閑話 双子の旅立ち
双子の幼なじみ兄、紅樹視点です。
白い空間で謎球体に、俺は覚悟を求められた。
だから俺は、目を離せないあいつらとなら楽しく生きていけるだろうと、賑やかな非日常を選んだ。
まあ、選択肢には非日常しかなかったわけだから後はどう過ごしたいかくらいしかなかったわけだが。
きっとあいつらはその選択すら感覚で決めたんだろうと思う。なぜ根拠のない感覚で決めてしまうのか俺にはいまだ理解できないが、だからこそ俺は振り回される役なんだろうな。
それは異世界でも変わらないだろう。
そう思えば意外と異世界でも大丈夫な気がする。いつもと何も変わらない。
三人一緒なら――
● ● ●
転移直後は最悪だった。
転移の影響か体はフラフラするし、初めに目にしたものは鎧を着た兵士たちが誰かと戦っている場面で怒号や叫び声が響いていた。当然のように剣が振るわれ血が飛び散る。いくら白い部屋で異世界に対する覚悟とか決めた後だからっていきなりこれは平和に過ごしていた俺達には刺激が強かった。
騒ぎが終わるまで何もできずに傍観するだけの俺達だったが、兵士たちが引き上げ顔を青くした少女――この国の王女で今回の勇者召喚を実行した――が移動を促してくれたおかげでようやく動き出せた。彼女の話す言葉は日本語ではなかったが、書き込まれた知識のおかげで問題なく理解できた。
引き連れられて歩くうち、俺はここにいる人数が少ないことに気がついた。書き込まれた知識では召喚されたのは四十二人。だが実際には三十人程度しかいない。
思わず説明を求めたくなったが、その前に目的地へ着いてしまった。
連れてこられたのは広く豪華な部屋――謁見の間の類だろう――で奥では壮年の男性が玉座に座っていた。彼は自分のことをガレアス・セル・ギルツと――この国の王だと名乗った。
当然王の周りに人はいたがなんというか威厳が違った。これが国を背負って立つ者かと思った。
誰もがその存在に威圧され言葉を失う中、しかしガレアス王は頭を下げた。周囲の人々がざわつくのもかまわず。
そして事の概要を語った。
突然現れた魔族が人間国家を攻め始めた。魔族は人間よりも強くこのままでは押し負けてしまう。国家連合は切り札として勇者を喚ぶことを決め、今回それを実行。
ただし、邪魔が入った。
終末思想を持った魔族信奉者。彼らは召喚の間に入り込み、召喚した勇者を効果範囲内のものを転移させる魔法が込められた「転移石」で遠くに跳ばそうとした。この世界は未開拓の地も多い、ランダムに跳ばせば勇者といえど初期の弱い状態なら葬れると考えたようだ。
すんでのところで全員に被害が及ぶのは阻止できたが、幾人かは間に合わなかった。
捜索は開始されたが、あまり期待しないでほしい。
最後にそう言って、ガレアス王は口を閉じた。
人と人の間をすり抜ける風が酷く寒く感じた。俺としても、寒気を覚えずにはいられなかった。
いなかったクラスメイトの中には親友たる夜雲もいたのだから。
しんと静まりかえる俺達。さっきから一言も発せてないなと自嘲してみてもどうにもならない。
「――わたしは夜雲を探しに行く」
暗い沈黙を破ったのは、蒼華だった。普段ゆるい笑顔を浮かべている顔を鋭くして、はっきりした声で言った。
「あなたたちの望みとは違うかもしれないけど、まずは、夜雲を見つけてから。そこから」
きっぱりとした態度で、ガレアス王に言ってのけた。
ガレアス王はじっと蒼華を見て、それを聞いていた。
そして、おもむろに口を開いて語りかけてくる。
「これからのことについて、話そう――」
● ● ●
見上げた空は快晴で、旅立ちの日にはふさわしいと思った。
「……もう行くのか?」
「はい。蒼華がこの日がいいと言ったので」
城門を境に俺は先生と別れの挨拶をしていた。先生と言ってもクラスの担任じゃない、夜雲の従姉の楠葉さんだ。あの日光に包まれた教室に、異常事態だと分かっていながら飛び込んだそうだ。他の先生はただ見ているだけだったらしい。まあ、同じように飛び込んだところで何もできなかっただろうから別段何も思うところはないが。
ちなみに担任のほうは現在全く役に立っていない。自分自身のことで精一杯といった感じ。召喚された大人は二人しかいなかったので楠葉さんが生徒たちの拠り所になっている。
「まだ一週間だ、他のやつはまだ訓練を受けているような時期だぞ」
ガレアス王はこれからの行動を俺たちの自由意思に任せると言った。その上で国に所属してくれることを望む、とも。
だから俺たちはひとまず訓練を受け、この世界で生きる力を手に入れてそれぞれの道を歩くことになった。大きく組み分けすると三つ。
一組目は王国に所属する組。
ギルツ国軍内に新設された勇者部隊に入隊し、魔族の侵攻に備えることになる。国の指示で動くことにはなるが、国からの支援を受けやすいということでもある。給金も出る。
二組目は自由を選んだ組。
国の支援はいらないと、少しの援助金だけを持って王城を出て行く。料理屋に修行に行ったり錬金術師に弟子入りしたり理由は様々だが一番自立している組だと思ってる。良いことか悪いことかは分からないが。
三組目は冒険者組。
ギルドに所属して冒険者として生活する。国からの支援はそこそこ。ギルドは国家に縛られない組織ではあるが、国からの指名依頼って形で魔族討伐任務が送られてくる。国軍所属と違うのは拒否権があること。
俺たちは三組目、冒険者として旅に出る。だからいつ城を出てもいい。
俺個人としてはもう少し強くなってから出発したいとは思う。だが特殊スキルで強化された直感を持つ蒼華の言うことだし、旅の目的を考えれば悠長にしてもいられない。
「あいつは俺たちが探しに来るのを待つタイプじゃないと思いますけどね。じっともしてられないので」
きっとあの単純さであちこちの事件に首を突っ込みまくりながら元気に過ごしているだろうとそんな気がする。そしていつのまにか横にでも座っていそうだ。
「……たしかに夜雲から一週間も目を離したのは久しぶりだな」
「近くにいないと落ち着かないですよね」
何しでかすか分からんし。あいつは頭で考えてるフリしてる感覚派だからたまに突拍子もないことやらかすんだよな。
「まあ当てなんて……蒼華の直感くらいですけど捜索の手は多いほうがいい」
「私のスキルがもう少しでも役に立てばよかったんだが……」
「気にしないでくださいよ。今の時点で使いこなせてるやつのほうが少ないんですから」
楠葉さんの特殊スキル【世を見渡す者】は世界を検索することができる。検索するものと関わりが深かったり知識が多かったりすれば検索で出てくる情報も増える。このスキルのおかげで、転移石に巻き込まれた全員がとりあえず生きていることと、その大まかな位置情報が分かった。
ただ夜雲に関しては――従姉弟という関係性であるにも関わらず――位置情報が全く分からなかった。
今まで態度には表してないが心の奥底では気にしていることを俺は知っている。
「俺たちは行きます。楠葉先生もお体に気をつけて」
「……全く。教師なんて職に就くんじゃなかったな、落ち込んでる暇もなく生徒を導いてやらにゃならんのだから」
ぽつりと弱音を呟いたのは気心の知れた間柄だからだろうか。
「無茶はするなよ。……夜雲のことよろしく頼む」
凛とした表情で話す姿勢は年上の威厳を感じさせた。
「――いってきます」
世話になった城に背を向け歩き出す。蒼華はすでにその先にいて、どこか遠くを眺めていた。もしかしたらあの方向に夜雲がいるのかもしれない。
つられるように遠くを見れば快晴の空にぽつりと青い鳥が見えた。
「夜雲が見てたら興奮しそうな鳥だねー」
「異世界でも青い鳥は幸せの象徴なのか?」
「夜雲はたぶん気にしないと思うなー」
「それもそうだな」
蒼空に溶けるように消えていく鳥を見送って、幸先いいなとはしゃぐ姿が思い浮かんだ。実際に聞こえないのが寂しく思えるくらいリアルだった。代わりに誰か言ってくんないかな。
「幸先いいなー」
「……心読んでないか?」
少し期待してた俺もいるんだけどさ。
「読んでないし、心読めるようになったのは紅樹のほうでしょー」
「……そうだったな」
まさか蒼華にそんなセリフを言われる日が来るとは。一週間前の俺に言っても信じてはくれないだろう。
「さて、夜雲はどんな能力に目覚めただろうな」
声は小さく、蒼華には聞こえないように。正解発表は再会の時にとっておこう。
その時が、遠くないことを祈って。
―――リアライゼーション:情報開示―――
名前:コウキ
性別:男 年齢:15
種族:人族(異世界人)
職業:赫剣士LV1
状態:通常
所属:冒険者ギルド(Cランク)
【特殊スキル】
心を伝える者
【種族スキル】
成長補正:技能
界壁突破
【職業スキル】
赫怒
火の才能
剣の才能
魔導剣
【通常スキル】
剣術LV6
脚術LV1
炎魔法LV3
光魔法LV8
精密魔力操作LV2
身体能力強化LV7
回避LV5
上級鑑定LV5
アイテムボックスLV10
索敵LV7
速読LV1
先読みLV8(伝心)
【称号】
異界の勇者
名前:ソウカ
性別:女 年齢:15
種族:人族(異世界人)
職業:双銃士LV1
状態:通常
所属:冒険者ギルド(Cランク)
【特殊スキル】
運命を識る者
【種族スキル】
成長補正:技能
界壁突破
【職業スキル】
二丁拳銃
オートリロード
【通常スキル】
射撃LV6
蒼魔法LV2
光魔法LV8
回復魔法LV7
付与魔法LV4
精密魔力操作LV4
身体能力強化LV4
回避LV6
射程向上LV2
上級鑑定LV5
アイテムボックスLV10
先読みLV8
索敵LV5
料理LV3
家事LV1
【称号】
異界の勇者
他のクラスメイトとかギルツ国の事情とかはおいおい。
8/27 誤字修正しました。




