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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
序章 幸運の定義は人それぞれ
3/56

3 白い部屋にて(1)

 

 

 

〈異世界召喚プログラムが発動しました〉

〈対象42名を確認〉

〈対処を検討…………個別サポートシステムを起動します〉

〈召喚後の世界の理に合わせた身体に対象者を変化させます〉

〈特典:勇者召喚を確認。対象に特殊スキルを付与します〉

〈対象の混乱を防ぐため情報を付与します〉


〈規定プロセスの達成を確認〉

〈後の行動は各個別サポートシステムに一任します〉




 ● ● ●




「あれ……ここは?」


 教室に浮かんだ魔法陣。それが明るく輝いたと思った次の瞬間には真っ白い空間にいた。壁も天井もなくどこまで続いているのか、それとも実はとても狭い場所なのか、それすら分からない。

 周りにいたクラスメイトの影すら見えず、ひとりきりだった。

 一体何が起きた?


 混乱する俺のすぐ前に滲み出すように球体が顕れる。


〈異世界召喚プログラムが発動しました。これからあなたにはその準備をしていただきます〉


 不安定な色をしたバスケットボール大の球体は人間味を感じさせない機械的な声でそう言った。訳の分からないことの連続で、内容を理解できるほど頭は回っていなかったけど俺はなんとなく納得していた。


「…………そう来るか」


 ここに来る直前に蒼華とした会話、これから起こる「何か」とはきっとこれのことだったのだろう。予兆どころか俺達の行動との因果関係すら怪しい完全偶発的な出来事にも気づけるとはあいつの直感は凄まじいの一言に尽きる。


〈分からないことがあった場合には私に声をかけてください〉


 そんな風に改めて幼なじみの才能に感心していたら謎球体はあっさりと話を打ち切ってきた。

 分かるも分からないも、まだ何も説明されてないんですけど。


「まだ何も説明されてないんですけど!」


〈必要な知識はあなたの中に既に存在しています〉


 そんなバカな。

 一旦落ち着いて頭の中を探ってみる。すると覚えた覚えのない知識が大量に存在していた。異世界の言語や慣習みたいな生活する上で必要な知識。長年かけて身につけたことのようにすらすらと出てくる。


 うわ、すごい。頭の中を弄られて感じがして少し不気味だけど、体に異常が出たようには思えないし口頭で伝えられるよりずっと良い。というか生活に必要な知識だけじゃなくて他の知識も書き込んでくれればよかったのにと思っちゃうレベルだ。


〈書き込む情報量が増えるに従い加速度的に負荷が増します。過剰使用は認められません〉


「……そっか、残念だ」


 もしそれが出来たなら異世界で勉強なんてしないですんだのに。まあしなきゃいけない勉強は学術的なことじゃなくて戦闘関連のことになるだろうけど。


「勇者召喚……なんだっけ?」


〈そうです〉


 勇者……世界の壁を越えるために存在の格が上の身体に変化して、その際に「特殊な才能スキル」も授かる異世界生まれの英雄候補。

 そんな通常の人間を超えた逸材に俺達のクラスは選ばれたのだった。


 そして召喚というからには喚んだ人間が存在する。

 俺達を喚んだのはフェールリアという世界にあるギルツ王国。対象はさっき言ったように俺達一年二組の面々。クラスは40人だったが喚ばれたのは42人となっているためおそらく先生が二人一緒なのだろう。担任の小山先生はいいとして、後もうひとりは誰だ? ……楠葉ねえさんだったりして、ありえそうなところが困るね。まあすぐに会うことが出来るだろうし問題はないか。

 ちなみに他のクラスメイトはこの空間と似た平行次元(といわれてもよく分からないけど)で個別に準備をしているようだ。確かに42人もの準備をまとめてやるのは大変だろう。

 召喚理由は、魔族の侵略に対抗するため。


〈魔族と戦闘になる可能性は高いでしょう〉


「…………ま、やるしかないか」


 勇者召喚には召喚主の指示を強制させる効果はないけど、よりどころのない異世界で頼りになるのは召喚主くらい。衣食住と引き替えに魔族を倒してくれと言われたら断り切れないだろうな。

 平和な日本で過ごしてきた俺達がどこまでできるか全く分からない……というか大半は適応できない気もするけど、勇者として得た能力を使ってなんとかしよう。なるべく。


〈あっさり受け入れるんですね〉


「駄々をこねて欲しかった?」


〈いえ。ただ被召喚者は大抵ここで騒ぐので〉


 そりゃまあ異世界行きには拒否権ないし、行った後には事実上戦場送りが確定しているなんて聞かされたら文句の一つも言いたくなる。俺だって納得できない思いはある。

 ただまあ。


「心構えならあったから」


 蒼華が知らせてくれた「何か」。あの直感力の塊が感じたものだ、俺が、あと紅樹もだろうが、何が起きてもいい心構えをしないわけにはいかなかった。

 それになにより。

 蒼華は「嫌な予感」はしていなかったようだし。


「きっとなんとかなるさ」


 気負う必要性は感じなかった。


 はっきりした覚悟の言葉ではなかったけど球体はそれを聞いて満足したようだった。


〈では能力値の変更を開始します〉


「数値的に表した自分の才能を身体の変化に合わせて任意で変更できるんだったな」


 いわゆるステータスアップ。ただ項目数が多いので、こちらの希望に合わせて球体が調整することになる。足の速さだけ上げて動体視力を上げ忘れるなんてしたらせっかく上げた足の速さも生かせなくなるからな。

 捕捉すれば、この操作ができるのはこの空間だけで召喚後は出来ない。才能の数値化もこの空間だけで召喚後に見ることは叶わない。能力値といってもつまりは自分の才能を数値化したものなので努力しなければ発揮されない。


 あとこれから行く世界(フェールリア)にはスキルと呼ばれる技術の才能もある。能力値は主に身体能力に関わるものだが、こちらはそれを扱う技術に関するものだ。

 能力値との最大の違いはこの空間でなくとも見られること。召喚後に手に入れることもできること。

 あと「特殊な才能スキル」はこちらに入る。いわゆるユニークスキルだ。


 さて、せっかくの機会なんだ。これから生きやすくなるようにちゃんと考えて決めようじゃないか。

 ……実はもう決めてるんだけどね。


「勇者召喚分の能力値は幸運値に六割振って、残りは『特殊な才能スキル』に関係するものに適当に分けてよ」


〈幸運値ですか?〉


「ダメだった?」


 ゲームとかだとよくあるステータスだからいけると思ったんだけど。隠しとか固定のステータスの場合もあるけどさ。


〈問題はないですが。六割もですか?〉


「大事だよ? 幸運は」


 それがあれば大抵生きていけると思ってる。精神的に。物質的に満たされてなくても当人が幸運だと思えてればそれは幸福なのだ。

 ないよりはあったほうがいい、そして簡単には上がらないからこそこの機会に上げておくのだ。決して幸運という響きに目が眩んだとか言うことはない。響きなのに目に影響が出るとはこれ如何に。


『それは誤魔化しのセリフだと思うなー』


 ……あぁ、また脳内に蒼華のコメントが。いいじゃないか、戦場に出るなら純粋な身体能力を上げたほうがいいかとも思ったけど、流れ弾を防いだりとか自分に都合の流れを生んだりとか幸運値を上げておけば色々出来ると思うよなんてこの選択を正当化してしまった時点でもう引き返せなかったんだ。

 幸運万歳。


〈要請通りの能力値変更を終了しました〉


 脳内蒼華に突っ込んで言い訳しているうちに作業は終了していたようだ。あまり変わった感じはしないが幸運値に半分以上振ったしこんなものかもしれない。やっぱ早まったかな?

 いや、実際召喚後になってみれば有用性は自ずと明らかになるだろう。


〈召喚に応じる準備が完了しました。転送を開始しますか?〉


 おっと、ここでやることはもうないらしい。「特殊な才能スキル」の内容とか確認してないけど召喚後のお楽しみってことなんだろうか。

 

 こんな何もない真っ白な空間にいてもすることないし、さっさと行きますか。


 深呼吸、一回。


「……よし。始めてくれ」


〈了解。転送を開始します〉


 魔法陣が俺の足下に、いや足下だけじゃなく俺の全身を覆い隠すように立体的に引かれていく。

 視界もどんどん隠れていき球体の姿も見えないまでに。


〈ご武運を〉


 最後に小さく、球体の声が聞こえて――


 ――俺の視界は真っ白に塗りつぶされた。

 

 

 

 

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