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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第三章 異世界の街、そして出会い
32/56

31 一日の終わり

風邪ひいたりリアルの予定に押されたりしてるうちに遅くなりました。

しかも誤字脱字、誤表現多いかもしれないです……。

「あれ、なんだか違う気がする……。貴族的には平民と同じ位置に立つわけにはいかないから窘める必要があるはずだけど。そもそも今の態度は恩人に対するものではないんじゃないだろうか? 高圧的な口調はお淑やかであるべき伯爵令嬢には相応しくなさそうだし。い、今から取り繕って誤魔化せるかな……」


「…………えっと」


 助けた(わたしが、じゃないところが残念だけど)少女はアステルシア・サザールという名前らしい。貴族しか名乗れない苗字を持っていてしかもこの街の名前と同じなのを考えると領主の娘なんだろう。


 イメージだと貴族というのはもっと堂々とした人たちだったんだけど偏見だったらしい。


 無理して捻り出しただろう高圧的な宣言をした後急に俯いてしまった。

 なにやらぶつぶつと声が漏れ聞こえているけど呟いてる本人は気づいてなさそうだ。ツッコミどころは多そうな呟きだけど聞いてない振りしてるべきかな。


 声も掛けられずただじっと見守ることしばらく。

 少女……アステルシアさんは勢いよく顔を上げて言った。


「助けてくれてありがとうだがわたしは貴族であるゆえ市井のものと軽々しく触れ合うわけにはいかず勉強中の身であるため非礼な態度をとっていたかもしれないですけど許していただきたくこの褒美は後できちんと渡すので感謝するのですわ!」


「………………」


 早口なうえ内容が滅茶苦茶すぎてなんて言ってるのか理解できなかった。口調がぶれまくりなせいもあると思う。

 というか、目が回ってるのを見る限り言った本人もなんて言ってるか分かってないんじゃないかな。


 どうしよう、どんな反応をすればいいの?


「なにこれ」


 頼みの綱のカグヤも呆然としていて助けてくれそうにない。


 微妙な沈黙が流れる。

 わたしは何か言おうとして思いつかず口を開いては閉じて。

 カグヤは困惑気味の表情のまま口を結び。

 アステルシアさんはさっきの発言の支離滅裂さを理解してきたのか顔を真っ赤にして震えている。


 ……誰かこの状況なんとかして。


「あー……あいかわらず迷走してるな」


 そう思った時だった。そんな呟きが後ろから聞こえた。

 固まった空気を振り払う絶好の機会を逃さないよう全力で振り向けば二十代くらいの青年の姿。

 ……あ、実質的に男達を追い払ってくれた人か。アステルシアさんのインパクトが強すぎて忘れてた。


「う、うるさいっ! これでも頑張っているんだぞ!」


「努力してるのは知ってるが……素が出てるぞ」


「う」


 青年とアステルシアさんは親しげに話している。"あいかわらず"って言ってたし、知り合いなのかもしれない。

 領主の娘と知り合いってことはこの青年も偉い人だったりするのかな。

 全然見えない。


 微妙な空気はすでに払拭されていたけど二人の会話に割り込むこともできず、かといって勝手に立ち去る雰囲気でもなく、カグヤと並んでただ見守る。


「傷大丈夫か」


「このくらい平気だ……です」


「無理するなよ」


「心配はいりません」


 青年と話すうちに興奮していたアステルシアさんも落ち着いてきたらしい。口調と態度が大人しくなっていた。


「みなさんにはお世話になりました。重ねて感謝申し上げます。……では、わたしはこれで」


 最初とは違って楚々とした雰囲気を纏ったアステルシアさんは丁寧に頭を下げるとゆっくりと去っていった。周りで見ていた人たちも自然と道を空けるような、一見堂々とした動き。


 ただ空覚でその動きを追う限り、わたし達から見えなくなったところで全力疾走を始めている。

 やっぱりいたたまれなかったのか。内心は穏やかではなかったよう。


 嵐のようだったアステルシアさんの動きをしばらくぼんやりと追っていると、声がかけられた。


「おまえら名前は?」


 さっきまで同じくアステルシアさんが去っていった方向を眺めていた青年がこちらに向き直っていた。


「ヤクモです」


「…………カグヤ」


 素直に名前を答える。

 不思議なことにカグヤが答えるまでに少し間があった。

 よっぽどさっきの一幕が衝撃だったのかな。


「ヤクモにカグヤな。俺はカラジャス。Bランクの冒険者だ」


 軽く微笑みながら自己紹介した青年……カラジャスさんは片手で頭を掻きながら続けた。


「困惑したかもしれないが……悪いやつじゃないから。あんまり気にしないでやってほしい」


 それだけが言いたかったようで、そのままわたしたちの返事を聞くことなくカラジャスさんも背中を向けて去っていく。アステルシアさんが向かったほうと同じだった。


 そしてわたしとカグヤだけが残る。


「わたしたちも行こうか」


「ん」


 ふたりきりになったせいか周りの音が良く聞こえる。結構騒がしくなっていて視線も集まっていた。

 ここはさっさと退散するのがいい。


「そろそろ宿に戻ったほうがいい時間帯かな」


 ふと空を見上げると太陽はだいぶ低くなっていた。もう少ししたら空が赤くなりそう。

 家に帰る時間、そう考えたら少し疲れを感じた。


「ん。膝枕してあげる」


「遠慮しとく。さすがに恥ずかしい」


 真顔で言ってくるカグヤに軽く返しながら歩きはじめる。

 歩きながらちらっと二人が去っていったほうを見たけど、当然姿は見えなかった。




 ● ● ●




 有言実行するため串焼きのおじさんのところによって、ちゃんと自分のお金で買って【倉庫】にしまっておく。すぐにでも食べてしまいたいくらいにはいい匂いをさせていたけど、宿に帰るまでに結局寄り道してしまったりして夕食の時間になっていたから諦めた。

 冒険者の人達が帰ってくる時間帯だったのかそれなりに並んでいて、失礼ながら少しほっとした。


 夕食時の宿屋(一階部分が食堂を兼ねてる)は大変混雑していた。

 わたしたちは宿泊客なので夕食分は無料。定食みたいにお盆に乗った夕食を受け取って空いていた席に着く。

 さて、異世界初の夕食だ。


「ヤクモ。お酒は別料金だって」


「ふぅん?」


「飲まないの?」


「飲めないよ」


 いざ食べようとしたらなぜかカグヤがお酒を勧めてくる。

 わたしまだ十五歳だからお酒飲めない……いやフェールリアでは十五歳から成人(つまりお酒飲める)なんだっけ。そうなると少しお酒の味が気になってくるような。


 いややっぱり止めとこう。お酒飲むと味分からなくなるって言うし。

 今は夕食を味わうのに全力を尽くすんだ。


「ん」


 カグヤもそう強く勧める気はなかったのかあっさり引き下がる。

 こころなしか残念そうに見えるのは……やっぱり気のせいかもしれない。


「いただきます」


 両手を合わせてから食べ始める。

 箸がないのに少し違和感を覚えたけどそんなことは空腹の前には些細なことだ。


「おいしい!」


 日本の食事に慣れた身としては見た目寂しく思えたけど、こう……奥深い味がある。

 これが素材の味というものかな。料理人の腕かもしれない。


「ヤクモが気に入ったみたいでよかった」


「もぐもぐ」


「ヤクモ?」


「むぐむぐ」


 カグヤが話しかけてきてるけどわたしは今食べることに夢中なので身振りで返す。

 カグヤが首を傾げて訝しげな視線を向けてきたけど無視して食べる。


「必死になりすぎじゃ」


 そうはいってもねカグヤ。

 ここは日本とは違っていつでも同じ味が食べられるような世界ではないんだよ。

 つまりおいしいものと出会ったら迷わず食べないともう巡り会えないかもしれないってことなんだよ!


「でもここの食事は明日も食べられるけど」


「…………」


 カグヤの指摘に冷静さが戻ってくる。

 そうだったね、わたしたちはここに泊まってるんだから少なくとも後二日はここで食事をとるんだよね。

 必死になる必要はどこにもない。


 口の中のものを飲み込んで、水を飲んで一息つく。


「おいしい?」


「…………おいしい」


 なんだろう、ものすごく何かが恨めしい。

 何が恨めしいのかよく分からないけど恨めしい。


 どこか生温かさを感じる視線を受けながら、しっかりと味わって夕食を食べた。

 とてもおしいかった、と思う。




 ● ● ●




 夕食も終わって、夜。

 日は完全に落ちて部屋は薄暗い……のが普通なんだけど、この部屋は聖炎が付与されているからわずかに光を放っていて(眠りを妨げるほどではない)さらにカグヤが魔法で明かりを生み出してるからそこそこ明るい。

 わたしも早く魔法使えるようにならないと……。


「もうフード脱いでもいいよね?」


「ん」


 カグヤから許可が出たのでフードを外す。

 ゆったりした作りのフードだしそこまで窮屈さは感じてなかったけど、朝からずっと被りっぱなしだった分外すと開放感がある。

 遮られていた風が頬にあたって、なかなかに気持ちいい。


 気持ちが緩んだのか眠気もやってきて思わずベットに倒れこむ。


「寝るなら着替えてから」


「うー……」


 そのまま意識を落としてしまいそうだったところにカグヤからの指摘。

 うつぶせに倒れこんだまま生返事を返す。


 ベット自体は日本のとは違ってあんまり柔らかくない。柔らかい布を何枚か重ねた程度だ。

 だけど聖炎が付与されてるし、もう暖かい毛布にくるまれれば十分なくらいには眠い。動きたくない。


「ん。わたしが着替えさせてあげる」


「…………いや自分でやる」


 高校生にもなって誰かに着替えさせてもらうのはナシかなやっぱり。

 女子の服にも慣れないといけないし。誰だボタン付き方逆にしたの。


 男だったころなら着替えずに寝ることもけっこうあったんだけどね。

 さすがに今それやるとせっかくきれいな服がしわくちゃになっちゃうし、後でアーシュに何か言われそう。


 とりとめもないことを考えながら緩慢な動きで起き上がる。


 ぼんやりと横を見ると、カグヤも着替えてるところで、白い肌を惜しげもなく晒していた。


「…………」


 無言で目をそらす。

 うーん。少し顔が赤い気がする。自分の体には慣れたつもりだったけど他人の体だとやっぱり違うものらしい。


「ヤクモ?」


 いや生まれつきの女の子だってそんなみだりに肌を晒したりしないはずだし、わたしの反応は普通なんじゃないかな。カグヤの体つきは造形美と呼べるレベルだし顔赤くしてもしても問題ないよね。


 ……だめかな。同性の着替えを見て頬を赤くする女子って多分変だよね。


 うん、ここはぽーかーふぇいすで、極力気にしない方向でいこう。

 わたしがアーシュの教えを完璧にするのはもう少し先のことになりそう。


「えい」


「っ!?」


 考えをまとめて、【倉庫】から寝間着を取り出す。着るために服を脱いで、替えの服を手に取った時に背中に重みを感じた。

 そのままわたしに巻きつくように両腕が回される。


 誰だ。いやカグヤしかいない。

 この部屋には二人しかいないんだから当然だ。


 ただ問題は、背中にあたる感覚からして……カグヤが何もつけてないだろうことだ。


 さっき意識したばかりだからか勝手に鼓動が早まる。


「……か、カグヤ?」


「ん。さすがのヤクモもこれには動揺するらしい」


 満足げな声が耳元で聞こえたかと思うとすぐにカグヤは離れていった。

 ひとまず胸をなでおろす。


 なんかすごい緊張した……。


 ささっと着替えを終えて肩越しに様子を窺うと、カグヤも着替え終えていた。

 常の無表情を崩し微笑みを浮かべ、鼻歌まで聞こえてきてとても機嫌がよさそうだった。



 あー……なんかいろいろあって眠気が飛んでいってしまった。

 特にすることもないからベットには入るけど。


「明かり消す?」


「んー。そうだね、お願い」


 カグヤが魔法で浮かべていた明かりを消す。

 こころなしか聖炎の光も弱まったように思えた。


 部屋が暗くなると単純なもので、一時の興奮によって吹き飛んでいた眠気はたやすく戻ってくる。


 今度こそ本当に意識が落ちていく……。


「ヤクモ」


「……ん~」


 ぼんやりとした頭に小さく声が届く。


「おやすみ」


「……うん、おやすみ……」


 応えるように呟いて、わたしの意識は眠りの中に引かれていく。




 

一週間に一回は更新したかったんですが、これからはそれすら難しくなりそうです。

気長に待っていただけると嬉しいです。

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