お誘い
結局、由紀ちゃんの笑顔に救われていると言う事を書いた。
スタンプラリーの公園には、十分ほど前に到着した。
それは丁度、弥生さんが到着する時間でもあった。
この時の僕は、今日起きた嬉しい出来事の余韻が残っていて、弥生さんはそんな僕の心を読み取ったみたいだ。
初めてランドセルを背負った子供を眺めるような、大人の微笑で、嬉しそうに聞いてきた。
「どうだったい? 初デートは?」
「全く。デートなんてとんでもない。腕も足もパンパンですよ」
弥生さんは、クスクスと微笑んでいる。
「でも、楽しかったろう?」
「はい! あ、今日は由紀ちゃんを呼びました」
それだけ言うと、僕の心の声で情報を補完したのだろうか。
大体の事情を理解したようだ。
「そうだね。あの子も言葉にするのが苦手だからね」
その時、由紀ちゃんも来た。
愛の告白だけではなく、交換日記の事もうまく伝えられなかったみたいで、弥生さんがいる事に驚いていた。
「おやおや。直人君。堂々と二股かい」
「ち、違います」
「違うのかい。私は遊びだったんだね」
弥生さんは、時代劇のようにオヨヨヨと身体をひねって、泣きまねをする。勘弁してくださいよ。
でも、由紀ちゃんが笑ってくれているからいいか。
由紀ちゃんの笑顔からは、悲しみはもう見えない。そう思ってしまった。
いつものあの笑顔だ。
感情表現も話すのも苦手だけど。
笑い声は小さいのだけど。
笑顔だけは凄く大胆で、整った顔をしわくちゃにしながら、見てるこっちまで嬉しくなる、そんな女神の笑顔だ。
そして、僕は二冊のノートを二人の女神に手渡した。由紀ちゃんからもノートを受け取った。
その後、僕らはそれぞれ家路に着く。
やっぱり、毎晩、呼び出すのは悪いよな。
早く、安心させないと……。
家に到着し直ぐに、由紀ちゃんの日記を見た。
きっと、言えない事が沢山あるだろうなとは思っていたはいたけど、これは予想以上だ。
由紀ちゃんの交換日記には、数ページにわたって所狭しと書き込まれていた。
愚鈍な僕は、この時になって、やっと気がつくことが出来た。
由紀ちゃんも、傷つきながら戦っている。
それなのに、僕のために時間を割いて優しくしてくれている。
僕は何も出来ない。
日記の最後には、初詣出のお誘いがあった。
洋介や弥生さんにも声をかけるみたいだ。
それにしても、『行けるかな?』なんて、疑問文を使っていますけど、悩むわけもないので、僕は心の中で即答した。
もちろん、行きますとも!




