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そこには、もう、いない

 十二月二十五日。日曜日。

 クリスマス会は順調に進んでいる。

 やることはいつもとさほど変わらない。

 ただ、派手な飾りつけや豪華なお食事とケーキがあるのだ。

 それらのクリスマスだけの特別な装飾品は、何もせずに存在しているだけなのに、周りの雰囲気を明るくさせている気がした。

 キクさんとシズカさんは同じグループで、私も同じグループで同じ席なのだけれど。

 タケゾーさんの変わりに座っているのは、知らないボランティアの人だった。

 やっぱり、タケゾーさんはいない。

 本当にいないんだ。

 私は、出来る限り明るく振舞った。笑顔絶やさないように。涙がこぼれないように。

 みんなが帰る時、明子さんが話しかけてきた。

「キクさんとシズカさんがね、お話があるっていうの。片付けは、私たちに任せて! 行って来てくれるかしら?」

 玄関ロビーに行くと、ベンチにキクさんとシズカさんが座っている。

「由紀ちゃん。あのね。先週の土曜日は、タケゾーさんはね本当に落ち込んでいたの。取り返しのつかない事をしてしまったって」

「そうだったわ。そして、日曜日に電話してきてくれたわ。許してくれた。良かった。って」

「あんなに喜んでいたタケゾーを見るのは初めてだわ。いいえ。それだけじゃない。由紀ちゃんが来てからと言うもの。本当に幸せそうだった」

「私たちも含めてね」

「あなたの笑顔は本当にステキだわ。ありがとう」

「私たちの事忘れないでね」

 

 後で知ったのだけれど、もう私は施設に来れないんじゃないかと言う噂だったらしい。

 それで、お別れの挨拶のつもりだったみたいだ。

 その噂は間違っていなくて、今日のクリスマス会で最後のつもりだった。

 ここに来ると、どうしてもタケゾーさんの事を思い出してしまう。

 

 十二月三十一日。土曜日。

 今日、私は答えを出さなくてはいけない。

 人類が世界に必要かどうかなんてわからないけど。

 でも、きっとみんな頑張ってるんだから、それを奪うなんて良くないんだ。

 滅んでしまえと思った事もある。

 それでも、失いたくない。

 消えて欲しくない人たちも沢山いる。

 そう。

 答えは考える必要なんかない。

 人類はこのままずっと、いつまでも、存在して欲しい。

 だけれども、私は存在する価値のない人間だ。

 

 お兄ちゃんの提案で、みんなで初詣をしようということになっていた。

 だけれども、肝心のお兄ちゃんは事故で大怪我をして病院にいる。

 弥生先生は、別の相手がいるから行けないらしい。

 直人君と二人で行くことになっていた。

 交換日記から得た情報だと、最近は、昼間も一人で外にも出られるようになってきたみたいで、いろいろな事にも挑戦しているみたい。

 直人君は確実に前進している。

 

 私は、ある決断をした。

 世界は続く。

 そのために、投票もしなくてはいけない。

 だけれども、私なんかは世界にいてはいけない。

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