ごめんね
十二月三十一日。土曜日。
私は、世界から離れる決断をした。
そう、私なんかは世界に存在してはいけないのだ。
その前に、直人君にはお別れを言わないといけない。
頭の中で何度も考えてみる。
それでも、うまく言葉に出来そうにはない。
そうだ。
今日は、書かないつもりだった交換日記を使わせてもらう。
あれなら、言いたい事を書ける……。
十二時三十分。
予定より、早く直人君が来た。
そう言えば、私が直人君宅へ訪問した事はあったのだけれど、迎えに来てもらえるなんて不思議な感覚だ。
二年半もの間、外に出られなかった少年の成長が素直に喜ばしい。
もう、大丈夫だよね。
私の日記を受け取り、さわやかな別れとは言わずとも、こんな事態に陥るとは思っていなかった。
さようなら。
お互いにそう告げて、それで終わりだと思っていた。
いや、私はまだ未練があったのかもしれない。
ついには、私が守ってあげないといけない直人君にまで、助けを求めてしまったんだ。
私は本当に最低な人間だ。
私たちは、時間を潰すために、交換日記の公園に来ていた。ブランコの柵の雪を手でふき取り座るのだけれど、お尻がひんやりと冷たかった。
交換日記を読んだ、直人君はこう言った。
「嫌だよ。僕は終わりたくない」
あまりに意外な答えだった。彼はもう歩き出しているのだから、もう大丈夫だと思っていた。私なんかがいなくたって、お兄ちゃんも弥生さんもいると思っていた。
駄目だよ……。
私なんかに優しい言葉をかけたら……。
その気持ちは有難いのだけれど、私なんかの席は世界に存在しないのよ。
「ごめんなさい。やっぱり、駄目なの。私の心はとっても汚いの。とっても醜いのよ」
直人君はついに、泣き崩れてしまう。
ごめんなさい。
私は、また人を傷付けてしまった。
本当に、最低だわ。
それでも、直人君は言い続ける。
「お願いだから。終わりになんて言わないで」
気がつけば、私の頬にも涙が流れていた。
なんで、私なんかのために泣いてくれるのだろう。
私を失うと言う事実が、こんなにも直人君を傷付けてしまった。
直人君はこんなにも、私を必要としてくれている。
世界にいるべきでない私でも、彼のために存在しなくてはいけないのかもしれない。
ごめんね。直人君。
「ごめんね」
もう、大丈夫だよ。
私は、どこへも行かないから。
「ごめんね」
だから、泣かないで。
ごめんね。
どのぐらいの時間が経っただろう。
突然、直人君が立ち上がった。
「僕は斉藤さんに救われたんだ。斉藤さんの心が汚いなら、それも受け止めてくれる。洋介さんだって弥生さんだって!」
気のせいかもしれない。
だけど、直人君の顔は晴れ晴れとしていて、瞳には強い決意を感じる。
頑張ったね。直人君。
ありがとう……。
直人君はまだ何かを言っていたけれど、最後の言葉は除夜の鐘の音に打ち消されてしまった。
だけれども、私なんかにはもったいない、直人君の決意は確かに受け取った。




