21時間目 決着と蜜柑
前回の続きになってます。
「はい、これで終わりよー!」
ペチン!
「痛い、痛い!」
俺は肩を叩かれ、大人げのない声を張り上げた。
「まったく、男なんだからそんな喚くなやー」
「だって殴ることないでしょ!?」
「ははは、拓海殿も大分ダメージが大きいようだな」
「当たり前ですよ!まったく、久しぶりにこんな怪我しましたよ」
「はっはっは、小生もだ」
「あはは、二人とも頑張ったよー」
二人は笑っていた。
俺も二人につられて笑った。
あの後、俺は自分が放てる最高の一撃をだし、神無月さんもそれを出した。
勝負の行方は・・・
「もう少しだったな」
「ふむ、そうだな。小生も・・・同じ意見だな」
俺等はお互いの一撃が強く、相打ちという結果に終わったのだ。
「まったく、二人が気絶したから私も焦ったよー」
「あはは、ごめんなさい」
×2
俺等二人は同時に倒れたらしい。だから、引き分けだ。
「おやおや、二人とも元気になったようだな」
住職さんがお茶を運んできてくれた。
「あ、住職さん。境内目茶苦茶にしてしまって、本当にすいません」
「いやいや、いいんだよ。海堂さんにも頼まれてた事だしね」
「え?お師匠さんに?」
「ええ。私は彼とは友人で君等の事も聞かされてたよ」
「そう・・・だったんですか」
お師匠さん・・・。一区切り尽きましたよ。
「いやぁ、二人ともすごい力だね。私も驚いてしまったよ」
「あはは、まあ、使い道がないことが問題なんですけどね」
「いや、その力は人を守るために使いなさい。私はその方の力は持ってないものでな・・・。」
気のせいか、住職さんの顔が暗くなった気がした。
「どうかしたんですか?」
「君、名前は月森拓海でいいんだよね?」
「ん?あ、はい。お師匠さんに聞いたんですか?」
「うむ、そうだよ」
「そうですか」
〜〜〜〜〜
俺達は動かない体を動かしながら、外に出た。
今になって見てみると、外はとんでもないことになっていた。
「本当にこのままでいいんですか?」
「ああ。掃除は好きなものでね。何しろ暇なものだからね」
「そうですか。本当に色々とありがとうございました」
「いやいや、いいんですよ」
俺等は何度も御礼を言いながらそこを後にした。
―――――
ふぅ、行ってしまったな。
私は彼等が去った後、海堂さんの前に行った。
墓石はやはりきれいにされていた。
私は彼の前に座った。
なぁ、海堂さん。あんたのお孫さんは元気だったな。
これであんたもそっちでも幸せだろう?
あとな、月森のところの息子が今年も来たな。
あんた、幸せもんだな。こんなに色んな人に愛されて。
はぁ、私の娘は元気でやってるかな?
準二に預けたはいいけど、記憶がないからな。
うん。拓海君だったら娘を任せても安心だな。
・・・もう、始まるんですよね?
彼は自分の運命に勝つことができるんですかね?
拓海君・・・頑張ってくれよ。
君には未来が・・・たくさんの人の未来がかかってるんだ。
だから、負けないでくれ!
それから、娘を・・・小雪を頼んだよ。
私は自分の上にある太陽を見た。
月を照らすは太陽の役目、か。
―――――
「んあ?」
俺は後ろを見た。
「どうしたよー?」
「いやね、なんか誰かに名前呼ばれた気がしたような・・・?」
「ん?誰もいないよ」
「だよね」
俺は首を元に戻した。
俺等は今、電車を待っている。
今は11:45。
そして次の電車は12:30。
大分待たされますね。
神無月さんはやはり疲れたらしく、穂村さんの隣で寝てしまっていた。
俺は疲れたが、眠れる気がしないので起きたままだった。
「拓海?」
「ん?」「これからも蜜柑と仲良くして欲しいよー」
「はい?いきなり何言い出すの?」
「拓海、蜜柑が強くなった理由はいじめられてたからなのよ」
「えっ!?神無月さんが?」
「うん。昔私達は普通の学校に通ってたよ。でも魔法は普通の一般人にはイジメの標的よ。蜜柑はその時強くなくて、みんなにいじめられてたよ。だから私が助けたよ」
「へぇ。やっぱり魔法は使わなかったの?」
穂村さんは首を振った。
「ある日、耐えきれなくて魔法を使ったよ。しかし世間の目は冷たかったよ。学校や保護者は蜜柑を否定したよ。だから蜜柑はここに来たよ。私もその時一緒によ。蜜柑は昔よりも暗くなり、そして修業を始めたよ。そして、私は蜜柑に謝られた。しかし、私は蜜柑が可哀相に思えたよ」
重苦しい空気が辺りを包んだ。
「だから私はそんな蜜柑とずっと一緒にいるって決めたよ。そしたら、蜜柑は元気になったよ。でも最近はもっと変わったよ。何でかわかるかい?」
「いや・・・。」
「拓海が来たからよ。拓海はあの日、魔法を使う裕司に勝った。それが蜜柑にはとても嬉しかったらしいよ。蜜柑はあれから修業を厳しくしたよ。そしていつか拓海と戦いたいって言ってたよ」
あらら、お師匠さんのことがなくても俺は神無月さんと戦ってたんだ。
「今日はその夢が叶って嬉しそうだったよ。拓海、ありがと、よー」
「いえいえ、俺は何もしてないよ。穂村さんは神無月さんが好きなんだね」
「当たり前よー。一番の親友よー」
「そっか」
俺は穂村さんの隣で寝ている神無月さんを見た。
よく寝ている。
確かに満足そうな顔をしているような気がした。
神無月さん・・・よかったね!
「ああ」
「え?」
「ぐー、ぐー」
なんだ寝言か・・・。
ビックリしたぁ。
さて、帰ったら母さんに話を聞かないとな。
お師匠さんの最後の願い・・・一体なんだろう?
この時の俺はまだ知らなかった。
お師匠さんの話。
親父の行方。
俺の封印された魔法と記憶。
神様学園魔法課の秘密。
そして、それらが巻き起こす俺の不幸。
それらすべてが一つになるとき、俺の存在意義が判明するのだ。