34時間目 決着と悲劇
その少女と初めて会ったのは12年前の夏の日だった。
彼女はおじさんの後ろに隠れて俺の様子を伺っていた。
俺は彼女に手を延ばし、優しくこう言った。
「一緒に・・・遊ぼうか?」
彼女は頷いた。
最初はぎこちない感じだった。
しかし、段々と触れ合ってく内に俺らは最高の友達になった。
そして彼女が最初に見せたあの笑顔。それはとても素敵な笑顔だった。
それが、夜未と俺の初めての出逢いだった。
〜〜〜〜〜
俺はおじさんに切り掛かった。
おじさんはギリギリの所で避け、俺に風の魔法にぶつけてきた。
俺も風の魔法を使った。
相殺。二つの魔法がぶつかった瞬間、二つの風は消えた。
土煙が辺りを包んだ。
俺はその中からおじさんに向かって刀を振り下ろした。
当たった。いや、腕に掠っただけだ。
命に何ら問題はない。
「うぅ・・・」
それでも当たったことに違いはない。
俺は休むことなく、攻撃を当てに行った。
何回かに一回は当たるようになってきた。
しかし、どれも致命傷には程遠い。
それでも俺は諦めなかった。・・・いや、諦められなかった。
「クッ!ナラバ・・・」
そう言って、掌に大きな火の玉を出した。
それはどんどん大きくなっていく。
「フフフ、コレデ貴様モ・・・」
確かにあんな物を喰らったら死ぬだろう。
水を出したいが、俺はまだ見たことがない。
・・・なら。
俺は下段の構えをした。
「諦メタ、カ」
「ふん!どうだかな?」
おじさんは気付いてなかった。
俺が魔法をあまり使わない理由を・・・。
「コレデ、終ワリダーー!!」
火の玉が俺に近づいてきた。
近くで見ると、やはり大きい。
しかし、大きければ大きい程、俺には都合が良かった。
火の玉は俺の目と鼻の先まで迫っていた。
そして、激しい轟音と共に直撃した部分が粉砕された。
「ククク、呆気ナイ最後ダッタナ。私ニ逆ラウカラ、ソウナルノダヨ。ケーケッケッケ・・・」
おじさんは高笑いをし始めた。
「甘いなぁ。詰めが甘いんだよ」
俺はおじさんの後ろで言った。
「ナ、ナニッ!?」
おじさんは振り返ろうとした。が、俺はその隙に頸動脈辺りに蹴りを入れた。
死なない程度に・・・。
おじさんは思わぬ攻撃にその場に倒れ込んでしまった。
俺は念のために脈を確認した。手首からは、ちゃんと脈が正常に打っていた。
ふぅ、これで終わり、か。
夜未・・・これでいいんだよな。
俺は自分の中の夜未に話し掛けた。
もちろん反応はない。
「拓海君!」
麻奈美達が近寄って来た。
「終わったん・・・だよね?」
「ああ。これで終わりだよ」
「これできっと、夜未ちゃんも・・・」
「ああ。喜んでるだろうな」
俺は自分の胸にそっと触れた。
俺の中には夜未がいる。
夜未。これからもよろしくな。
「拓海?」
小雪が急に話し掛けてきた。
「ん?」
「拓海に聞きたいことがあるのですよ」
「今?」
「え?別に今じゃなくても・・・」
「じゃあ、後ででいいかな?俺、桜咲さんに何処にも行かないように言われてたのにさぁ、黙って出て来ちゃったから何か理由を考えたいし、それにもう疲れたから早く寝たいよ」
「そう・・・ですか」
小雪は寂しそうな顔をした。
俺は小雪に何か言おうとした、その時!
ビュッ!!
何かが俺の横を通った。
そして、俺の頬に何か生温かい物が飛び散ってきた。
・・・血。
俺はその血を飛ばした本人を見た。
麻奈美だった。
麻奈美は胸部から腹部までばっさりと一本の大きな傷ができていた。
麻奈美は俺に助けを求めるように手を延ばしながら、その場に倒れ込んだ。
一瞬の出来事で俺はどうする事もできなかった。
まるで、俺だけが時の流れが止まったように感じた。
「麻奈美!」
時の流れが戻った俺は麻奈美を抱き抱えた。
「麻奈美!?しっかりしろ!」
麻奈美はぐったりはしていたが、意識はあるようだった。
「麻奈美!死なないでくれよ!」
しかし、俺の願いと反し麻奈美は今にも意識がどこかに飛んでいく勢いだった。
「麻奈美!しっかりしてください!」
小雪も麻奈美に声を掛ける。
「おい!麻奈美!」
麻奈美は口を開け、俺の名を呼んだ。
「なんだ?どうした?」
「う、あ!・・・拓海・・・君、・・・ご、ごめんね」
「話すな!話しちゃいけない」
麻奈美が話す度に傷口からは血が流れ落ちた。
「あ、あの時・・・拓海君・・・を・・・助けよう・・・としなくて」
「バカヤロー!そんな事はいいよ。だから、もう話すな!」
「わた・・・し・・・もうダメ・・・みたい・・・だね」
「バカッ!そんなことないよ!」
「あは、は・・・なんと・・・なくね・・・わか・・・るの」
「そんなもん、わかるんじゃねぇ!お前はまだ俺達と一緒にいるだよっ!これからも、ずっと、ずっとな!だから・・・だからそんな事言うな!」
「ごめ・・・んね、わ・・・たし・・・ずっと・・・拓海・・・君に・・・言い・・・たかった」
俺の瞳から雫が落ちた瞬間、彼女は・・・麻奈美は笑った。
「好きだよ」
こう言った瞬間、麻奈美の体からはすべての力が無くなった。
「う、あわわわ」
俺は・・・
「あぅあ」
俺は・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
俺は後ろを見た。
そこには・・・おじさんではない誰かが立っていた。
俺には一瞬で理解できた。
コイツが・・・このカスヤロウが麻奈美をっ!!
俺は今までにないほどの殺意が芽生えた。
頭が割れるほど痛い。
血の味がするほど歯を食いしばった。
爪が取れ、肉が切れるほど手を強くにぎりしめた。
しかし俺には怒りで我をも忘れる勢いだった。
コイツが・・・コイツが麻奈美を・・・。
殺す。コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、・・・
俺はその言葉で頭がいっぱいになった。
コイツは、必ず俺がコロス、と。