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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第三章 異世界の街、そして出会い
40/56

39 依頼達成

200,000PV越えました!

いつも読んでくださりありがとうございます!


今回ちょっと早足気味です。あと見直しあんましてないです。


前回のあらすじ:龍を倒した!

 試合に負けて勝負に勝った。

 なんとなく違う気もするけど、そういうことだろう。


 龍が気絶したせいか竜結界が解除されたのを【空覚】で感じながら、戦いが終わったことを悟る。


 漆黒の骨腕に押さえつけられ半ば地面に埋まった龍はピクリとも動かない。

 たぶん死んではいないと思うんだけど、結構な勢いで叩きつけられていたからちょっと心配。


 いや、魔物だし、心配に思う必要はないんだろうけど……。


 少し休んで動くようになった体をゆっくり起き上がらせて一息吐く。

 魔力がなくなっても身体的な問題はないはずなのに、ほとんど魔力を使い切った体はどことなく重い気がした。


「凄いじゃない、ヤクモちゃん!!」


「わわっ」


 大きな声を上げて抱きついてくるレーシアさん。

 駆け寄ってくる勢いのまま抱きついてきたので、疲れた体では受け止めきれず倒れこんでしまう。


「ひとりで龍をたおしちゃうなんて、まるで英雄譚のようだったわ! 弾ける魔力光も、しなやかな体術も、流れるような連撃も、見たことない召喚魔法も、凛々しい表情も揺れる尻尾も少しはだけた服装も! 途中ひやっとした部分もあったけどそれも含めてもう、もう素晴らしかったの!!」


「れ、レーシアさん、近いよ……」


 ぶつかりそうなほど近くにまで顔を寄せてきたレーシアさんをなんとか押し返す。


 なんかキャラが違うレベルで興奮してる。わたしを抱きしめる腕はかなり力が入ってるし、早口でまくしたてるから何言ってるか分からないし、目がかなりキラッキラしてる。

 もう少し落ち着いた人だと思ってたんだけどな。

 龍に襲われたのが性格変わるほどショックだったのかな……。


 ちなみに狼たちもわたしの健闘を称えるように周りに集まってきてる。

 レーシアさんと違って寄り添ってくる感じ。体全体に感じるもふもふさと体温に少し癒される。だけど顔を舐めるのはやめてほしい。


「ふぅ……。ごめんなさい、少し正気を失ってたわ」


「……大丈夫?」


「ええ、問題ないわ。むしろ世界が鮮やかに輝いて見えるくらい」


「…………」


 それ、大丈夫じゃない気がする。

 落ち着いた風に見せながらいまだわたしを離さず、恍惚とした表情をする今のレーシアさんはやばい状態な気がする。


「えと、レーシアさん、そろそろ離し――」


「思ったより抱くのにちょうどいい大きさ柔らかさ……このまま捕まえてわたしのにしたいわ」


「…………っ!?」


 いつまでも抱きついていられると戦いの後始末ができないし離れてほしいと言おうと思ったんだけど、言い切る前に聞こえたレーシアさんの呟きが不穏すぎた。なんか本気っぽい声音に背筋が凍った。


 冗談だよね?

 ちょっとテンションがおかしくなってるから、口走っちゃっただけだよね?

 力はわたしのほうが強いはずなのに絶妙な力具合で抜け出せない抱き方とかはたまたまだよね?


 わたしの首筋に顔をうずめているレーシアさんの顔は見えない。


 ……わたしなんて捕まえて食べてもおいしくないですよー。


「わたしなんて捕まえて食べてもおいしくないですよー……」


「あら、そうかしら?」


 思わず漏れ出た声に反応してレーシアさんが顔を上げる。

 ようやく見えた顔はどこか妖しく微笑んでいて……一瞬、目を奪われた。


 動きの止まったわたしを押し倒して、レーシアさんが覆いかぶさってくる。

 優しく顎に手を添えられて、少し上を向かせられ、そんなわたしの顔を覗き込んでくる。


 無意識に喉が、こくりと鳴った。



「わたしには――――とても魅力的で、美味しそうに見えるわ」



 深く、深く笑うレーシアさんの、目は、捕食者のようで――。


 レーシアさんが顔を動かしたとき、不覚にも、目を瞑ってしまった。


「……残念だけど、この場は引いたほうがよさそうね」


「ふぇ?」


 数秒たって、レーシアさんの呟きが聞こえて恐る恐る目を開けたわたしが見たのは、わたしから離れ立ち上がるレーシアさんと。


「ヤクモになにしてるの」


 目を吊り上げ、この上なく不機嫌な雰囲気を醸し出し、なぜか右手に小さくなった龍をぶら下げる、カグヤだった。




 ● ● ●




 魔力から生まれた魔物には稀につくらしい【身体魔力構成】の特殊スキル。

 これはなんと自分の体を、魔力を用いてある程度自由に変えられるスキルらしい。

 あまり種族の形から大きく外れることはできないけど、大量の魔力を使って体を巨大化させたり、逆に身体を魔力に変換して溜めこむことで小さくなったりもできるようで。

 さっきまで戦ってた龍が三十センチちょっとの長さになってるのはこのスキルが原因らしい。


 カグヤになかば押し付けられるようにして預けられたその龍は、わたしの腕の中で震えている。

 わたしも少しずつ後ずさりながら狼たちの集団に混ざるようにして座り込む。

 狼たちは突然の乱入者にも関わらず暖かく迎えてくれた。腕の中の龍を舐めた猛者が苦そうに顔を歪めたのは見てて驚いたけど。


「…………」


「…………」


 うん、もふもふの狼たちに囲まれた癒しスポットに逃げ込んできたわたしの判断は間違ってなかった。誰も一言も発してないのに空気が重すぎる。

 なんというか睨みあうふたりの間の空間が冷や汗をかきながら縮こまっていくのが見える。

 いや、さすがに比喩だけど。


 そんな一触即発の空気を破ったのは、まるで仮面のような微笑みを浮かべたレーシアさんだ。


「ヤクモちゃんにそっくりのあなたは、お姉さんのカグヤかしら?」


「そう」


「わたしは冒険者のレーシア。これから結構関わることになると思うわ。……よろしくね」


「…………」


 限界まで張りつめた空気を仮面っぽいとはいえ微笑んで渡っていくレーシアさんはさすがというかなんというか。睨みつけるようにするカグヤは初めから敵愾心マックスで挨拶すら返さない。

 なんか見てるだけで具合悪くなってきそうな感じだよ。

 戦闘後の精神に地味に響く。

 衝動的に近くにいた狼の背中に体を預けると、最初はさすがに驚いたけどすぐに「しゃーねーなー」みたいな雰囲気で背中貸してくれた。よくできた狼たちだ。

 ふわふわー……。


「挨拶くらい返してくれてもいいんじゃないかしら?」


「おまえと仲良くする気は。ない」


 あ、今いっそう空気が冷えた。

 こういう雰囲気に慣れてるのか平然としてた狼たちも全員一斉にびくってなってた。


 どうしよう、仲裁したほうがいいかな。

 でもこの二人の間に踏み込む勇気は持てない。

 二人が反発しあってるのはわたしが原因な気がするから、わたしが止めたらどっちも引いてくれそうではあるんだけど……。


「ヤクモから離れろ。ヤクモはわたしが守る」


「あら、肝心な時に間に合わなかった子が言うじゃない」


「…………っ!」


 カグヤの表情が歪む。

 周囲の空気に一瞬、殺気が混ざった。


「……ただ見てただけのやつに言われたくない」


「たしかにね。わたしは役に立たなかったわ。その点ではあなたに何か言う資格なんてないのかもしれない」


 でも、と彼女は続けた。


「『守る』なんてさっき間に合わなかった時点でただの欺瞞よ。どれだけあなたに力があろうと『その場にいれば守れた』なんてただの言い訳」


「…………」


「それが分からないなら……あなたいつか大切なものを取り落すわ」




 ● ● ●




 森の外に出るころには、太陽はだいぶ傾いていた。しばらくしたら空が朱く染まりだすだろう。

 少し急がないと閉門の時間になって街に入れなくなるかもしれない。


「ほ、ほら。きりきり行かないと夜になっちゃうよ!」


「そうね」


「…………」


 さすがのわたしも顔が引きつる。

 みんなの間に漂う空気がもう冷たくてひび割れてどうしようもない。

 やっぱり勇気だして仲裁に入るべきだったかな……。今さらどうしようもない考えだけどさ。


 結局カグヤとレーシアさんの言い争いはなんとなくうやむやのままに終わってしまった。

 発散しきることも解決することもなかったぴりぴりする空気は今も散ることなく辺りに漂っていて非常に居心地が悪い。


 右側にはわたしの腕を抱くように組むカグヤ。

 左側には狼たちを異空間の【飼育小屋】に帰したレーシアさん。


 ふたりに挟まれた状態じゃひとりだけ逃げることもできない。


 少しだけ早足で歩きながら解決策を考えるも、普段あんまり頭を使ってないわたしには荷が重く。

 頭から湯気が出るような気分で悶々としていた。


「ヤクモ」


 わたしに体ごと顔を近づけたカグヤが小声で話しかけてくる。


「本当に連れていくの?」


 覗き込むようにしてカグヤが見るのは被りなおしたフードの中。

 その中には、わたしの首に隠れるようにして緑色の龍がいる。


「うん。うまく【契約】も出来たしね」


 ふたりが落ち着いた後、龍をどうするかって話になって、なんとなくふたり(一人と一匹?)で震えてるうちに連帯感と言うか仲間意識というかが芽生えてたのでとりあえず使役テイムしてみることにした。

 というか、しないとカグヤに殺されちゃいそうだった。


 召喚魔物付きとはいえ倒したことは倒したので【契約】はあっさりすぎるほどうまくいった。

 向こうも少しはわたしに懐いてくれてたんだろう。

 カグヤが怖かったからじゃないはず。


「でも。ヤクモを傷つけた」


「あのくらいなら平気だよ。かすり傷くらいだったし、もう治ったし」


 まだ納得してないカグヤに苦笑で返す。

 スキルのおかげとはいえすぐ治る程度の怪我なのにカグヤは認められないらしい。


「むう。ならせめてヤクモにふさわしいよう教育する。幸運の女神(ヤクモ)の神獣候補」


「……あんまり厳しくしないであげてね?」


 恐ろしい未来を幻視でもしたのかフードが小刻みに震えてるから。


 あ、ちなみに龍の名前はリンドウになった。愛称はリンちゃん。

 由来はわたしの誕生花である竜胆から。ドラゴンだし、瞳青紫色だし。


 ……それにしても、"龍との契約"なんて一大イベントなのに、なんでこんな影が薄くなっちゃったんだろ。

 つ、次の機会にはちゃんとかっこいいところ紹介してあげるからね、リンちゃん!


 やるせない気持ちが冷たい空気に新しく混ざりながらも街まで歩く。




 幸い街では特に問題が起こることもなく、カグヤと合わせ薬草六十本を納品し銀貨一枚半を受け取った。

 初依頼にしてはかなり濃密な体験だったと思い返しながら、レーシアさんが同じ宿に泊まるとなってからずっとご機嫌斜めなカグヤをなだめながら、眠りにつく。


 せめて明日はもう少しでも落ち着いた日であることを祈ろう……。




 

美味しそう(意味深)。

ぷち修羅場ですが作者の技量がないせいでそんなでもなかった。

そして話題に置いてかれるリンちゃん……。


まあ、とりあえず長くなってきたのでここで一旦章区切ります。

閑話挟んで次の章、やっと(ほんとにやっと)物語が動きます!

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