2時間目 悲しきかな
どうも、月森拓海です。
今、自分はとてもピンチであります。
ついさっき、俺と理事長の息子である我孫子和彦は教室に着き、自分の自己紹介が済んだところです。
ところが、クラスの人達の反応は冷たいものでした。
ある人は俺の転科(?)に、特に興味もないので本を読んでいたり、またある人は、俺に不満の冷たい目線を送っている人もいた。
ざっと見て、半分の人が後者に当てはまる。確かに、魔法の使えない俺がここに居ることの方が間違っているので、結果的には俺が悪いのかもしれない。なので、みんなの目線も合わせないようにする以外は、俺に抵抗する権利はないのだ。
「月森君。」
俺の隣にいた女の人が、俺に話し掛けてきた。
この人は、この魔法課のクラスの担任である太田真弓先生である。
見た目は優しそうな先生だ。
「君の席はあそこね。」
先生が指差したのは、一番後ろの席だった。俺はその指示に従って、席に向かった。
その間にも、クラスの人達の視線を避けるようにしていた。
俺はなるべく音を立てずに、席に着いた。
(はぁ、疲れたぁ。)
俺は入学初日から、精神的に疲れてしまった。
クラスの人達は俺を見るのを止め、先生の話に耳を傾けたようだった。
俺もそっちを聞こうとした。
「拓海。」
誰かが俺に話し掛けてきた。
俺は声がした方を見た。
そこには、小雪ちゃんが無邪気な笑顔で俺を見ていた。
「小雪ちゃん!!」
「にゃあ。拓海は小雪の隣です。」
「あはは。そうだね。これからもよろしくね。」
「はいです。」
このクラスに知り合いがいるのは、今の俺にとっては嬉しいことだった。
(そういえば……?)
俺はもう一人、このクラスに知り合いがいることを思い出して、周りを見ようとした。
すると、彼女は俺の隣に座っていた。
「天宮さん。」
そう、俺が探していたのは天宮さんだったのだ。
彼女は俺が名前を呼ぶと、赤い顔をして振り返った。
「またあったね。これからもよろしく。」
「う、うん。」
彼女は顔を赤らめながら言った。
彼女はきっと、これからも俺を助けてくれることだろう。
そして、小雪ちゃんは俺に安心という安らぎを与えてくれるだろう。
俺はこのクラスで良かったかもしれないという気持ちに初めてなれた気がした。
「月森君。」
誰かが俺を呼んだ。
その声は俺の前の席から発せられた物だった。
俺が前を向くと、女の子が俺の顔を面白そうに見ていた。
その顔は忘れるはずがない。
「さっきはごめんね。」
彼女は急に謝ってきた。
「い、いいよ。別に気にしてないし。」
「そう、それは良かった。私は相原千鶴っていうんだ。」
そう、彼女こそが俺を気絶させた原因の一人である。
「どうも、月森拓海です。」
「本当にさっきはごめんよ。」
「だから、もういいって。」
気にしてないと言えば嘘になるかもしれない。
しかし、あれは俺があの場にいなければ起きなかった事……つまり、事故なのだ。だから、俺も彼女を責めるつもりはない。
……責めるつもりはないのだが。
「ねぇ、なんでさっきみたいな事になったの?」
これだけは聞いておきたかった。
「それは、花月に梅干しをたべさせようとからかったら、本気で怒り出しちゃってね。」
ああ、俺はそんな事が原因で気絶させられたのか。
俺は自分の身に起きた不幸を笑い話のように思えてきた。
俺はこの出来事を『梅干しと不幸』という名前で孫の代まで語り継がせたくなってきた。
「あ、そうだ。」
千鶴が隣で寝ている子を起こし始めた。
「起きて。」
千鶴は強く寝ている子を揺すっている。
「嫌ですよ。疲れてますので、後にしてください。」
寝ている彼女は千鶴の手を退けた。
「ほら、起きなって。」
やっと、彼女は起きた。
「なんですか? 千鶴さん。」
彼女はあくびをして、目を擦った。
俺はその子の顔を知っていた。
彼女は俺と目が合った。
俺は至って冷静で何も動じなかったが、彼女は違った。彼女の表情からは、明らかに動揺があった。
「あ、あの、その……さっきはごめんなさい。」
また唐突に謝られたものだ。
しかし、俺は謝られる覚えがないわけではない。
「いいよ、別に。あれは事故だったんだから。」
「そうですよ。あれはお兄さまが悪いんですよ。」
恵魅が横から出てきて言った。
「お兄さまが私の後を追わなければ、あんな事にはならなかったんですよ。」
「面目ないです。」
俺は下に俯いてしまった。
「まあまあ、あんなことになったのは私たちのせいなんだから。拓海も気にしないでよ。」「そうですよ。拓海さんは気にしなくていいですよ。」
花月と千鶴の二人は、俺を元気づけようとしてくれた。
「ありがとね。二人とも。」
「いえいえ。気にしないでよ。」
二人はそう言ってくれた。
俺は二人の事が少し好きになったかも。いい友達になれそうだ。
それにしても……急に拓海って呼ばれたのには、正直驚いた。
こんなにも早く俺を下の名前で呼んでくるとは、予想外だった。
まあ、それはそれで早く意気統合できるのだから・・・。
「気に入らない。」
先生の話が終わり、今日はこれで解散というときにいかにも体育会系の男が言ってきた。
「は、はい?」
いきなりの事で、俺は驚いた。
「魔法が使えない奴がこのクラスに入ることが気に入らないって言ったんだよ。」
ああ、さっき俺をとても冷たい視線で見つめててくれた一人かぁ。
まったくもって、あんな熱烈な歓迎は初めてだな。
「ちょっと裕司。」
千鶴が俺の隣で言った。
「あんた、拓海が魔法を使えないからってそれはひどいんじゃないの? 拓海はもうこのクラスの一員なんだから、そんな事言うんじゃないわよ。」
「おい千鶴、こいつの肩持つのかよ?」
「ダメ?」
「当たり前だ。」
二人はそれから少しの間言い合いをしていた。
そして、俺はと言うと・・・
そういえば、月曜の日課を聞くの忘れてたなぁ。どうしようかなぁ?
あ、忘れてたと言えば・・・母さん、蛇捨てたかなぁ? なんか今夜の晩飯に出てきそうだなぁ。
はぁ。なんか、家帰るのがめんどくさくなってきたなぁ。
などという事を考えていた。
二人はなおも言い争いをして、俺は現実逃避をしている。
こんな光景を見ていて、コイツが黙っていなかった。
「お兄さま、早くこの状況をどうにかしてください。」
俺はその言葉で現実に戻された。
まったく、俺ってばまた変な事で現実逃避しちゃったなぁ。
気がつくと、千鶴と裕司の言い争いは『俺の話題』から『どっちの方がバカか』という話になっていた。
そして、その周りでは小雪ちゃん達が二人を止めていたが、二人はそれを聞いてないようだ。
では、二人のくだらないと言ってしまうほどの会話を少しだけ、ご賞味下さい。
「私の方が前回のテストであんたに10点も勝ったからね。」
「何言ってんだよ。その前は俺が勝ったんだからな。」
「そんなのは遠い昔の話よ。」
「いや、昔の話じゃないね。」
「いや、昔だね。」
・・・はぁ。どうですか? なかなかのくだらなさでしょ?
これが俺が原因だなんて自分でも考えたくありません。
しかし、この原因を作ったのは魔法の使えない俺。はっきり言って逃げられません。(と言っても、さっき魔法が使えない自分を否定されたことで現実逃避してしまいましたが)原因が俺にある以上は俺がこの場を止めなくてはなりませんよね?
しかし、魔法の使えない俺がどう二人を止める?
また魔法を使われたら、今度は記憶が吹っ飛ぶかもしれない。いや、もしかしたらこの命が尽きてしまうかもしれない。
それに、俺が入ったことで話がややこしくなる確率もある。
ああ、俺はどうすればいいのだ?
誰か教えてくれ。
教えてくれたら作者が何かしてくれるかもしれないですよ。
こんなバカな作者でも雑用ぐらいはできるかもしれません。
さあ、誰か私に答えをくださいぃぃぃぃっ!!
「お兄さま? 読者の方が飽きてしまうのでさっさと止めやがれです。」
「あ、はい。すいませんです。」
ということで、俺は二人を止めることにした。
さてと、では私が二人を止める様をご覧下さい。
「二人とも、もう止めなよ。二人が争ったって何も解決しないよ。」
俺はこの場面にもっともらしい言葉を言った。って、俺が原因なんだけどね。
二人は言い争いをやめ、俺を見た。二人が喧嘩を止めた。
どうです? 昔から自分は運だけは良い方なのでこれくらいは楽勝なもんですよ。
「ちょっと拓海、あんたはどっちがバカだと思う?」
はい?
「そうだ。お前が決めろ。」
は、はいぃぃ!?
どうやら俺の運はここでは効かないようです。
ってか話がややこしくなってしまいました。
さて、どうしようかなぁ?
まあ、言わしてもらうと二人ともです。
しかし、そんな事言えるはずがない。
とりあえず、みんなに助けを求めるか。
・・・・・・ああ、なんかみんなして俺を哀れんだ目で見てますよ。
小雪ちゃんなんて涙目だよ。
これでみんなが使えないことがわかったな。
それじゃあ、あの手を使うか。
気が進まないなぁ。
「ねぇ、裕司君が俺と勝負ってのはどう?」
俺はこの二人にはテストで負けるはずがない。
それなら、原点に戻って千鶴じゃなくて俺が代わりにテストで勝てば彼も俺がこのクラスに入る事を許してくれるだろう。
「良い度胸だな。」
・・・え?
「さあ、かかってきな。」
はいぃぃぃぃぃっ!?
ってな訳で俺は彼と戦うはめになってしまったが、そろそろ時間も時間なので次回に続かせていただきます。
御感想お待ちしております。