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31時間目 決戦の朝

夜が明けた。

四月といってもまだ朝は寒かった。



結局、俺は殆ど寝ることができなかった。


「拓海?」


理事長が話し掛けてきた。

理事長はあの後学校に泊まって、俺を見張っていてくれていた。


「あまり眠れなかったようだな」

「はい」


というよりも全然寝ていなかった。

それは小雪も同じだった。

あれから3時くらいに小雪が話し掛けて来たのでそこで初めて起きていると気がついたのだ。


・・・小雪の寝息に気がつかなかった。


俺はそれほどまでに緊張していたのだ。

その後俺らは、どうでもいいような雑談をした。

その会話が俺の緊張を和らげてくれた。

やはり、俺一人では今頃は緊張の重圧に負けていただろう。


・・・ありがとう。小雪。


「拓海。お前にはこれを渡しておこう」


理事長はそう言って長い包みを渡してきた。

俺はそれが何だかすぐにわかった。


「これはお前の父が使っていたものだ。まあ、何事もないことを願うが、万が一があるからな」


親父の・・・。


「月森拓海。そして日向小雪。後は任せたぞ」


『はい!』


俺らは理事長に別れを告げ、急いで駅に向かった。


〜〜〜〜〜


駅にはあまり人がいなかった。

それもそのはずだ。

まだ始発すら出てないのだから。


俺らは切符を買って改札を抜けた。


まだ電車が来るには10分あった。


俺らはゆっくりと目的のホームに向かった。



「待って!」


誰かが俺らを止めた。

聞き慣れたその声は昔からあまり変わってない。


「麻奈美!?」


そう、俺らの後ろには麻奈美が立っていた。


「もぉ、ひどいよ。私を置いてくなんて!」

「麻奈美・・・どうしてここに?」

「えへへ、橘さんに・・・お父さんに全部聞いたの」


橘さんが・・・?


「拓海君、私も連れて行って」


俺は何も言えなかった。


「ねぇ、覚えてる?私がお母さん達や夜未ちゃんが・・・死んじゃった夜。拓海君は私の事慰めてくれたよね?なんて言ったか覚えてる?」


忘れるはずがない。

いや、記憶がなかったから忘れていたが、今ははっきりと覚えてるさ。

そうだ。俺が強くなったきっかけ。


「僕が・・・。」

『僕がこれから二人を・・・麻奈美ちゃんと小雪ちゃんを守ってあげる。だからこれからも一緒だよ』


「そう!」


そうだよ。俺が強くなった理由はそこにあった。


「拓海君。私はあの時何もできなかった。だから・・・だから今度こそは、拓海君達と一緒に止めてみせる」

「・・・麻奈美。俺はあの頃と変わらないくらい弱い。だからあの時の約束は守れそうもないや」


そう。人間はどんなに鍛えようと弱いもの。

しかし、人間は唯一強くなれる瞬間がある。

憎悪を持った瞬間だ。

俺はそれだけでここまで這い上がってきたのだ。


「拓海君、私はそっちの約束はいい。私は拓海君達と一緒にいたいの。またあの頃みたいに三人で」

「・・・麻奈美、あなた?」


小雪が口を開いた。

麻奈美は俺にはよくわからないが、一回頷いた。


「拓海君、お願い」

「・・・はぁあ、なんでこうなるかなぁ?・・・麻奈美、そして小雪も充分に気をつけろよ」


『うん!』


「よし!じゃあ行きますか」


『うん!』


俺らは三人で・・・あの時の三人でおじさんの所に向かった。


さあ、果たして俺らが行き着く先には希望の未来か?それとも絶望の未来か?


それは誰も知らないのであった・・・。

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