表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第一章 冒険前の下準備
12/56

12 女神と称号

今回はアーシュ視点です。

別視点って難しいですね……

 


「称号についてやりましょう」


 突然の提案に腕の中のヤクモちゃんがきょとんとした顔を向けてきます。【倉庫】での後始末に時間をとられふれあう時間が減ってしまったので、今こうして触れ合っているのです。それにしてもヤクモちゃんもだいぶ女の子らしくなってきたと思いませんか? 半ば洗脳じみた方法ではありましたが、彼女にとっても悪いことじゃないと思うので問題ないですよね。


「残りの特殊スキルは?」


 当然の疑問です、もともと彼女は特殊スキルの練習をするためにここに残っているのですから。練習を早く終えて幼なじみたちのところへ向かいたいのかもしれません。

 でも、私はまだ彼女を帰したくありません。

 なので引き延ばし政策です、それらしい理由だって考えてあるんです。


「これを見てください」



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 称号【混沌の器】

 相反するもの、対となるもの、摂理の異なるもの、一つの器では通常収めきれない属性を内包するものに与えられる称号。

 属性反発が起こらなくなる。




「…………?」


 ヤクモちゃんはよく分からないと言いたげな顔(事実頭の中でも理解してないですが)をして首を傾げます。飾っておきたいかわいさに意識が逸れそうになりますが今はだめです。意識して真面目な顔にします。


「この称号が煉獄と聖炎が共存できた原因ですね」


 興味を引かれたようなのでこのまま説明に突入しちゃいましょう。ヤクモちゃんの頭の中からは残りの特殊スキルのことなんて消えてます、今のうちです。


 称号、というのは特定の条件を満たすと世界から与えられるものです。

 称号を持っているとその称号に応じた恩恵が世界側から与えられます。大抵は恩恵といっても微々たるもので、称号の中には何の効果もないと誤解されている場合もありますが実際には作用しています。

 そして、称号の恩恵にも強弱があります。

 例えば【竜殺し】の称号は、世界から竜属性魔力がわずかながらも供給されるようになるので実用的でとても分かりやすい恩恵になります。

 しかし例えば二つ名のようなものが世間的に広く認められて称号になるような場合、恩恵はその人のテリトリーで尊重されやすくなる程度の効果です。実質的にはほぼ作用しません。

 【殺人】【放火魔】など罪科が称号になる場合もあり、この場合恩恵というよりも罰則がつきます。人から嫌われやすくなるような効果です。


「それでヤクモちゃんの称号なんですが」


「……ものすごく強い恩恵がある、とか?」


「そうです。特殊スキルに干渉できる程度には」


 ヤクモちゃんの称号【混沌の器】ですが、恩恵は「属性反発が起こらなくなる」です。これは例えば光属性と闇属性を混ぜても対消滅しなくなるということです。もしかしたら矛盾するようなことも矛盾しないで両立できるかもしれません。


「この称号があったから煉獄と聖炎が共存しちゃったってこと?」


「その通りです。思わぬ効果を発揮する可能性がある以上、先に称号についても知っておくべきでしょう」


「たしかにそうかも……」


 ふふ、誘導完了です。これでもう少しこの時間を延ばせるでしょう。

 ヤクモちゃんの残りの特殊スキルは受動的パッシブなものと予習済みのものと、後は使ってほしくないものしかないんですよね。つまりもう説明をするだけでおしまいなものばかりなんです。

 ここで少しでも引き延ばさないとヤクモちゃんとのふれあいはもう一瞬で過ぎていっちゃいます。


 神としての無限の時間、この程度引き延ばしても誤差の範囲でしょうが……後少しでも、とは思ってしまうのです。


 素直なヤクモちゃんの頭を撫でます。口では嫌がるようなことを言いますが実は気に入ってることは知ってます、心読めちゃうので。耳に指が当たるとくすぐったそうに動かすので思いっきり撫で回してやりたい気持ちになりますが自重します。以前やったときは尻尾の反撃をもらいました。そのまましゃがみ込んで頭を隠すように尻尾を巻き付けるヤクモちゃんは今思い出してもとてもかわいらしいと思います。

 はぁ……この時間がいつまでも続いてくれたらいいのに。


「…………」


 あれ、今日のヤクモちゃんは大人しいですね。普段ならこれくらい撫でると嫌がり出すのですが、今はじーっと私のことを見ています。


「……お姉ちゃん?」


「――――」


 聞きました!? ヤクモちゃんが私のことお姉ちゃんって、いえ今までも何度か言わせてましたけど。え、無理やりじゃないですよ。少し笑いかけて頼んだだけです。

 ともかくヤクモちゃんが自分から呼んでくれるなんて初めてですよ!


 一言で爆上がりした私のテンションは、しかし次の瞬間には冷水をかけられたようになるのです。


「――なにか悲しいの?」


「え?」


 続けられたヤクモちゃんの言葉はまるで予想外のものでした。私はいつも通り微笑みながらヤクモちゃんの頭を撫でていたはずです。心の中を読める要素なんて何も……。


 固まる私にヤクモちゃんは柔らかく笑いかけます。


「アーシュのことは知らないことも多いけど、少しは分かるようになったとそう思ってるよ」


 柔らかく笑うヤクモちゃんは私よりもずっと……女神のように、そう思えました。

 容姿はまだ、少し幼いですけどね。


「なんとなくだけど、アーシュは寂しがりなのかななんて、そんな気もするから」


 ヤクモちゃんは私が久しぶりにあった人です。だから私は、久しぶりに会話のできる相手を逃がしたくないと、初めはそういう思いでした。


「わたしは特殊スキルのおかげで神域? らしい書庫までは来れるし」


 でも今は少し違う気持ちです。

 きっとヤクモちゃんだからこそ、離れがたいと、そう思えるのです。


「スキルの練習が終わっても、たまに会いに行くよ。そして、お話ししよう」


 正面からヤクモちゃんに抱きつきます。親近感を持ってもらいたくてコピーした、似たような容姿は背の高さもほとんど同じで。今だけは元の、ヤクモちゃんよりも背が高い容姿だったら良かったと思いました。それならきっと、今はヤクモちゃんの顔の横にある私の顔は、彼女から見えない位置にあったはずですから。

 今の私の顔は彼女に見られなかったことでしょう。



「――アーシュのこと教えてほしいな。泣いているあなたが笑うためにどうしたらいいのか知りたいから」



 小さな声で私は答えます。


「……それなら私、狐耳の優しい妹がほしいです」


「んー、まあ、考えておくよ」


 苦笑しながら、ヤクモちゃんはそう答えてくれました。





―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 称号【多世界転移者】

 数多の世界を渡り歩いたものに与えられる称号。

 空間属性に対して補正がかかる。



 称号【異界の勇者】

 異界から喚び出され神の加護を受けたものに与えられる称号。

 成長性に補正がかかる。



 称号【稀少種〈天狐〉】

 存続が厳しいほどに数を減らした種族に与えられる称号。

 種族全体の生存本能を強化する。



 称号【幸運の女神】

 一定以上の幸運を持つ女性に与えられる称号。

 周囲の人物を幸運にし、信仰対象となり得る。




 それから、予定通り称号の勉強をしました。

 その後少し時間をとって、私の話をしました。あまり変わり映えのない面白くもない日常の話でしたがヤクモちゃんは微笑みながら楽しそうに聞いていてくれました。……途中までは。

 後ろから抱きしめながら、髪を梳いたり耳を触ったりしながら話していたせいか彼女はいつのまにか眠っていました。……ごめんなさい、本当は私が魔法で眠らせました。こっそりとやりたいことがあったので緊急手段です。寝顔を堪能してからそっと床に下ろして、根回しにいきたいと思います。


 ヤクモちゃんはいろいろ言ってくれましたがどうせならちゃんとしたつながりがほしいですからね。


 ばれたら騒がれそうなのであくまでこっそりと、です。



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 称号【統一神の妹】

 統一神からかぞくと認められたものに与えられる称号。

 世界からの補正が強化され、統一神とのつながりを得る。




 これからもよろしくお願いします、ヤクモちゃん。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ