤは珍しく驚いたような表情をしながらもすぐ答えてくれた。
「二人とも先に行った」
言われて目を向けると、ルシアとカラジャスさんが孤児院の建物に入っていくところだった。
呆然としてる間に話が進んでいたらしい。
「ん。院長に挨拶して、さっそく手伝いを始めるって」
「そっか。うん、聞いてなかった……」
反省。
とりあえず二人を追いかけて、それからしっかり働かないと。
一応これ仕事だったしね。
身長に関しては今更どうこうできないし、脇に置いておくとして。
まずはルシアに、わたしも呼び捨てでいいって伝えてこないと。
「あ、そうだカグヤ。ルシアが平均より身長高いって説は……」
「む? ルシアは確かに少し高めだけど。そこまででもない」
「そっか……」
次回更新はなるべく早く……できるかなぁ?




