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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第一章 冒険前の下準備
10/56

10 特殊スキル造物編

10/29 台詞を一部変更。大筋に影響はありません。

 アイテムボックス代わりに使われることになった世界は暫定的に【倉庫】と呼ばれることになった。大きさとしては地球が二つ余裕で入るくらいのもので、【空間征服】のスキルにより名実ともにわたしの世界になった。はっきりいって広すぎるし、有効活用できる気が全くしない。


 あ、スキルの練習っていう意味でならすごい役立ってる。


 初めは何もない世界だったせいか、征服した空間を操作するときにこう、引っかかりみたいなのを感じずに動かせた。おかげで空間の操作にも少しは慣れ、空間切断とか空間圧縮とか難しいのはともかく征服した領域を自由に転移くらいはできるようになった。アーシュ(他人)と一緒でも問題なく発動できた。

 転移門は今のところ征服した空間同士を繋ぐしかできないので(この空間に繋げたのはアーシュだし)、つまりは転移の下位互換になるわけで、練習する必要ないかなと思ってたらアーシュに諭された(脅された)


「これはスキルの練習です。まさかさぼろうというのではないですよね」


 読心って酷いと思うんだ、思想の自由的なのが侵されまくっているんだ。頭の中でくらい気を緩ませてもいいじゃないか。スキルの発動って集中力が必要で疲れるんだぞ、だいぶ慣れたけど。

 ……ごめんなさい今のは別にさぼるための言い訳じゃないのでその笑顔をやめてください、目が笑ってないです怖いです。後ろ手に隠し持っているのも、それなんですか?



 こほん。結果的に【倉庫】に初めてできた建造物は、凱旋門を小さくしたようなやたら装飾に凝った転移門になった。


 で、それが完成したあたりで次のスキルに移った。



―――――叡智の書庫:情報表示―――――


 【血換法トランスブラッド

 血液をあらゆる素材に変換する。

 使用する血液が質の高いものであればあるほど変換の効率が上がる。



 【瞬間錬成ファストクリエイト

 魔力を消費して知識イメージ通りのアイテムを瞬時に創り出す。




 二冊渡されたときはあれ? と思ったけど内容を呼んで納得した。たぶんこの二つはセットで使うことが多くなると思う。

 【血換法トランスブラッド】で使う素材を生み出して【瞬間錬成ファストクリエイト】でそれを加工する。加工に必要な知識は書庫にあるので、わたしって頑張ればなんでも創れるってことになる。


「ひとつひとつだったらまだいいのですが、組み合わせてしまうととんでもなくなりますね」


 わたしもそう思う。


 まあ結局は【空間征服】と同じ、わたし自身の技量が足りなくて使えこなせないっていう事態にはなったんだけど。

 【血換法トランスブラッド】は変換したい素材を思い浮かべながら発動させれば大した問題もなく素材を生み出したんだけど、【瞬間錬成ファストクリエイト】はかなり具体的なイメージが必要だった。どういうことかといえば、たとえば飛行機を創りたいとして、【瞬間錬成ファストクリエイト】を発動させるときに「空を飛ぶ機械」とイメージしてもうまくいかない。翼の形だとかエンジンの構造だとか、細部に至るまで具体的に考えた知識イメージが必要だった。


 複雑な構造を持つものは全然創れなくて、【倉庫】を【倉庫】として機能させるためのコンテナ群を創ろうってことになったんだけどそれすら満足に創れなくて、一旦書庫に戻ってアーシュの集中講義(コンテナの構造編)を受けることになった。さすがに思ったね、神様になんてことさせてるんだろうって。


 その甲斐あって【倉庫】には無数のコンテナ群が浮かぶことになり(大半は失敗作の扉がないものだけど転移で内部に送ればいいから特に問題はなし)これでスキルの発動にも慣れたのか複雑なものも創れるようになった。




 ● ● ●




「そんなこんなあって疲れたので今は休憩中です、と」


「誰に言っているんですか?」


 当然の疑問を笑ってスルーする。ちょっと言ってみたかっただけだ。深い意味はない。手元の本に視線を戻す。


 休憩中とはいったけど実際は次に【瞬間錬成ファストクリエイト】で創るものの構造を調べているところだ。でも何を創るのか決まってないのでただそこら中にある本をひっくり返しているだけになってる。この体わりとハイスペックだから記憶力もいいんだよね、斜め読みでも内容把握できる。すでに数十冊の本が散らばってるけど内容の暗唱なんて余裕だし。この記憶力理解力が地球でもあれば、試験とか楽だったのに。


「そろそろ何創るか決まりました?」


「うーん」


 創る候補くらいは決めたんだけど今はこうして本を読んでいたい。次々と頭の中に知識が入ってくる感覚が新鮮だ。あとやっぱり少し疲れた。


「そうですか」


 アーシュの声はいつも通りに聞こえたけど、読心がデフォのアーシュは当然わたしがだれてるのはお見通しなわけで。


「ならこれでも創ってみますか?」


 そう言って取りだしたのは紅い表紙にところどころ染みついたように黒い絵の具が塗りたくられた、どこか装飾に手作り感の残る一冊のノート。見覚えのあるその姿に冷や汗が流れる。ありえないと思いながらも一縷の希望を胸に口を開く。


「……えっと、それはいったいなにかなーなんて」


「闇に沈んだ紅色聖書です」


 闇に沈んだ紅色聖書。

 遥か過去、魔法が人々に認知されていた魔導時代の遺産、侵略されていた自国を救うために天才達が開発した当時としても規格外の兵器群の設計図が描かれた紅色聖書。それを現代の魔術師達が発見し内容をさらに危険に、獰猛に、凶暴に改変する。

 そこに、自国を守るなんて崇高な想いは欠片もなく。

 ただ迫害され続けた魔術師達の恨みが籠もっている。

 誰かが悪用することを願わればらまかれた紅色聖書は、世界の闇に沈んでいく――



 ――という設定の、中二時代のわたしが考えた「ぼくのかんがえたさいきょうのぶき」ノートだ。いや始めは幸運アイテム収集が高じて、こんなアイテムがあったらいいなあ程度のことを描いていたんだよ。でもそのうちなんか楽しくなってきちゃっていつのまにかこんなことに。


「なっ……! それはもうこの世に存在しないはずっ……!」


「叡智の書庫を侮ってはいけません。古今東西のあらゆる知識が収められているのです」


 無駄っ。その知識は叡智なんて高尚なものじゃないよ!


「いいですよねこれ。表紙の裏に天才達の祈りと魔術師達の恨み言がどちらも書かれているんですよ。……えーと、我々は」


「わああっ! 分かったから、ちゃんとやるから! だからそれから手を離して!!」


 どこかに処分してきてくれたらなおベスト!


「ちゃんとやることをやってから他のことをしましょうね」


「はい……」


 アーシュの笑顔が怖い……。いつもは甘いくらい過保護なのに怒るときだけ怖い。勝てる気がしない。戦ってもいないのに負け続き。


「聞き分けの良いヤクモちゃんが好きです」


 手を引かれて書庫にある転移門から【倉庫】に移る。


「では見てますから。失敗を恐れずに頑張ってくださいね」


 手を離されたわたしはさっさと終わらせてしまおうとすぐにスキルを発動させる。集中して変換したい素材を思い浮かべる。


「【血換法トランスブラッド】」


 渡された容器から数滴血を垂らす(今のわたしは意識体だから魔力はともかく血液はない)と、それだけで十分な量の素材が得られた。一滴の血液から椅子くらいの大きさの鉄塊ができるってどういうことなのかとは思うけど、きっと難しく考えてはいけないのだろう。


 そして、問題なのが次。

 変換した素材に手を翳しながら、頭の中に設計図を組み立てていく。原理的な矛盾がないように緻密に正確に。後は適切な魔力を流していけばいい。


「【瞬間錬成ファストクリエイト】」


 翳した手を中心に魔法陣が浮かび上がる。転がる素材を飲み込んで広がるそれは、赤青黄色、さまざまな色に揺らめきながら形を創っていく。

 まあスキル名の通り瞬間的な出来事だから視認はできないんだけど、自分のスキルだからか何が起きているのかは理解できた。

 イメージが不十分なら、扉の開かないコンテナのように外側だけのものが出来上がることも。


 客観的に見たら一瞬手元が輝いただけのこと。だけどその輝きの間に素材は形を変え、新しい姿をわたしたちに見せつけていた。


「バイクですか?」


「まあエンジンは魔力を動力にするタイプだけどね」


 構造が複雑なもの、ということで創ってみた。この乗り物は高校生の憧れが詰まってると思う。

 見た目は問題ないしサイズもわたし用の大きさになってる。あとはちゃんと走れば完璧。


「アーシュ、どう?」


「……問題ないようです。上達しましたね」


 神様のお墨付きがでました(アーシュは見ればそれがどういうものか分かるらしい)。今回の【瞬間錬成ファストクリエイト】はどうやら完璧のよう。やったね。


 微笑むアーシュに頭を撫でられる。アーシュの撫で方はとても優しくてすきだけど少しくすぐったくもあるので狐耳が無意識にぴこぴこ動く。

 ……じゃなくて。


「子ども扱いされてる!」


「そう言いながらも撫でられる手を払わないヤクモちゃんはかわいいと思います」


 満足したのかアーシュの手が離れた。一瞬「あっ」とか声を上げかけたのを気合いで抑え込む。


「さて、次も撫でてもらえるように頑張ってくださいね」


「~~~~っもう! 違うからね!」


 火照る顔をアーシュから背けながら、わたしは何が違うのかよく分からない叫びを上げて誤魔化すようにスキルの発動を始めた。

 ちらと見たアーシュの顔は非常に満足げだったように思う。




 

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