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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第三章 異世界の街、そして出会い
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閑話 戦闘準備

幼馴染の双子の兄、紅樹視点です。

今回若干短いです。

 ギルド前の広場はひどく混雑していた。

 響く号令、商人の売り込む声、固い足音と重なる金属音。

 慌ただしく準備をする冒険者たちの中央には当然、今回の指揮官がいる。


 俺は彼に呼びかけた。


「ロナルドさん」


 使い込まれた革鎧を着て、周りの冒険者に次々と指示を出す男性は、今いる街の専属冒険者、Aランクのロナルドさんだ。街を離れられないギルドマスターに代わって作戦の指揮を執ることになっている。


「ああ? 誰だ、ガキの来るような場面じゃねーぞ」


「今回の作戦に参加する、Cランクの紅樹です。会議前に指揮官に挨拶をと」


 ギルツ王の推薦で、冒険者として旅立ったクラスメイトは全員Cランクスタートだ。

 勇者として戦闘力は十分だし……こうして大規模な作戦に参加させるのに、FやEでは話にならない。


「……そうか、おまえが例のやつか。もうひとりはどうした?」


「今は準備をしています。会議の内容は後程伝えるので問題はありません」


 嘘だ。蒼華は「会議なんて面倒だー」って言って逃げた。

 まああいつが会議とか話し合いとか、腹の中に何か抱えてそうな連中が集まる場が嫌いなのは知ってるから大目に見るけどな。

 今回のは作戦前のブリーフィング的なのだから、生き馬の目を抜くような会議にはならないはずだけど、真剣な会議中にいつものゆるゆるした雰囲気で話されても困るし。


「選択権はあったはずだが……本気で参加するのか?」


「ええ。今回の件は放っておくわけにはいきませんから」


 ギルツ王国からの指名依頼。

 城を出て一週間とちょっとでもう発動されるとは思わなかったが、出されたからには受けようと思う。

 夜雲の捜索も含め、国にはこれからも世話になるだろうから。


「分かった。俺個人としてはおまえらみたいなガキを参加させるのには反対だが、やる気と力があるなら貸してもらう」


 ロナルドさんは溜め息を吐く。

 俺たちみたいな若いやつも集めなきゃならないほど余裕がない。そんな状況に思うところがあるようだ。


「先に会議場所に向かっててくれ。俺は物資の最終確認が終わってから行く」


「分かりました」


「ああそれと。敬語はなしにしてくれ。似合わないし、戦場で堅苦しい言葉使う余裕はないからな」


「……了解」


 精一杯の敬語を似合わないと言われたことで憮然としつつ、彼に背を向けて歩き出す。

 会議場所にはギルドの一階ロビーを使うはずだ。


 人ごみの中、目的地までのルートを確認する俺に声が届く。


「魔族に奪われた街の奪還作戦。きついだろうが気張っていこうや」




 ● ● ●




 魔族。

 俺たちが勇者として召喚されることになった根本原因であり、夜雲含むクラスメイトの一部が行方不明になった遠因だ。

 最近になって存在を確認された種族でもあり情報量が少ない。その中で確定しているのは次のものだ。


 まず、魔族とは魔物の一種であるらしい。

 見た目は人族と変わりないが、心臓の代わりに魔石があるため心音がしない。

 保有魔力は人族より多いが、個人差があり強さが一定しない。平たく言えばDランクでも対処できる弱いのからSランクでぎりぎり競り勝てる強いのまでいるってことだ。


 次に、魔族には上位存在……指揮官がいるらしい。

 完全にそいつの指示に従って動いていて、魔族個人に自由意思はないようだ。

 自由にしているように見えても、それはその上位存在にそう命じられたからそうしているだけなのだ。

 ギルドでは、この魔族に指示を出している上位存在のことを「第八魔王」と仮称している。


 ちなみに余談だが、ゴブリンキングやオークキングなど、配下の魔物を強化し統率する魔物のことを「魔王」と呼ぶ。歴史に登場した順に番号が振られているらしい。


 閑話休題。

 最後に分かっていることは、魔族は転移石を量産する手段を持っているということだ。

 転移石は作るのにかなりの量の魔力が必要で、おいそれと使えるものではないのだが、なぜか魔族はそれを大量に所持していて突然現れる。

 魔族信奉者にも流れているらしく、夜雲たちが行方不明になったときにも使われている。



「それで今回落とされた街は、その転移石を使われて大量の魔族が街内に流れ込み、態勢を立て直せないまま街を奪われたらしい」


 魔族について復習がてら蒼華に説明し、ようやく本題に入る。

 会議はすでに終わり、今はもう奪還すべき街に向けて進軍中だ。


 街の騎士団や冒険者が大量に移動する様はなかなか圧巻だ。


「幸い逃げてこれた人は結構いるんだけど、帰るべき街がないんじゃどうしようもない。行き場のない彼らを受け入れた他の街も余裕がなくなってきてるみたいだな」


「だからこんなに人数を集めてさっさと奪還しようとしてるんだねー」


 そう、今回の奪還作戦はかなり大規模で、街四つ分の戦力を集中している。

 奪われた街は必要不可欠とまではいかないが交易街として重要らしく、このままだと被害がばかにならないらしい。

 俺たち以外の勇者も他の街から参加しているはずだ。


「でも、取り返せたとして、また同じように攻められる可能性もあるけど、そこはどうするんだろー?」


「たしかそこそこ大きな街には転移妨害の結界を張るって言ってたぞ」


 魔力消費が酷いことになりそうだが、安全には代えられない。

 魔族騒動が長引くとそれだけで人類は疲弊しそうだな。


「ま、なんにせよ転移石は厄介だな。どうやって大量に手に入れてるんだか」


「んー。気にはなるけど、とりあえず指揮官の第八魔王を倒せばそれで魔族騒動は終わるんだし、それを目標にしてたらいいんじゃないかなー」


「目標って……積極的に魔王討伐に参加するつもりなのか?」


 隣を歩く蒼華を見る。

 戦場へ向かっているというのにゆるい雰囲気は相変わらず。右手は腰に下げたぶきを触りながら、どこを見ているか分からない不思議な瞳をする。


「夜雲を見つけるのが最優先だけどね。でも、行方不明になった原因は魔王にあるんだし……いつかはこらしめてやらないと、ね」


 こらしめて、なんて言ってるが、蒼華の脳内では一体どんなことを想像しているんだろうか。

 与えられた特殊スキルを使えば読めるかもしれないが、知りたくない。

 表面だけ見れば微笑んでいるだけだが、長年の付き合いで分かる。


 どうやら蒼華は、深く深く怒っているらしい。


「ひとまず、街を奪った魔族は殲滅しないと。そんなに痛手じゃないだろうけど戦力は削れるときに削っておかなきゃ」


 それとも意外と蒼華は追い詰められているんだろうか。

 夜雲と出会ってから十年ちょっと。ずっと一緒だった相手といきなり引き離されて、ストレスが溜まったりしてるんだろうか。


 微笑みの裏に何かが隠れてそうな蒼華から目を離し、俺も遠くの空を見た。


 夜雲、どこにいるかは分からないが、なるべく早く帰ってきてくれることを祈っている。

 兄として情けないが……俺じゃ蒼華を御しきれないかもしれない。



 

閑話と言いながら魔族の説明回みたくなった……。

それでも双子が忘れられないために双子の話を書いておきたかったんだ……。


次から第四章です。

なるべく早く始めたいけど、どうなるかな……。


18/3/7 誤字修正

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