まったり過ごしています
「タカサカ陸士長」
「あいよー」
仕事の手を止めアンドロイドが俺を呼ぶ。
「陸士長、仮にも軍隊なのですからその返事は如何なものと考えます」
流暢に話すこのアンドロイドは俺の部下兼副官?のサポートアンドロイドだ。
即席兵士である俺の様なヤツらに漏れなく一体付いてくるとてもお得で勇主な存在だ。
兵士の教育から艦隊運用まで幅広い用途に運用可能な万能型アンドロイド。
正直このアンドロイドだけで良いんじゃね?
「そう言う訳にまいりません、重要な判断や指針は私たち機械の仕事ではなく、あなた方人間のお事です」
軽く説教をかませれます・・・ごめんなさい。まじめに仕事をするのでその威圧の込められた視線を緩めてください。
レベル上げをしていたゲームの画面をフレームアウト、もう少しでレベル上がるとこなんだがなぁ・・・。
すると画面に別のカーソルが現れ、ゲームのウィンドを消去する。
あぁ・・・まだセーブしていないのに、すんげぇいい笑顔で睨まれました。
主星の或る星系から遠く離れた辺境星系。領土として3つある星系の一つだが、有人惑星は一つもない。
巨大な赤色矮性が幅を利かせる、どちらかと言うとお爺ちゃん星系だ。
観測の結果、内惑星の二つが膨張を続ける赤色矮性に飲み込まれ、寿命を迎えつつある星系だ。しかしながらこの星系、資源星系としては途轍もなく優秀だ。
星系で一番大きなガス惑星は有用な燃料として採取されている。ただし、巨大化した恒星に引っ張られている様で、公転軌道が楕円に変化している。
計算では後300年程で今俺のいる第4惑星と衝突するという計算が導き出されている。
なので、星その物を吸い尽くす勢いで採取プラントが増築されている。
大地の無いガス惑星なので、管轄は海軍となっている。
そして俺のいる第4惑星は分かりやすく伝えるならば月の倍程、火星より小さく月よりでかい。大気は無く焼けた大地が何処までも続く鉱物資源惑星だ。
ここに移動可能な採掘拠点を展開し、日々惑星表面を掘り返すのが俺の仕事だ。
ココでしか取れない貴重な鉱物資源は、復興に喘ぐ星系政府の貴重な財源として外貨獲得に勤しんでいます。
環境汚染?誰も住めない滅ぶ運命の星系だ、遠慮はいらねー効率重視でAI重機軍が24時間フルマラソンで日夜頑張っているのです。
「しかし、なんだねぇ・・・」
混じりっ気なし、合成100%の軍用冷食ペロリと二人前ほど片付け、コーヒーと言うよりコーヒー味飲料を口にすると何となしに言葉が漏れる。
「どうしました陸士長?」
俺の食い散らかしを片付けテーブルを拭くアンドロイドの部下子さん。そこで視線をくれれば完璧なんだけどなぁー・・・。
「いやね、この星にいるのが俺らだけってのは贅沢なんだか寂しいんだかってね…」
24時間絶え間なく採掘を続けるAI重機軍は予定を僅かばかり進んでいる事を誇らしげに進捗状況モニターに映し出す。
「陸士長って普段何を考えていのか不思議な方ですけれど、やっぱり不思議な方なんですね」
「過分な評価をありがとう、一向に褒められた気がしないのはなぜだろう?」
「そりゃそうですよ、私褒めてませんから」
食事の時位仕事を忘れたいと懇願した結果、朝と夜の食事時間だけは機能一辺倒の軍服からややラフな私服に着替えてくれるようになった部下子さん。私服時は口調もややラフになる、無駄に高性能だな・・・。
「無駄とはなんですか、こうして気の使う事が出来るアンドロイドなんてこの星中を見渡しても私だけし かいませんよ?」
つまりはこの星には俺らしかいないと・・・つーか、なぜモノローグに答える?
「何言っているんですか、朝から晩までダダ漏れですよ?」
恥ずい!これではどっかのゲームの主人公の様ではないか!
「それと、何度も言っていますが私の名前は部下子ではなく、『エイシャ・263』です」
几帳面にエプロンをたたみクルリと器用に回ると鼻先に指を当てる。
【エイシャ型アンドロイド】
人間で言う20代前半を模して付く有れた女性型アンドロイド。
基本人格設定type『エイシャ』は比較的人受けの良い思考から広く普及したタイプ。
復興の基幹システムとして軍用・民生用ともに多く普及し、生産台数は10万を超えると言われている。
AIタイプ+製造番号=名称が一般的な扱い。
数多く存在する『エイシャ』型でも3ケタ台は特別仕様の高級機。
【エイシャ・263】
壊滅寸前まで追い込まれた星系国家立て直しの為に生み出された『555シスターズ』の一機。
政治・軍事・経済と国の中枢を担う人材のサポート用として今も最前線に立つアンドロイド達を555シスターズと呼ぶ。
実際は300機も存在しないが、配備された最も新しい機体番号が555であったことからいつの間にかこの様に呼ばれるようになった。
独立したネットワークと、星系のメインコンピュータとも結ばれ、まさに国を動かしているシステム。
本機である263号機は事故により大きく破損、大規模な修理が行われ中枢機能は最新型へと置き換えられた機体。
仕様変更に伴い、シスターズからは外されることになったが、機体スペックは高級機の最新型と言う贅沢な性能を誇る。
エイシャ型の普及に伴い、見分けのつかない担当官がうっかり彼女をサポート機として配備してしまった。
「さてと、今日もお仕事がんばりましょうか!」
寝起きの割に高いテンションの俺様、くぅ~朝日がまぶしいぜ!(モニター越し)
「陸士長、さっさと着替えてください。もうとっくに遅刻の時間です」
唯一のプライベートルームにも問答無用で突撃の部下子さん、お前は俺のオカンか?
さて、私ことジョー・タカサカ陸士長のお仕事とは何であろうか?
それは、作業用AI達の管理監督だ。
基本放置でも黙々と仕事をこなすAI達なのだが、定期的に人の手が入らないと作業効率が落ちてくる。
偉い学者さんの見解ではAIの存在意義が人への奉仕との事で、人間が手を懸けねば万全な働きが期待できない。AIは自動機械ではなく、プログラムと言う人格なのだそうだ。
ほんと、面倒くさい、だがこの面倒くさい仕事を俺は大変気に入っている。寧ろ天職?
採掘エリアごとに配備された作業統括AIを呼び出し面接、現状存在する小さな問題や、AI達が気付いた事などの報告を受け、共に解決策を探して行く仕事だ。
実際は無駄話が多い。なんてことはない、AI相手のカウンセラーだ。
・・・でもこれって、軍人の仕事?
二人きりの管制室にパチパチと入力音と床を磨くモップの音がこだまする。
「時に部下子君?」
報告書の入力をする手を止め、忙しなくフロアを磨く彼女を呼び止める。
そう言えば今月の月間目標は清掃活動だったな・・・。
「何ですか陸士長?忙しいのですから手短にお願いします」
色んなモノが突き刺さる返事をありがとう、そしてアナとのいう陸士長はか弱い生き物です。愛情を持って大切に接してください・・・おながいします。
「清掃活動は大いに結構、こうしてくすんだ床も輝きに満ちている。大いに結構・・・でもね?」
チラチラと彼女を見ていると、頭に巻いていた三角巾を取り俺のデスク横までやってくる。
「何ですか陸士長、はっきり言ってください」
機嫌を損ねてしまったらしく腰に手を当てモップを突き立てる。
「あのね・・・言い難いんですが映り込んでますよ?」
床面を指さすと室内の過剰な明かりが反射し、彼女のスカートの中をぼんやりと反射させる。ふむ、やはり白は良い。
「ニギャーッ!陸士長のえっち!」
不思議な鳴き声を残し、スカートを抑え飛び出して行く部下子さん。
誰だ、あんな萌要素をプログラムした奴は?うむ、良い仕事だったぞ。
名も知らぬ技術者に敬礼を送る。
・・・いつの間にか床がつや消し仕様になってました、残念。