35時間目 鬼
俺の目の前にはこの世で一番憎むべきカスヤロウが立っていた。
しかし、俺はそいつが人間でない事をすぐに理解した。
奴は長く伸びた髪の両端から角が生えていた。
一目見れば分かる。このカスヤロウは鬼だ。
あの月光に封印されていたはずの鬼だ。
しかし鬼だろうが神だろうが俺には関係なかった。
俺の怒りは頂点まで達していたからだ。
「ケケケ、遂に・・・遂に天宮の者を殺したぞ。これで月森の者達も手を出せない!余はこの世界で最強の存在になったのだ!けーけけけ・・・」
その言葉、喋り方、容姿、そして存在、ヤツの全てを否定したい。
「おい!そこの月森の者よ!」
「俺・・・か?」
俺はもう動かない麻奈美を見ながら言った。
「貴様以外に誰がいる?貴様、余を封印したヤツにそっくりだな?生まれ変わりか?」
「・・・知るかよ。カス」
「ほぉ、・・・まあ、そうだなぁ。貴様、顔が気に入らないから」
麻奈美を殺したテメーは
『死ねっ!!』
ほぼ同時だった。
鬼は突きを、俺は月影を相手にぶつけた。
手と刀。
普通なら素手で刀を止めたら切れる。
しかし、奴の手はかすり傷一つなかった。
「どうした?それで終わりか?」
「チッ!」
俺は鞘で思いっきり横腹に打撃を与えようとした。
当たった!
しかし鬼にはノーダメージだったようだ。
チッ!この化け物がっ!!
「おやぁ?余にはそのような攻撃は効かぬぞ?」
「なら、これならどうだ!?」
俺は腹にソバットを当てた。
鬼はくの字になった。
これなら・・・。
「・・・!」
鬼が急に顔を上げた。
「効かぬわっ!!」
鬼の突きが腹に命中した。
俺はそのまま後ろに吹き飛ばされた。
「ケケケ、やはり一人では無理ではないか?諦めて死ぬことだな」
「ヘッ!諦める訳には行かねーんだよ」
俺は刀を杖代わりに立ち上がった。
「そうか。しかし・・・」
鬼が俺に向かって走ってきた。
俺は構えた。
しかし、鬼の方が早かった。
「貴様はここで死ね」
俺は腹に蹴りを喰らい、また吹っ飛ばされた。
しかも、今度は肋の骨折のおまけ付きで、だ。
まずいなぁ。
俺は痛みを考えないようにしたが、やはり痛む。
「ケケケ、さあ、早く抗がってみろ。そして余を楽しませてみろ。それがお前の最後の姿になるのだ。ケーケッケッケ」
ウザい。そして憎い。
俺は近くにいたおじさんの方に向かった。
目的は・・・月光だ。
俺はおじさんの手から月光を取った。
・・・あれ?
俺はおじさんの手の異変に気がついた。
冷たいのだ・・・。
脈も・・・。
・・・どうして?さっきまでは?
「おやぁ?やはり死んだか?まあ、人間の魔力じゃあ、余をこの程度の体にしかできないからな。ま、感謝はしとくよ。ケーケッケッケ」
そんな・・・おじさんが?
「ケケケ、さあ、最期くらい抗がってみせろ!そして最高の死に様を見せてみろ!」
「・・・んな・・・。」
「ああん?何か言ったか?」
「ざけんなって言ったんだよこのカス鬼がっ!!」
俺は二本の刀で鬼に斬りかかった。
鬼はそれを軽々と避けた。
そして相手に目に見えぬ神速の速さでもう一度斬りかかった。
当たってない。・・・いや、掠りはしたみたいだ。
「グッ!貴様・・・よくも余に傷を負わせたな?・・・死ね・・・貴様は今すぐ死ね!」
鬼は爪を立てて俺にその爪を刺そうとした。
俺は受けようとした。
しかし・・・間に合わない!?
鬼の放った攻撃は俺の体を貫通した。
俺は激しい痛みが体全体に走った。
声がでない。
俺の体は段々と力を失っていた。
目が霞む。
小雪の声が遠くの方で聞こえた。
俺・・・死ぬんだな・・・小雪・・・お前・・・だけ・・・は、生きててくれ・・・よ。
俺は意識が完全に飛んだ。