診察日
十二月八日。木曜日。
診察室に入ると、弥生先生と直ぐに目が合った。
「やぁ、おはようさん」
「おはようございます」
「雪が積もってきたね。転ばなかったかい?」
ついには、札幌の街に舞い降りる雪が、溶けることなく積もり始めていた。まだ地面の殆どはむき出しなのだけれど、一、二週間のうちに白く染められるだろう。
そして、弥生先生の心配は的中していた。
「尻餅をついてしまいました」
「あら。それは大変だ。大丈夫なのかい」
弥生さんは、大げさに心配してくれる。学校に行ってた時は、週に一度は転んでいたもの、大丈夫ですよ。
「大丈夫ですよ。恥ずかしかったけど」
「油断していると、危ないからね。私の患者さんにも、手首の骨を折ったりする人が、毎年一人はいるのさ」
そうなのかな。転んで骨を折るって実感が沸かない。そう言えば去年、お母さんの友達が骨折したって言ってたかな。
「さて、それじゃ本題だ。宿題の程は順調かな?」
「いえ。でも、土曜日のレクリエーションが凄く楽しかったです」
だから、介護の夢を継続中ってことなのかな? 自分でも良くわからない。
「そうかいそうかい。今週も行くんだろう?」
大体の位置と地図は貰ってあるだけど、少し場所が不安だったので、弥生先生にバスでの行き方を教えてもらった。
「それじゃ、今週もこの宿題を継続だね! 良いかい。じっくり悩むと良いさ。まだまだ、若いからね。介護を目指しながら、全く別の夢を持ってしまっても誰も責めないよ。これが、若さの特権さね!」
私は心の中で呟く。本当は『学生のうちの特権』なんだろうな……。
ううん。まずは、頑張ってみないとね。
それに、今は、ネガティブな発想だけじゃない、本当に介護の仕事に興味を持ち始めた。
「よし! それじゃ、土曜日に会おうね」
直人君の事を聞かれると思っていたけど、特に何もなかった。この時間は私のために使っていると姿勢なのかな。
帰り道、今日も書店に寄った。
介護の資格について、調べようと思ったの。
やっぱり、専門的な学校に行かなくちゃ取れない資格が一杯ある。
そして、専門学校や大学に行くためには、高卒の資格が必要なのよね……。




