29 兄姉
―――――叡智の書庫:情報表示―――――
【九尾化】
尾を増やし、その数に応じて使用者の力を増幅する。
最大で九本まで増やすことができる。
【妖術】
一部の上位獣人種が持つ特殊な魔法。
通常の魔法とは異なり妖力を消費して発動する。
【竜纏】
魔力を消費し竜の力を身に纏い、身体能力を向上させる。
体内魔力を竜属性に変換する。
【遠距離狙撃】
遠距離の対象への行動に補正がかかる。
遠距離まで視界が届くようになる。命中率・射程距離が向上する。
【虹色魔法】
体内魔力をあらゆる属性の魔力に変換できる。
変換した魔力を用い魔法を放てる。複数属性の魔法を行使できる。
【身体能力強化】
身体能力が世界からの補正を受け強化される。
身体組成が変化しているわけではなく世界からの補正のため見た目は変わらない。
【精神耐性】
精神攻撃に対する防御能力が向上する。
【契約】
対象と契約しその行動を縛る。
契約に違反した場合設定した罰を受ける。
【音楽】
音楽に関する技能に補正を受ける。
歌唱、演奏、舞踊等、音楽に少しでも関わるものへの才を得る。
【九尾化】【妖術】は種族スキル。
【竜纏】は職業スキル。
【多世界統合式魔導闘術】は前に見たから跳ばして、残りが通常スキル。
こうして見ると、けっこういろんなスキル持ってたんだねわたし。
意外と強いんじゃないかな。
全属性の魔法に、近距離の魔導闘術、遠距離での狙撃と攻撃手段は豊富。
【身体能力強化】は常時発動だから素の肉体も弱いわけじゃないし(そもそも肉体的な強さが長所の獣人種だ)、【九尾化】【竜纏】をプラスすればかなりの強化だ。
【魔導機関〈Vital Note〉】で怪我からの回復力も高い。
「使いこなせたらの話」
淡々とした声のカグヤ。
その手元にノートはなく、特訓のメニューは決まったらしいことが窺えた。
じっとわたしを見つめる目は「油断大敵」とでも言いたげに細められている。
……うん分かってるよ。
たとえLV10のスキルだろうと使いこなせなきゃ意味ないのは森の移動中に経験したことだ。カグヤの心配を押し切ってまで危険な冒険者になろうというのだから最低限スキルに振り回されるようなことだけはないようにしないといけない。
でも魂の、ひいては存在の消滅ぎりぎりまでいって手に入れた力なんだし、少しくらい浮かれるのは見逃してほしいかなって。
「ダメ」
「……はい」
有無を言わせない目。
これ以上反抗すると特訓内容を増やされそうなので素直に頷く。
「情報の確認は終わった?」
「まだ称号が残ってる」
意外と時間かかるね情報の確認。
先延ばし先延ばしにしていたのが悪かったのだろうか……。
「ん。ならいい。先に特訓する」
「え?」
「最低限自分のスキルが分かってたらできる」
素早く腕を掴んでくるカグヤに反応できない。
「今から!?」
「始めるなら早いほうがいい」
それは分かるけど。
時間たってからだとなけなしのモチベーションも下がってしまいそうだけど。
心の準備が!
焦りで普段以上に回らない頭と口でなんとか逃げ出そうとするけれど、カグヤはボス扱いなのかにげることができない。いや単に実力差かな。
あっ。
反抗してるうちにカグヤの目がだんだんと細まってきてる。
「……ヤ」
――ヴヴヴ……。
カグヤが何か言おうとした瞬間、握り込んだプレートが震え出す。
着信があったケータイみたいな震え方。
カグヤは開きかけた口をむっと閉じて、わたしはそんなカグヤの様子を気にしながらも内心歓喜していた。
――神に祈りは届いた!
「………………む」
出鼻をくじかれたのが不満なのか、カグヤはものすごく不服そうな顔をする。
何も言わないし腕も放してくれないけど、黙ったのでこれは通話に出てもいいってそういうことだよね。
そうする。
光が瞬くよりも早く結論づけると飛び付くように通話に出る。
現実逃避にすぎないと分かっていながら意識をカグヤから逸らすことを止められない。
「も、もしもし?」
カグヤとの無言の問答の間もずっと震え続けていたプレートを操作し耳にあてる。
きっとアーシュだろうと思っていたんだけど予想とは違う人(神?)だった。
『あ、妹ちゃん? ノルンだよ。無事街に着いたみたいでなによりだよ』
聞こえてきたのは底抜けに明るいノルンの声。
何かいいことでもあったのかな。
あとなんで街に着いたこと知ってるのか。
『妹ちゃんのことはちゃんと上から見てるよ』
プライバシーの侵害だ。しかも上からって。
まさに神の視点?
防ぎようがないよ。
『ま、それはおいといて。妹ちゃんに伝えることができたからこうして連絡したよ』
「うん、それは分かったけど……アーシュは?」
タイミングに関してはむしろ良くやってくれたと言いたい。
でもノルンが連絡役というのには少し驚いた。アーシュならこういうときすかさず立候補しそうなものだけど。ノルンに「妹離れ」とか言われてたし、実は忙しいらしいのが発覚してるし、もうそう簡単には連絡できないのかもしれない。
『……やっぱりお姉ちゃんのほうがよかった?』
「そういうんじゃないけど」
からかうような口調に憮然と返す。
『ちょっと拗ねてるだけだから、後三十分もしたらアーシュからも連絡来るんじゃないかな』
「ふーん……?」
気のない声でぼんやりと返事する。
期待なんてしないよ。
『ふふ。……じゃあ本題に入るよ』
「うん」
『妹ちゃんにね、新しい称号が贈られることになったよ』
称号……?
そういえばさっき情報を流し見た時に〈(協議中)〉とか不思議な称号があった気がするけど、それのことかな。
でも称号取得ってわざわざ神様直々に伝えてくれるようなものではないと思うんだけど……。
そんなささやかな疑問は、次のノルンのセリフで粉々に吹き飛ばされた。
『妹ちゃんには新しく二十三柱の兄姉ができました! これで妹ちゃんも神様ファミリーの一員だね!』
「…………え?」
わたしはきっと分かりやすく呆然とした表情をしてるだろう。
少し時間たった今でも何て言われたか理解できてないもの。
新しく兄姉? 二十三柱? 人じゃなくて?
それにいきなり神様ファミリーとか言われても……勝手に神様にされたとかいうわけじゃないよね。
思わずプレートを耳から離して情報を確認するけど、種族は天狐族のままだった。
なんとなく安心。
『アーシュが妹ちゃんを占有しようとしたら他の神族から猛反対にあって、最終的に共有財産みたいな形に落ち着いたの』
「なんだか物みたいな扱いなんだけど」
あ、「物みたいな扱い」の部分でカグヤが地味に反応した。
プレートの音はカグヤには聞こえてないから余計内容が気になるのかもしれない。
『いやー、危うく妹ちゃんを巡った戦争が起きるところだったから。……あんまり間違ってもないのかも』
「…………」
戦争って。わたしを巡った戦争って。
なんだろう、神様たちって仲いいんだね、って冗談でとればいいのか。
それとも……ガチで血みどろなのを連想すればいいのか。
『まあ妹ちゃんは裏事情を気にすることなく猫可愛がりされてたらいいと思うよ』
「いくらわたしでもその話を聞いた後で素直に甘えることはできないよ……」
しばらくは【叡智の書庫】には近づかないほうがいいかもしれない。
神様たちが落ち着くまで。
『称号の効果はプレートで確かめてね』
「うん、分かった……」
最後にそれだけ言って通話は切れた。
現実逃避の先で、壁ではないけど何か得体の知れないものにぶつかってしまった気がする。
神様の寵愛を受けた人間ってどうなることが多いんだろうね。
どなたか神話に詳しい人はいませんか。
「……何の話?」
蚊帳の外だったカグヤの困惑気味なセリフ。
わたしも理解する時間が欲しかったから少し考え込んで、端的にまとめてみる。
「なんていうか……兄姉がいっぱいできたんだって」
「む?」
うん、ますます不思議そうな顔をするカグヤには悪いけど、これでいいんじゃないかな。
その兄姉が神様だとか、二十三柱もいるとか、その背景に戦争の影がちらつくとか、そういう細かい事情は置いておいてこういうことだよねきっと。
「……とりあえず称号を確認する時間をください」
「……ん」
今度はあっさりと腕を放してくれたからとりあえずベッドに座って、新しく増えた称号を確認する。
―――――叡智の書庫:情報表示―――――
称号【熾天使契約者】
熾天使と契約し主となった者に与えられる称号。
下位天使から好意的に見られるようになり、"格"が向上する。
称号【神々の義妹】
二十三柱の神族に妹と認められたヤクモに贈られる称号。
神族の権能に応じた能力が強化され、二十三柱の神とのつながりを得る。
あと〈統一神の妹〉っていうのも確認した。
感想を述べるなら、スキルより称号のほうがやばい効果をもたらしているんじゃないかなって。
ちなみに「つながりを得る」っていうのはプレートの連絡先に神様たちの名前が追加されるってことだった。三十分後にかかってきたアーシュとの通話で知った。
アーシュは自分だけがわたしの姉でいたかったらしく声だけでも十分に拗ねているのが分かったので、「お姉ちゃんが一番好きだよ」って言ってあげた。
……すごく恥ずかしかったけど、元気になったみたいなので良かった。
さらに蛇足するなら、追加された連絡先の中にノルンの名前もあった。
客観的な感じで連絡してくれたにも関わらずノルンも当事者だった。
なんというか実感がなく、ふわふわした感覚を覚えていたせいかカグヤが今日の特訓は取りやめにしてくれたんだけど、素直にうれしいとは思えなかった。
意外と文字数かかるね説明回。
先延ばし先延ばしにしていたのが悪かったんだろうか……。
というのはおいといて。
タグにも「妹」を追加しました。
ノリで。




