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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第二章 仲間のいる騒がしさ
18/56

17 村落

 ここまでにそれなりの数の魔物も倒した。一対五でもなんとかなった。後半はスキルに引っ張られることも少なくなって転ぶこともなくなったので最低限の練習としては十分だろう。

 ただなぜか出てきたのは初戦と同じドッジゴーレムばかりだった。他の魔物がいるのは空覚で分かってるのに近寄ってすら来なかった。縄張りでもあるのだろうか。


 ずっと武器として使ってきた日本刀はまだ綺麗だ。そういえば作ったきり鑑定してなかったけど刀としての出来はどんなものだろう。



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 【日本刀・無銘】

 異世界の知識によって作られた刀剣。特殊級アンコモン

 スキル効果によって生み出された。構造は熟練の職人のものと同等である。




 なんか普通だ。異世界の知識とか凄そうなこと書いてあるくせに特殊級アンコモンだし。

 ちなみに等級は武器やアイテム類につくゲーム的に言うとレア度だ。目安があったほうが分類しやすいからとノルンが武器神様その他と協力して設定したらしい。

 上から順に、


 幻想級ファンタズマ。新たな伝説を創り出せるもの。

 伝説級レジェンド。伝承の中に伝えられるもの。

 秘宝級アーティファクト。現行の技術では複製の難しいもの。

 稀少級レア。素材等の関係であまり出回らないもの。

 特殊級アンコモン。特注等一般とは少し性能が違うもの。

 一般級コモン。一般に出回っているもの。

 劣悪級インフェリア。壊れていたり欠陥のあるもの。


 となっていて稀少級レアより上は一段階上がるごとに性能が極端に変わる。この日本刀は特殊級アンコモンだからそこまでいいものじゃない。拠点ができたらもっと高性能な武器を【瞬間錬成ファストクリエイト】するべきかもしれない。

 あ、そういえば日本刀に鞘を作ってないや。すぐ作ってもいいけど今着てる制服に刀を差したらずり落ちそう。体変わった影響で背もいくらか縮んでるから服のサイズが合ってないんだよ。そのおかげで胸元がそこまで苦しくないんだけどさ。

 【倉庫】にアーシュの入れてくれた着替えがあるはずだから着替えはできるけど、いくら内面が女の子らしくなったからって男のときの常識とかが消えるわけじゃないから自力で女物の服に着替えるのは躊躇われるんだよね。着てしまえば平気だと思うんだけど。

 アーシュがふらっとやってきて着替えさせてくれないかな。いや高校生にもなってお姉ちゃんに着替えの手伝いを頼むのはないか。今のは忘れよう。刀は鞘がなくても【倉庫】に突っ込んでおけばいいや。


 バカなことを考えながらふと空を見ると太陽がだいぶ傾いていた。そろそろ急ぐべきかもしれない。


 大体残りは三分の一ほど。ここまで来たら空覚もはっきりしてくる。あれはほぼ確実に村だ。人が動いているのも感じ取れる。廃村というわけでもなさそう。

 まあ空覚は既存の五感に当てはまらない新しい感覚だからまだ使いこなせてなくて「ほぼ」とか「だろう」とか抜きでは話せないんだけど。なんて言えばいいんだろう、体の中の血流を感じ取るのに近いだろうか。あるのは分かっても細かいところまでは察せない感じ。少しずつはっきりしてきてるから習熟すれば視覚なみに頼れる感覚になってくれるはず。


 そんな空覚でここから村までの道のりを感じ取る。近くには魔物はいない。このまま進んでも戦闘は起こらなそうだ。村までに血の出る魔物と戦っておきたかってけどいないならしかたない。

 ……転移で道中スキップしても一緒だよね? もうやっちゃっていいよね。


 歩くと決めたのに転移しようとしてる後ろめたさを日没を理由に抑え込み、村の近く、ぎりぎり向こうからは気づかれないだろう辺りまで転移する。


 そういえばこれがフェールリアの人とのファーストコンタクトになるわけかな。こんなところに隠れ住んでる人達だけど仲良くできたらいいな。




 ● ● ●




 ……だまされた。

 期待を裏切るこの仕打ち、わたしの幸運はいったいどんな基準で仕事してるんだろう。


 木の陰に隠れながら村の中を見る。かなり離れているので向こうからわたしは見えないだろう。


 そこはたしかに村ではあった。頑丈そうな木の柵の内側に木造の粗末な家々がある。造りは非常に甘いと言わざるを得ないけど屋根があるので家と言っていいだろう。作ったのが彼らだとするならむしろ褒められるべきなのかもしれない。


 その村の住人は皆緑色の肌をしていて顔は醜悪に歪んで額からは角が生えていた。体格は小柄で腰布しか巻いてない。武器を持っているのもいる。


 なんとなく答えは分かったけど、一応柵の切れ目に立ってる門番っぽいのを鑑定。



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 名前:なし

 性別:雄

 種族:ゴブリン

 職業:剣士

 状態:通常


 【特殊スキル】


 【種族スキル】

 繁殖力


 【職業スキル】

 剣の才能


 【通常スキル】

 剣術LV2

 棍術LV4

 察知LV3



 【ゴブリン】

 ゴブリンの通常種。

 緑色の肌、小柄な体躯、額の角が特徴。知能は低いが群れで行動する。

 繁殖が非常に早い。

 



 ……せっかく見つけた村はゴブリンの村でした。



 すごい力抜けた。近くに木がなかったら地面に倒れ込んでた。まさかこう来るとは予想外だった。

 あと門番の、地味に職業就いてるんだね。魔物も職業就けるんだ、生意気な。わたしまだ無職なんだぞ!

 ……言ってて空しくなってきた。


 ついに朱くなってきた空を眺めながら考える。


「あー……どうしようかなこの後」


 二択。逃げるか戦うか。


 気分的にはここ無視して【空間征服】再開してさっさと人の住む村落を見つけてふて寝したい。だけど待ち望んだ「血の出る魔物」ではあるんだよね、ゴブリン。数が少なかったら八つ当たり気味に瞬殺してやる! なんて奮起していくとこだけど数は多い。

 ざっと五百以上はいる。

 しかも通常の小柄なのだけじゃなくて少し大柄な強そうなのとか村の中央に居座るでかいのとか、いろいろいる。さすがにこの群れに単身突っ込んでいくほど戦闘慣れしてない。


「でもここ放っておいたら大災害になりそうだな……」


 ゴブリン……ひいてはほとんどの魔物が人を襲う。近くの村落がどんなのか分からないけどこの数のゴブリンに襲われて負傷者ゼロはないだろう。下手したら全滅だってありえる。もしそんな話を聞いたら絶対後悔する。


 だから、殲滅は高望みでも少しは数を減らしておいたほうがいい。


 転移して、刀で地道に……だめだ、囲まれる未来しか見えない。それに敵陣のど真ん中にいく勇気はちょっとない。いくらスペック高くても素人には無謀。

 魔法とか広範囲に攻撃できる技があればいいけどわたしは魔力の扱いが下手なのかちっとも成功しない。使い方は【叡智の書庫】で勉強したから完璧なのに使えない。LV10の魔法スキルが泣いているよ!

 ちなみに同じ理由で「飛ぶ斬撃」や「浮遊する剣群」みたいなのも再現できない。この世界は魔力の扱いが下手だと剣技にも影響が出るよう。ぜひとも使ってみたい技なので要練習。


 話が逸れた。

 他の案だけど、夜を待っての奇襲は寝床を探してるわたしの目的と合わないので却下。このままだと今夜は野宿コースだけどそれならそれでしっかり寝たい。夜は十時に寝る健康気質だったし。

 【瞬間錬成ファストクリエイト】で遠距離武器を作っての攻撃がベターだろうか。それで近づかれたら転移で逃げる。銃器の構造なんて知らないし弓矢も触れたことないから投げ槍くらいだけど、作れる武器。


 うー、なんかどれも微妙な案ばかりだなぁ。そもそも一人でできることなんてたかが知れてるんだよ。魔法使える仲間とかいればそれで解決なのに。某ゲームみたいに簡単に仲間が呼べればいいのに。

 ヤクモAは仲間を呼んだ。ヤクモBが現れた!


「……仲間を呼ぶスキル」


 よく考えればあった。見た目は怖いけどわたしの指示に従ってくれる強い仲間を召喚するもの。


「【煉獄解放】で仲間を喚んで戦う。そうしよう」


 わたしの戦闘訓練にはならないけど特殊スキルもわたしの力ということで。


 正直煉獄の魔物を底辺の魔物と名高いゴブリンにぶつけるのはどうかと思うけどそこからしか喚べないし、手加減してる余裕なんて今のわたしにはない。

 何十匹と喚んだらオーバーキルすぎるからせめて喚ぶのは一匹にしておこう。


「【煉獄解放】」


 今回は煉獄そのものを現出させる必要はない。必要なのは強力な魔物一匹。

 召喚される魔物はランダムで、だけど喚び出す場所は煉獄の奥深くから。


 少し前の地面から染み出すように漆黒の魔法陣が描かれる。

 溢れ出した煉獄の業火が映し出す陣はどこか不吉さを感じさせるけど恐怖は感じない。


 ――なぜなら今この瞬間は、わたしが煉獄の支配者だからだ。


 揺らめく陣が冷え固まり、溶けるように消えていく。

 後に残されたのは当然、わたしが喚んだ魔物だ。


「…………え?」


 その魔物は、初め靄のような不安定な存在だった。次第に形を定めていきある形になったところで止まる。それが形をとったことに反応してか、どこからともなく鎖が現れその躯を縛った。


 ()()の下半身は氷に覆われ、身動きは取れそうにない。

 背中には皮膜のない骨のみの蝙蝠羽がいくつも生え、その存在の邪悪さを助長する。


 特徴的な白金色の髪はどこかくすんで見え。

 神聖さを感じさせる黄金の瞳には光がない。


 頭の上に狐耳がないことに違和感を感じた。


「わたしと同じ……?」


 支配者だと調子に乗っていただろうか、その容姿はわたしを混乱させるのに十分なインパクトがあった。

 彼女は黙して語らない。



 ――喚び出された魔物は、わたしと瓜二つの容姿をしていた。




 

2/10誤字修正しました。

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