哀願
由紀ちゃんは、少し前の僕だ。
世界に否定されたと思い込んでいる。
世界を拒絶し、自分の殻に閉じこもろうとしているんだ。
この事態に、弥生さんが気がついていないとは思えない。
それでも、由紀ちゃんの闇は払えなかった。
それならば、僕には何が出来る?
僕はどうしたら良い?
「嫌だよ。僕は終わりたくない」
結局、出てきたのは自分本位なお願いだった。
「ゴメンなさい」
駄目だ。届かない。
「僕も……。僕もそうだった。だけど、由紀ちゃんは違う」
「そうね。違うよ。直人君は違う」
「違うから駄目なんだよ」
「ごめんなさい。やっぱり、駄目なの。私の心はとっても汚いの。とっても醜いのよ」
「お願いだよ」
新聞配達のアルバイトをして、家で勉強しているだ?
普通は学校に行きながら、普通はアルバイトをしながら、普通は部活に汗を流しながら、普通は友達と毎日遊びながら、普通は恋愛しながら、普通は将来の目標に向かって色んな経験や努力をしているんだ。
同年代の人たちですら、必死に人生を生きているのに……。
僕は、あまりに無力で小さい。
僕は、あまりにも普通以下だ。
いざと言う時に、何も出来ないじゃないか!
僕には、もう言葉は見つからなかった。
ただひたすらに『お願いだから、いなくならないで』と言う事しかできなかった。
ついには、崩れ落ち、雪の地面に座り込んでしまう。
情けない事に、涙を流しながら、鼻水をたらしながら。
僕は、ひたすらに哀願していた。
「お願いだよ……」
どれほどの時間が経ったのかわからない。
ズボンもパンツも、溶けた雪で水をかぶったように濡れていた。
いつからだろうか?
由紀ちゃんも、座り込み、謝り続けていた。
まただ。
僕の弱さが人を傷付けた。
とてもとても、大事な人を……。
ここで、うずくまってちゃ、何も変われてないのと同じだ。
普通以下でいいじゃないか。
それでも、由紀ちゃんだけは守れよ。
男だろ。
何でも良い。
何か言えよ。
高橋直人!
「僕だって、僕の心の中だって汚いよ。弱くて惨めで情けない。だけど、みんなは受けれいてくれた。僕を外に出してくれたじゃないか。この前のファーストフード店でだって僕のために怒ってくれたじゃないか。僕は、だから、前に進む事ができたんだ。斉藤さんの心が汚いなら、それも受け止めてくれる。洋介さんだって弥生さんだって。だから、後ろを向いちゃ駄目なんだ。立ち止っちゃ駄目なんだ」
そうじゃないだろ?
高橋直人。
二人にに頼るな!
そして、僕は自分自身の禁を犯してしまった。
その時、除夜の鐘の音が響き渡る。
除夜の鐘が鳴り響く中、最後に見た由紀ちゃんは、笑ってくれていた気がする。




