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27時間目 惨劇の真実

前回の続きです。

「拓海君?あなたは将来何をしたい?」

「僕はここにいるみんなを守りたい。

僕は

天宮おばちゃんも、

天宮おじちゃんも、

海堂おばさんも、

海堂おじさんも、

海堂おじいちゃんも、

日向おじちゃんも、

日向おばちゃんも、

安孫子おじさんも、

安孫子おばさんも、

太田お姉ちゃんも、

谷口お姉ちゃんも、

お爺ちゃんも、

叔父ちゃんも、

お父さんも、

お母さんも、

あとねあとね、

麻奈美ちゃんと

夜未ちゃんと

小雪ちゃんも、

みんな、みーんな大好きだから!」

「あらあら、拓海君にはたくさんお友達がいるのね」

「うん!僕みんながいると楽しいもん!」


みんな、その時の俺の無邪気と呼んでいいほどの解答に嬉しそうに微笑んでいた。


次の瞬間にすべてが壊れるとも知らずに・・・。


突然、ドダドダと誰かが走ってきた。

それは月森の家に仕えてる人だった。


「大変です!海堂の奥様が・・・奥様が!」

「どうしたのだ!?」


急にその場に緊張が走った。


「月森の秘宝の『月光』を持ってこちらに向かっております!」

「なんだって!?」


月光。それは月森家が代々受け継いできた刀の事だった。


この時、もしも時間があったなら俺等は全員で逃げられていただろう。

しかし、


ビシャンッ!!と開かれたのは、さっきの人が入ってきた廊下と部屋を繋ぐ障子でなく、部屋と部屋を繋ぐ方だった。


海堂のおばさんはいつもの優しい顔でなく、狂気に満ちた鬼のような形相をしていた。


「ハァ・・・ハァ・・・」


おばさんは息を切らして部屋の全員を見ていた。


「松子さん、何を考えてるんだ!?」


親父が言った。

おばさんは親父を睨んだ。

今にして思えば、その目は人間のものではなかった。


鬼だ。それも戦いに餓えた修羅の如くの物。


「キサマラガイナケレバ」


声はおばさんの物であり、また違う雰囲気を持っていた。


「キサマラガ・・・キサマラガ・・・」


おばさんはその言葉を何度も口にしながら、刀を振りかざした。


ビュン!


そんな空を切るような音がした。しかし、その一撃は確かに当たっていた。


天宮おばちゃん・・・麻奈美の・・・母親に。


ドサ!と力を失った塊がその場に倒れ込んだ。


響き渡るはみんなの悲鳴。そして、


「お母さん!?・・・お母さーん!!」

という麻奈美の悲痛の叫び。


しかし、おばさんはそれだけでは終わらせなかった。

次は日向おばちゃんの方を向いた。

しかし、そうはさせないと親父、橘さん、安孫子さん、それにお師匠さんが飛び掛かった。

止まった。おばさんは一瞬だけ動きが止まった。しかし、それは一瞬という短な時間だけだった。

おばさんは四人を・・・力がありそうな男達をそれぞれの方向に飛ばした。


そして、


バシュ!!


またあの音だ。しかし、さっきより何かが当たった音がした。

日向おばちゃん・・・小雪のお母さんは、自分の娘の上に被さるように、娘を・・・小雪を庇った。


日向おばちゃんは口から赤い鮮血を吐き出した。

そして・・・息絶えた。


俺は黙ってそれを見ていることしかできなかった。

恐怖のあまり、声すらも出せずに。


おばさんの見つめる先、そこには小雪がいた。


おばさんはまた刀を振りかざした。


俺はこの瞬間だけ、恐怖という呪縛から抜け出した。

そして、小雪の上に覆いかぶさった。

死を・・・初めて覚悟した瞬間だった。


ビュ!!


何かが切り裂かれた音がした。

しかし、それは俺ではなかった。

おばさんが切った物。それは・・・自分の娘の夜未だった。


「夜未ちゃん!!」


その場にいた全員が声を上げた。

そして俺だけは夜未ちゃんの最後の言葉を聞いた。


「お母さん・・・ヤメテ」


彼女はその場に倒れ込んだ。

俺はその時、何かが吹っ切れた感じがした。


おばさんは何のお構いなしに刀を振りかざした。

みんなが逃げろ、と遠くで叫んでいるように聞こえた。


「もうヤメテ・・・もう、ヤメテーーーーー!!」


俺は・・・そこからの記憶が・・・一切残っていない。




〜〜〜〜〜


目覚めると、そこは俺の部屋だった。

隣には麻奈美と小雪だけがいた。


激しい頭痛が来た。

俺はそれでも歩いてみんなの所に行った。


母さん達が泣いていた。

そして、その前には顔を白い布で覆われた四つの人間だった物・・・。

三つは大きく、一つは俺より小さかった。

母さんが俺を見つけて・・・抱きしめた。

母さんが揺れるたびに俺の体が揺れた。

俺はこの時思った。


ああ、みんな死んじゃったんだ。もう・・・あの時には戻れないんだ。と


俺はあまりの絶望感と、もしかしたら自分の無力さに泣くこともできなかった。




ここから先は母さんに聞いた話だ。


あの時俺は怒りのあまり、封印を自分で解くという凄まじい魔力を発揮したらしい。

俺はその反動で二日間寝ていた。


おばさんがああなった原因、それは月光にあった。

月光はその昔、先祖が鬼を封じた妖刀だったのだ。

そして、それを持った者は鬼に取り込まれあのような事態を巻き起こす。


俺が使った魔法がたまたま、おばさんと月光を離したそうだ。

正気に戻ったおばさんは周りの状況を見て・・・自ら命を絶った。


仕方なかった。あのままみんなが死んでほしくなかった。

しかし、俺は一人の人間を・・・死に追いやった。いや、殺したと言ってもいいだろう。


その後は知っての通り、親父がまた俺の魔法とその時の記憶を封じ、また麻奈美の記憶も封じた。


そして麻奈美と小雪は叔父さんに引き取られ、理事長の学校へ。

住職は自分の故郷へ。

橘さんは麻奈美と小雪の成長を見守る。

お師匠さんは俺の修業。

親父は天宮、日向、海堂、月森の神器を探す旅に。

俺は何も知らないで親父を憎み、今に至るわけである。


俺は落胆した。まさか、自分の記憶がこんな惨劇だったとは。そして、何も知らずに親父を恨んでいた。


こんな記憶・・・いらなかった。

これはあまりに悲惨な話で書くのが大変でした。

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