28 行動方針
説明回の雰囲気。
もっと文章力というか、ストーリー構成力がほしい。
10/29 台詞を一部変更。大筋に影響はありません。
「それじゃあ、これからのことについて話し合いたいと思います!」
「ん」
串焼きのおじさんからおすすめされた宿の一室。
宿泊料はそこそこに安く(カグヤ任せだったから後から聞いた話だけど)宿の内装もきれいで、問題なさそうだと判断して泊まったわけだけど実際正しい判断だった。
広くはないけど隅々まで掃除の行き届いた部屋は過ごしやすそうで、初めて来た場所にもかかわらず自分の部屋であるような、不思議な安心感がある。
……まあ、それでも足りないとばかりにカグヤが部屋全体を聖炎で浄化したからそこらの神殿より神聖で、体力とか魔力とかが普段の三倍速で回復していくという真に不思議な部屋になってしまったんだけど。
「ヤクモが泊まる部屋だからこれくらい当然」と真顔でのたまうカグヤになんて返せばいいのか分からなかった。
ともかくも一応の拠点を手に入れたわたしたちは落ち着いてこれからのことを考える余裕を手に入れた。
朝早いうちから部屋に籠っているのはなんかやだけど、行動方針を決めなきゃそもそも動き回れない。
「わたしの目的として一番大きいのは幼馴染たち、ひいてはクラスメイトとの合流だけど……カグヤは何かある?」
「特にない。ヤクモについてく」
一応聞いてみた問いの答えは予想通りのものだった。
なんとなく拒否してもついてきそうな気がするけど(もちろんそんな予定はない)、「何かしたいことができたらそっち優先していいから」とは言っておく。
幼馴染たちの話に戻る。
「今どこにいるかは分からないけど、召喚されたのはギルツ王国だって分かってる。ひとまずはそこの首都ならなにかしら情報は手に入ると思うから、目的地はそこになるかな」
「ん。異論はない」
「問題は、どうやって行くかってことなんだけど」
虚空から一冊の本を取り出す。【叡智の書庫】から借りてきたフェールリア世界の地図だ。正確性は当然他のどの地図よりも高い。この世界の人が未踏破の場所とかも普通に載ってる。
それをぺらぺらめくって目的のページ――今いる大陸が載った箇所を開く。
アフリカみたいな形をした大陸が国境線で区切られている。
出発地である、今いる街の名前はサザール。コノルマ王国という国の最南端にあるそうだ。コノルマ王国領土と隣接している森林から魔物が国内に侵入するのを防ぐ役割を持った、通称要塞都市。
「……それで、っと」
地図中のサザールに指を置き、もう片方の手でギルツ王国の首都を指す。
「遠い」
「遠いんだよ」
そう、遠いのだ。
コノルマ王国はこの南北に長い大陸にある国の中で一番南にあり、さらにその国の最南端にあるのが今いるサザールの街だ。
対してギルツ王国はほぼ大陸の中央(少し北寄り)に位置している。
最短距離でも国を三つ挟み、間にはそこそこ高い山脈まである。
この世界で一般的な乗り物である、馬車を使おうとしたらその所要時間は一年じゃきかない。
「ヤクモの転移は?」
「ちょっと無理かな……」
わたしの転移は【空間征服】した場所じゃないとできない。今いる場所から遠くなればなるほど【空間征服】に使う魔力量は多くなるし、無理して半径五キロ征服できるかどうかというところ。基本一度行ったことのある場所への転移だと思えばいい。征服した場所なら魔力消費ゼロで転移できるんだけどね。
それにもし蒼華と紅樹が道中の街とかにいた場合完全にすれ違うことになる。
ギルツ王国に情報があるだろう、というだけでギルツ王国に二人がいる、というわけではないのだ。
道中の情報収集は必要だと思う。
ついでに言うなら、転移だけでの移動は楽しくないし。
「まあ時間制限があるわけじゃないしね。無理して速度を上げる必要はないよ」
心配されてるかもしれないけど、焦らずゆっくり行こうと思う。
きっと蒼華は持ち前の直感でわたしが生きてるって分かってそうだし。
せめてお土産話はたくさん用意しようと思う。
「つまり基本徒歩か馬車旅?」
「そうなるかな」
長旅なんてしたことないからわくわくするね。
計画性なんてない旅だけど、だからこそ楽しそうというか。
先生たちに管理された修学旅行なんて目じゃないね、やっぱり旅は自由でないと!
「自由はいいけど。最低限の道具くらいは用意しないと酷い目に合う」
……心読まれた。
「それもあるけど。声にも出てた」
「え、そうなの?」
「ん」
軽く頷くカグヤ。
それは……恥ずかしいな。うん。
誤魔化すように咳払いをひとつ。
「こほん。……たしかにカグヤの言うとおり旅の道具は用意しないといけないね」
まだ日が昇ってからそう時間はたってない。買い物に行く時間は十分にある。
宿主さんは優しそうな人だったから、聞けば道具屋の場所くらいは教えてくれるだろうし。
そうなると問題は。
「カグヤって今どれくらいお金持ってるの?」
買い物には当然お金が必要だ。そしてわたしはお金を持ってない。必然、金銭面はカグヤに頼ることになる。串焼きの代金にこの宿の宿泊料(三日分)は全てカグヤが払った。
……早く自力でお金稼げるようにして、返さないと。
「慎ましく暮らしても一週間もたないくらい」
具体的に言うと銀貨三枚と銅貨十一枚。
日本円とのレートはよく分からないけど、この宿の宿泊料(三日分。朝夕の食事つき)が銀貨三枚だった。……うん、わりと危機的状況じゃないかな。
ちなみに銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚だ。
ほかに金貨十枚分の大金貨、大金貨十枚分の白金貨。十枚で銅貨一枚分の賤貨がある。
「まずは働き口を探さないとかな」
まあわたしたちみたいな訳ありの人を雇ってくれるところは少ないだろうから、今すぐできる仕事といったらあれしかないけど。
響きがいいよね、冒険者って。
「旅の道具を用意するためなら【瞬間錬成】を使ったらいいと思う」
「…………」
たしかに必要な道具を揃えるだけなら【瞬間錬成】で事足りる。
というか【血換法】で作った素材を売り払うだけでお金も簡単に手に入るのか。
……んー。でもなー。
なんかずるいっていうか。
せっかく十五歳から成人な世界に来たんだから、真っ当に働きたいというか。
「冒険者は"真っ当"な職じゃない」
「…………」
周りに誰もいないからって遠慮なく心読んでくるねカグヤ。
街中だと一応人の目を気にして自重しててたのに。
「カグヤは反対?」
「ヤクモがやりたいなら全力でサポートするけど。心配」
……むう。
たしかに街の人の話を聞く限り冒険者っていうのは魔物退治や魔境探索みたいな危険な仕事が主なうえ、社会的地位もそんな高くないし何が起きても自己責任だ。
だけどまあ、ハイリスクハイリターンなロマンある仕事だと思う。
大通りで出会った男の子も、憧れの職業だって言ってた。
「大丈夫だよ。一応わたしも勇者の一員だし、戦えるよ」
「自分の種族や職業も把握してないのに。本当に戦える?」
「…………う」
「使いこなせない力は自滅を招く」
「…………」
さっきからカグヤの発言に対して黙ってばっかりだねわたし。でも反論できないや。
アーシュと練習した特殊スキルですら使いこなせてる気はしないし。
でも冒険者にはなりたい。
「ほら、えっと……その。こ、これから頑張ればいいんだよ! 誰も初めからうまくはできないし!」
「……そう言うなら。使いこなせるまで特訓」
「の、望むところだよ!」
これからの予定に冒険者登録とカグヤとの特訓が追加された。
特訓……恐ろしい響きだけど、強くなることは悪いことじゃないはず。
強ければ強いほど冒険者としては有利だろうし。
……とりあえず今からでも種族とか、ひいてはプレートの情報を確認しとこう。
カグヤがおもむろに取りだしたノートに何か書き出し始めたのは気にしない。
特訓内容を口から漏らしながら書いてる気がするけど気にしない。
……特訓かあ。今まで文化部にしか入ったことのないわたしにはきつい響きだなあ。
―――リアライゼーション:情報開示―――
名前:ヤクモ
性別:女 年齢:15
種族:天狐族
職業:竜纏士LV1
状態:神力浸透
【特殊スキル】
混沌の器
空間征服
永遠を紡ぐ者
血換法
聖炎融合
煉獄解放
瞬間錬成
魔導機関〈Vital Note〉
開架:叡智の書庫
【種族スキル】
九尾化
妖術
【職業スキル】
竜纏
【通常スキル】
多世界統合式魔導闘術LV10
遠距離狙撃LV10
虹色魔法LV10
身体能力強化LV10
精神耐性LV7
契約LV10
音楽LV10
【称号】
多世界転移者
混沌の器
異界の勇者
稀少種〈天狐〉
幸運の女神
統一神の妹
熾天使契約者
(協議中)
さて、久しぶりに見たプレートだけど前は見なかった部分を上から詳しく見ていこうかな。
現実逃避じゃないよ、ほら、アガナーにも見るように言われてたから。
「むう。やはり目指すなら闘神レベル?」
「…………」
聞こえない。何も聞いてない。
……気を取り直して、まずは種族。
―――――叡智の書庫:情報表示―――――
【天狐族】
狐人族の上位種族。長命。
通常の狐人族より魔法に優れ森人族並の魔力量を持つ。交配で誕生することは少なく、狐人族の修練の果てに到達する種族であり神聖視される存在だった。近年到達する狐人族が減少し一般にはあまり知られていない稀少種族となっている。
天狐族、上位種族だったのか。いや名前からして普通の狐人族よりは上だろうなとは思ってたけどちょっと上程度かと。まさか神聖視までされるような存在だとは思わなかった。
稀少種で神聖視(過去形)とか厄介事の香りがする。
あと魔法に優れ~~とか書いてるけど、わたし魔法使えない。
優れた種族であるのに使えないってことはやっぱり使い方を勉強しなきゃ使えないのかな。
せっかくの持ち味、生かさない手はないけど……。
魔法の勉強……。
勉強苦手……。
うん。とりあえず置いといて。
次、ようやく手に入れた念願の職業。
―――――叡智の書庫:情報表示―――――
【竜纏士】
竜属性の魔力を纏う戦闘系職業。
特に不得手なものはなくオールラウンダーを目指せる。
身体能力全体に補正がかかり、竜との親和性が向上する。
……なんかかっこいい。
さすがは神様おすすめの職業だけはあるって感じだ。
尖ったところがないのもわたしは使いやすくていいと思う。
ちなみに竜属性っていうのは、他属性の魔力の干渉を受けない属性のこと。
これを纏える竜種は他属性の魔法ではほとんどダメージを与えられないし、これを込めた吐息はどんな硬い魔法障壁も簡単に破る。
同じ竜属性なら中和して効果を打ち消すこともできるけど、基本竜種以外はこの魔力を扱えない。
そんなフェールリア最強生物の力がこの手に!
うん、なんだかテンション上がってきた。
さあ次いこう次!
―――――叡智の書庫:情報表示―――――
【状態:神力浸透】
魂含め全身に神力が満ちている状態。
対象の身体能力と魔力量を大幅に向上させる。悪状態を無効化し支援効果を倍増させる。
※この状態は永続する。時間経過に従い効果が向上する。
なんかものすごい状態になってるっ……!?
というか悪状態無効ってつまり、毒とか麻痺とか効かないってことでいいのかな。いいんだよね?
しかも永続なうえ時間がたつほど効果が上がるって。
普通じゃない。
こんな状態になるような原因に心当たりは……アーシュかな。
何となくそんな気がしてきた。神力ってついてるし。
少し過保護すぎませんか。
嬉しいけど。
ここまですごいもの尽くしだったけど、本当にわたし使いこなせるのかな。
振り回される未来しか見えないんだけど。まだスキルもあるっていうのに。
……まあ見てみなきゃ、やってみなきゃ分からない、かな。
姿勢を変えて、真剣になりすぎて必死さを纏いだしたカグヤは極力意識しないようにしながら、わたしはスキルの詳細に目を通していった。
4/10 英字を半角にしました。




