33時間目 時計・・・
俺はその昔、一度だけ月影を持ったことがある。
その時はまだお師匠さんと修業してた時代だ。
お師匠さんの修業は無茶苦茶だった。
崖を手だけで登らされたり、おもしを付けて川上りならぬ滝上りをさせられたり。
今考えるとよく生きていたものだと思う。
でもそれは、すべては親父への復讐心と守りたい気持ちがあったからだ。
その為に俺は、どんな辛いこともしてきた。
そんなある日、
「拓海。今日はこの刀で木一本につき、八分割を百本やれ!」
「はい!」
それが俺と月影の出会いだった。
俺はその刀を受け取ると、お師匠さんの事だからとんでもなく重いのだと思っていた。
しかし、それは違った。
俺はそれを持った瞬間、何かを持った感覚がなかったのだ。
まるで・・・羽?
いや、もっと軽い。そう、空気のようだ。
その上切れ味がよく、そして耐久性もよかった。
俺はものの10分で終わった。
「よし!次は岩を切れ!」
俺は言われるままにした。
さすがに岩は切れない。そう思っていた。
しかし、俺はまるで空を切るかのように岩を真っ二つに切った。
・・・信じられなかった。
この刀は業物やそういうレベルの刀ではない。
すべてを切る破壊のためだけに作られたものだ。
しかし、俺はその刀が気に入った。
それは刀から発せられる魔力のせいだったのかもしれない。
〜〜〜〜〜
「止める、か。なら、やってもらおうか?」
おじさんは月光を鞘から抜いた。
月光・・・刀身は紅く染まっていた。
それに対して月影の刀身は黒。
深紅の赤と黒の対なる刀。
それはまるで人間の血を表してるみたいだ。
「さあ、掛かってきなさい」
おじさんは俺に先に来るように挑発してきた。
しかし、相手はお師匠さんの息子。
腕は確かだ。
「麻奈美、小雪。俺本気で行くから下がっててくれ」
『わかった!』
二人はそう言って後ろの方に行った。
さてと、ふぅ・・・どう料理してやるかな?
「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ」
「ああ、来いよ」
おじさんは俺の方に向かって刀を振りかざして近づいてきた。
そして、刀を思いっきり降ろしてきた。
俺はそれを鞘で受け流しながら、下段に構えた状態の刀を振り上げた。
おじさんはヒラリと後ろに跳んで避けた。
チッ!『山』が決まらなかったか。めんどくせぇなぁ。
「ほぉ、あいての反動を利用し攻撃に生かす、か。中々面白い事するな」
「褒めてくれるたぁ、光栄だねぇ。じゃあ次はこっちから行かしてもらおうかな?」
俺は上段の構えのまま、相手に突っ込んだ。
「おらぁっ!!」
俺は刀を力に任して振り下ろした。
しかし、またしてもおじさんは俺の攻撃を避けた。
刀は空を切り、地面を切り裂いた。
地面には大きな地割れのような切れ目が入った。
おじさんはまた俺に太刀を振り下ろした。
俺はそれを止め、鍔競り合い(つばぜりあい)になった。
「へぇ、腐っても海堂家の血は流れてる、か」
「ふん!そっちこそ月森の血は飾りじゃないんだな」
「ったりめーだ。なめんじゃーねよ。俺はこの時の為だけに生かされてきたらしいからな」
「ふん!記憶を忘れてた者の言うことか?」
「そっちこそ、その刀で自分の娘と妻が死んだ事を忘れたのかっ!?」
「ふふふ、それもそうだったな。しかし、それも私がすべてを手に入れれば関係のないことだ」
「ああん?てめーはその事を忘れて、違う人生を歩もうってのか?」
「ふっ!お前はまだ知らないようだな」
「何をだ?」
「ふっ!知りたいか?なら」
急に力が強まった。
「俺に勝つことだなっ!」
俺は後ろに飛ばされた。
「さあ、遊びはここまでだ。見るがいい。これが・・・鬼の力だーーーーーーっ!!」
すごい風のような物がおじさんを中心に吹き出した。
俺は刀を地面に突き刺し、飛ばされないようにした。
二人は・・・?
二人は入口の壁に捕まって飛ばされないようにしていた。
段々と治まってきた。
まるで、嵐の後の静けさだ。
そしておじさんは・・・
「チッ!マジかよ」
おじさんは今魔法の使えない俺でも見えるような魔力を体に纏っていた。
俺はその時、あの時のおばさんを思い出した。
「サァ、クルガイイ」
チッ!黙れ、カスがっ!
俺は刀を鞘に収めた。
ふぅ・・・魔力が上がったからなんだって言うんだ?
俺は負けねぇっ!!
俺は体を左の方に向けて、右手に刀の柄を持ったまま走りだした。
そして刀を鞘の曲線に合わせて抜こうとした。
おじさんは・・・消えた!?
次の瞬間、後ろに誰かの気配を感じた。
そして、激しい衝撃と共に俺は壁に激突させられた。
「ぐはっ!!」
俺は内臓が破裂したような激しい痛みに襲われた。
チキショー、体が・・・動かねえ?
「ヒヒヒ、ヤハリ魔法ガ使エナイト不便ナヨイダナ?」
「へっ!苦労した覚えは・・・ねぇよ」
はぁ、そうは言った物の・・・このままじゃ、マジでまずいな。
どうすっかな?
『・・・みく・・・くみく・・・拓海君』
どこからか声がする。
その声は直接頭の中に話し掛けてくるようだった。
「んあ?誰だ?」
『拓海君。私よ。夜未だよ』
「夜未?な、なんで・・・?」
『拓海君、私は今時計の中にいるの』
「時計の?」
『そう。拓海君のお父さんにそうしてもらったの』
「親父が?」
『拓海君、私の力で拓海君の力を戻してあげる。私達の海堂の力は光。すべてを正しい方向へ導くための物。だからお父さんを・・・正しい方向へ導いてあげて』
「・・・わかった。夜未ちゃん・・・ごめんね」
『拓海君・・・私ね、拓海君の事が好きだったよ。拓海君はいつも私と遊んでくれた。拓海君はいつも私を救ってくれた。だから今度は私が拓海君を助けるよ』
「ありがとう。夜未ちゃん」
『いいよ。私は拓海君の中で見てる。だから・・・がんばってね』
「わかった」
次の瞬間、時計から暖かい丸い光が出てきて、俺の中に入ってきた。
その瞬間、俺の中に漲るような熱いものが込み上げてきた。
これが・・・魔法?
俺の体が動くようになった。
よし!これなら・・・。
「オヤ?動ケルノカ?」
「ああ。さあ、これで終わりだ!掛かって来な!」
「オモシロイ。ナラ、楽シマセテモラオウカ」
夜未ちゃん、ありがとう。俺は必ず親父さんを止めるよ。だから・・・見ててくれよ。