19時間目 知克未村
さて、やっと着いた。
電車に揺られること一時間、もう酔って死にそうかも。
でも、まだここから20分くらい歩かないとな。
今俺は知克未村というところに来ている。
ここは世間に置いてかれてるような小さな山村だ。
だから車も通らない。
だから道の真ん中を歩いても引かれることもない。
その上、
「あら、こんにちは」
「あ、こんにちは」
村の人が挨拶してくれるような心温まる場所なのだ。今日は俺がどうしてこんなところに来ているかと言うと・・・。
「あ、いつもご苦労様です」
俺はほうきで境内を掃除している住職さんに挨拶した。
「おや、今年もいらしたんですか。毎年ご苦労様です」
「いえいえ、当たり前のことですから」
「そうですか。そう言って下さると仏様もお喜びになることでしょう」
「ですね!」
俺は住職さんに挨拶を済まして、目的の場所に向かった。
まだ朝早いので、誰も来ていないようだ。
しかし、墓の周りは綺麗にされていた。
俺はバケツに入った水を杓で墓石に掛け、花受けに水を入れた。
そして、持って来ていた花をそこにいけた。
はあ、あれから三年ですね。お師匠さん。
俺の師匠は三年前の今日にこの世を去った。
優しい顔だった。
修業の時に時々見せるあの笑顔が好きだった。
そして何よりもとても尊敬できる強い人だったのだ。
そんなお師匠さんでも人間の摂理には逆らえない。
人間はどんなに強く、偉大でもいつかは朽ちるものだ。それは他のものも同じ。
これは最後にお師匠さんが残した最後の教えだった。
俺もいつかは朽ちる運命。なら、その間にたくさんの幸せを見て、みんなにあげていきたいと思う。
だから、俺は強くなる。
この朽ちる運命が決まっていても俺はやりたいようにやる。
それが俺の生き方であり、幸せに過ごす日々の意味でもあるのだ。
お師匠さん、あんたの教えを胸に俺はやれることをやるよ。だから、あんたはそっちで俺の成長を見ててくれ。
・・・それじゃ、また今度来るから、その時は茶でも用意しておいてくれよ。
・・・冗談だよ?ホントに用意されたら俺恐いよ。
それじゃ、また今度な。
俺は合わせていた手を離し、持って来ていた包みを持って歩き出そうとした。
「あれ?拓海よー」
「おお!拓海殿、こんなところで何をしておるのじゃ?」
「え?」
俺の前には見慣れた二人の女の子がいた。
「なんで神無月さんと穂村さんがここに?」
「小生の祖父がここで眠っているのじゃよ。ほら、そこの」
神無月さんは俺がいた墓石に指を指した。
そっか、この子が・・・。
「拓海こそ何してたよー?」
「俺も同じですよ。この海堂石雲斉殿の墓参り」
「ん?お主、祖父の知り合いか?」
「まぁね。毎年ここに来るように言われてるよ。お師匠さんにね!」
「ほほぉ、そういう事か。すぐに終わらせらるかな?」
「さあ?どうだかわかりません」
「なら、先に境内に行っておいてくれ。小生も後から行く」
「ええ」
俺は二人を背に境内の方に向かった。
〜〜〜〜〜
5分くらい経っただろう。
神無月さんと穂村さんが来た。
「住職さんには話をしておきましたよ」
「それはありがたい。それで覚悟は良いかな?」
「そちらこそ」
俺はお師匠さんの最後の頼みを聞くために毎年ここに来た。
それは・・・
「準備はいいかのぉ?」
「ええ。穂村さん、ちゃんと見ていてくださいね」
「あいよ。任しときぃよー!」
俺はその言葉を聞いて、包みの中から日本の木刀を取り出した。
「ほほぉ、二刀流かぁ」
「ええ。あれから自分流に改良したらそうなりました。魔法は許可するそうですよ」
「いいのか?」
「ええ。そう言われてるものですからね」
お師匠さんの最後の願い。それは自分の孫の成長を見てほしいというものだった。
「そうか。では!」
「いざ尋常に!」
『勝負!』
お師匠さん。あんたのお孫さん、かなり強いっすよ。でも、俺も本気出します。
この・・・海堂流を受け継ぐ彼女と!!