28時間目 小雪
俺は自分の過去をすべて小雪に話した。
そうすれば彼女はついてこないと思ったのもあるし、彼女にはそれを知る権利があるのだ。
小雪は何も言わずに下を俯いていた。
「小雪、この話には続きがあって、実は月光がなくなったんだ」
小雪はぴくっと動いた。
「それを持ち出したのは海堂おじさんらしいんだ」
そう、お師匠さんの最後の願いとはそれだった。
おじさんは封印したはずの月光を持ちだし、行方不明になったのだ。
「小雪。俺は必ず帰ってくる。だから留守番を頼みたいんだ」
「・・・嫌だ!」
小雪は静かにそれでいて強い口調で言った。
「小雪・・・わかってくれ!」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、絶対にヤダ!」
完全な拒絶だった。
「なんでだ!?頼むよ!」
「拓海。小雪は拓海と一緒に居たい。拓海が何処かにいってほしくない」
「必ず帰ってくるよ!だから・・・」
「拓海!!」
小雪は初めて顔を上げた。
そしてその目からは、あの時の・・・小雪が生まれた朝に降った雪のように優しい大粒の雫が落ちていた。
「拓海!小雪は拓海と一緒に居たい!どんな理由があっても、どんな事があっても!・・・だって小雪は・・・小雪は・・・」
小雪は言葉に詰まってるようだった。
しかし、すぐに次の言葉を放った。
優しい口調で・・・。
「小雪は・・・小雪は拓海の事が好きだから!」
俺はその言葉に返す言葉がなかったが、すぐに返した。
「あ・・・ああ、俺も小雪の好きだよ」
「違う!!私は拓海の事が誰よりも好きなの!初めて学校で会ったときから!・・・ううん、もしかしたら、もっと前から!」
もっと前って・・・赤ん坊だろ?
「小雪は拓海に近くに居てほしい、これからずっと、ずっと!」
あれ?なんだ?
この変な気分は?
「拓海には小雪だけを見てほしい!小雪は・・・」
畜生・・・卑怯だよ。
「小雪は拓海だけに好きになってもらえば、もう何もいらない!」
ふざけんなよ。
「だから小雪を連れてって!小雪を拓海の傍にいさせて!・・・お願い」
・・・バカ。
「バカ」
「え?」
「お前バカだよ。なんでそんな事言うんだよ。そんな事言われたら、俺は・・・」
俺は?
「勝手にしろ!!もう何も言わない!」
「拓海・・・。」
小雪は涙を落とした。
そして・・・
「ごめんなさい!」
そう言って、俺の胸の中に飛び込んできた。
小雪は何度も
「拓海・・・拓海・・・」
と俺の名前を何度も呼んだ。
俺はそんな彼女の小さな体を抱きしめながら、頭を撫でてやった。
口ではああ言ったが、俺は・・・小雪が・・・。
〜〜〜〜〜
「おお!来たか」
理事長室に入ると、橘さんはおらず理事長だけが俺を待っていた。
「遅くなりました」
「うむ。・・・どうやら決着は着いたみたいだな」
「はい!」
「ふっ、ならいい。拓海よ。時計に封印された記憶は完全に戻ったみたいだな」
俺はポケットから銀色の懐中時計を取り出した。
「ええ。魔法はまだみたいですが」
「そうか。なら話そう。お前がする事、そして海堂の居場所を」
「お願いします」
その後理事長は、俺らに海堂おじさんの居場所等を説明してくれた。
小雪・・・お前は俺が必ず守ってやるからな。だから・・・。