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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第二章 仲間のいる騒がしさ
24/56

23 就職

連休中になんとか書き上げた!

急いで書いたからもしかしたら文法とかおかしいところあるかもしれないけど!

 目が覚めるとそこは【叡智の書庫】ではなかった。

 壁には精緻な模様が彫られ複雑な形の柱が立ち並んでいるにもかかわらず継ぎ目の一つもない、白い石をくりぬいて造ったかのような神殿だった。

 【叡智の書庫】と同じ様な神聖さを感じるけど、向こうが重厚な雰囲気であるのに対しここは開放的な雰囲気があるような……いや、やっぱり同じかもしれない。


 ただ少なくとも見たことがない場所であるのは確かだ。


「あ、起きたみたいだね」


 何が起こったのか考える前にわたしの背後から声がかけられる。だいぶ聞き慣れたノルンの声だ。

 寝かされていた台から起きあがって振り向くと、新人司書みたいな女性とスーツ姿の長身の男性がいた。


 片方はノルンだからいいとして……男性のほうは誰?


「アガナーだ。ここを管理してる」


 アガナーさん……あ、アーシュに連絡したときに代わりに出た人だ。


「その時はきつい対応をしてすまなかったな」


「あ、いえ、気にしてないので」


 まあその最中は怖かったけど。実際は……長身で威圧感あるし顔険しいし、やっぱり怖いかもしれない。

 でも悪い人じゃないんだろうな。たぶん。きっと。


 ……あれ、アガナーさんが難しい顔してる。ノルンも笑ってるし。

 あ、ノルンが頭はたかれた。


「……本題に入るぞ。寝る前の状況を覚えているか?」


 寝る前の状況?

 たしかノルンに弄られて、アーシュが来て……カグヤとノルンが険悪な空気を醸し出してたんだっけ。

 そういえば寝る直前に爆発音を聞いた気がする。


「いやぁ酷かったよ。最初からクライマックスだ! って感じで二人とも手加減しないの。素の能力が低い私としては冷や汗ものだったね」


「……【叡智の書庫】は無事なの?」


「無事なわけないでしょ」


 声がマジなトーンだ。一気に無表情になったノルンが非常に怖いです。


「貴様が日和って止めなかったせいでもあるだろうが。管理者権限で【書庫】内では無敵だろう」


「……まぁそうなんだけどさぁ」


 鋭い目で言及するアガナーさん。ノルンもそこを言われると弱いのか反論せずぶつぶつと言い訳してる。

 アガナーさんはそんなノルンの態度にも一言言いたいようだったけど堪えて、わたしに向き直った。


「【叡智の書庫】に損害を出した二人は現在復旧作業をしている」


 復旧作業中の今【叡智の書庫】は立ち入り禁止らしい。

 寝ているわたしを放っておくわけにもいかずここに連れてきたそう。


 アーシュは「ヤクモちゃんは私が預かります!」って主張したらしいけど罰の最中に「癒し」を与えるわけにもいかないので却下された。わたしは癒しアイテムだったのか。


「どれだけ損害を出したのか知らないけど、二人でなんとかなるものなの?」


「神域には自己修復の機能があるからそれを促進するのが二人の役割だね。……まあ最終調整は私がやらなきゃならないんだけど」


 疲れが滲む溜息を吐くノルン。

 えと、なんというか……ご愁傷様です。


「妹ちゃんもある意味元凶なのになんで何もないんだろ……。いや妹ちゃんが悪くないのは知ってるけどさ」


 あれ、矛先がこっち向いた。

 どうにか回避しないとわたしの身が危ないかもしれない。


 内心焦りながら言葉を探していると、先にアガナーさんがノルンを窘めた。


「ぶつくさ言ってないで貴様は【叡智の書庫】に戻れ。こいつは私が面倒を見ておく」


「……みんな妹ちゃんに甘い……」


 肩を落としながらもノルンは片手を上げて扉を創り出した。

 ゆっくりと開いていくそれは【叡智の書庫】に続いているんだろう。


 扉を潜る直前、ノルンはくるっと振り返って笑った。


「じゃあ妹ちゃん、アガナーお兄ちゃんの言うことを良く聞いていい子で過ごすんだよ。ちゃんといい子にしてたらおみやげ持ってくるから!」


 なにその注意。わたしは小学生か。

 からかう顔をしたままノルンは扉の向こうに消えてしまった。


「まったくあいつは……」


 ほらアガナーさんも呆れた声を…………うぅん表情が険しい。口調と合ってない。

 この人表情が全体的に怖いんだよね。もう少し柔らかさを得てくれたほうがこれから(短い間とはいえ)一緒に過ごす上で嬉しい。


 ……ふむ、どうせだからノルンの言葉に乗ってみる?



「よろしくお願いします、アガナーお兄ちゃん!」



 満面の笑みを浮かべて、少しでも雰囲気が明るくなるように言ってみた。


 ……目を閉じて険しい顔された。


 あれ、失敗したかな?

 アガナーさんの背が高いせいで軽く見上げるようになった姿勢のまま固まる。


 しばらく微妙な緊迫を味わった後、アガナーさんはゆっくりと目を開けた。


「私のことはアガナーでいい。敬語も必要ない」


「……はい、わかり……ぅむ、わかった」


 あんまりお気に召さなかったみたい。目つきがさっきより鋭い。

 謝るので、敬語使いそうになったからって睨まないでください。


「はぁ……。顔が怖いのは元からだ。あまり気にしないでくれると助かる」


 そう言ってわたしの頭を撫でる手は、けっこう豪快で、優しかったように思う。




 ● ● ●




 ほぼ初対面の人と二人きり。

 話題が思いつかず空白が流れる……なんてことにはならなかった。


 まあ、趣味があったとか話が弾んだとかじゃなくてひたすら事務的な話をしてただけなんだけど。


「本当に私が決めていいのか?」


「うん。わたしよりアガナーが決めたほうがいいと思うし」


 そうそう、話してるうちに威圧感ばりばりの険しい顔してたアガナーの顔が少し柔らかくなった。

 そのおかげか初めは思わず敬語になっていたわたしの口調も戻りました。

 なんだか仲良くなれた気がしてうれしかったよ!


 ……え、話の内容?


 一言で言えば職業の話だよ。アガナーは職業の神様だそう。

 前々から無職のわたしに職を授けるよう頼まれてて、ちょうどいいからこの機会にとそういうことらしい。今は職業についてざっと教えてもらったところ。


 職業っていうのはこの場合RPG的な意味合いで、能力的特性とか成長補正に関わる要素だ。


 職業に就くとその職業に応じた補正がつき能力が強化される。また職業スキルが使えるようになる。

 またみんな同じ職業に就けるというわけでもなくてその人の才能に応じた職業の中から選ぶしかない。

 職業にもレベルがあって、最大レベルは職によって異なるにしろ、最大まで到達したことを「極めた」と表現する。職を極めると上位職になれる場合もある。

 また条件次第で就ける職業が増えたり減ったりする。


 わたしは何度も異世界転移した影響か就ける職業が膨大に多かったから、アガナーのおすすめにすることにした。

 え、別に職業一つ一つの説明を聞くのが面倒になったわけじゃないよ。せっかく職業の神様(専門家)がいるんだしわたしの素人判断よりいいだろうなってそう思っただけ。ほんとだよ!


「希望の系統もないのか? 魔法よりだとか近接職にしたいとか」


「んー、特にないよ」


 強いて言うなら幼なじみを捜しやすいものがいいかなーと思わなくもないけど、召喚されたのはギルツ王国って場所だとは知ってるし。そこの首都に行けば他のクラスメイト含め会えるはずだからわざわざそういう職業に就くのはもったいないと思う。

 もし首都にいなかったとしても情報は集まるだろうし、【空間征服】以上に人捜しに向いたスキルもないだろうしね。

 【空間征服】ならフェールリアという世界にいる限りたとえ超高度な隠蔽技術を使ってたとしても暴ける。もう少し扱いを習熟する必要はあるけど。


 それにこういうのも中身の分からないプレゼントボックスを前にした気分で楽しい。

 アガナーの判断を信じるよ。


「貴様がそれでいいなら構わないが」


「まあ、どうしても合わなかったら転職する」


 一度就いたら職業を変えられないわけでもないし、はっきり言って職業に就いてなくても生きていけるだけの力はあるはずなんだよね。無職って響きは悪いけど。


「だけど、これでもうわたしも無職じゃないよ!」


「つまり職業に就けさえすれば詳細はどうでもいいってことか……」


 アガナーは短く溜息を吐いて、それから眉間に皺を寄せて真剣に考え始めた。

 さっきまで(かろうじて)あった柔らかい表情が跡形もない。なんだか本気の仕事モードって感じ。


 軽い感じで頼んだのにそこまで真剣になって考えてくれるとは思わなかった。


 もしかしたら常に仕事は全力で取り組むタイプなのかもしれないけど……うん、少し嬉しいかな。


「…………よし。ヤクモにはこれが合っているだろう」


 そわそわと期待しながら尻尾を揺らすこと数分。どうやら決まったみたい。


 アガナーが立ち上がったので、それに追従して立ち上がる。


「手を出せ」


 差し出された手を握ると、わたしに力が流れ込んでくるのを感じた。

 それはわたしを作り替えるほど強い流れではなかったけど、そう、今までバラバラの方向を向いていたわたしの力を一つの方向に揃えるような、そんな力だった。


「これで職業に就けたはずだ」


「うん……たしかに何か変わった気がする」


 初めてプレートを出したときのように派手な演出はなかったけどこっちのほうがよっぽど感動した。


「ありがとう、アガナー」


「……礼を言われるほどのことではない」


 そこは素直に受け取ってくれてもいいのに。

 少し不満。


「……。……これで私の仕事は終わったわけだが、貴様はこの後――」


「さあヤクモちゃん! お姉ちゃんがお迎えに上がりましたよ!」


「ふわぁっ!」


 アガナーが何か言いかけていたのは分かったけど、唐突に背後から抱きついてきたアーシュのせいで流れてしまった。さっきまでいなかったはずなのにどこから現れた。

 あと、どさくさに紛れて耳を触るのは止めてほしい、いくらアーシュでもくすぐったい!


「……貴様……狙ったか?」


「何のことでしょう。私は復旧作業を予定より早く終わらせてヤクモちゃんを迎えに来ただけです。ヤクモちゃんは渡しません」


「…………」


「アーシュ、くすぐった……あれ?」


 くすぐったいのを我慢してて話聞いてなかった間にアガナーの顔が険しくなってる。これ、表情の奥に優しい感情を隠してるとかじゃなくて、本気で不快に思ってるやつではないでしょーか。

 あの短い間に何がっ!?


「アガナー、お疲れさまでした。ヤクモちゃんは連れて帰ります」


 おかしいな、アーシュのセリフには問題ないように聞こえるけどアガナーの顔がどんどん険しくなっていく。

 アーシュはそれを気にすることなく【叡智の書庫】に繋がる扉を開いてるけど……。


「行きますよヤクモちゃん」


 そしてついに扉を潜る、というときになって、ようやくアガナーが口を開いた。


「アーシュ。……思いの外他の神族達も乗り気みたいだぞ?」


「……む」


「当然本人の意思が最重要だが……占有するのは無理だと言っておく」


 え、なに、何の話?

 神様同士の取り決めの話とか?


「気にするな。……フェールリアに戻ったら自分のプレートを確認するといい」


「……行きますよ」


 アーシュに半ば引っ張られるようにして扉を潜る。

 振り向き様に見たアガナーの微笑が、言っちゃ悪いけど見慣れないもので。

 だからこそなにか……不吉なものを感じてしまった。


 まあ、嫌な予感ではなかったんだけど。




 

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