14時間目 朝からの遭遇
ふぅ、昨日は変な事に巻き込まれてしまいましたね。
今日は気をつけたいです、と俺は思いながら登校してると、
「あ、月森君!」
朝から近衛円さんに会ってしまいました。
うわっ! もうバベルの塔と関ヶ原は勘弁してください!!
しかし、彼女は昨日のように目に輝きがなかった。
「おはようございます」
声も心なしか小さく聞こえる。
俺は一先ず、様子を伺うことにした。
「おはようございます」
俺達はお互いに挨拶を済ませて、学校に向かって歩き出した。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・何だ、この沈黙は?
俺はこういう雰囲気が雨の日みたいで嫌いだ。
俺は何か話題を探した。
「ねえ、月森君?」
って、あんたが先手かいなっ!?
「ん? なに?」
「月森君はあのクラスに入って良かったと思う?」
・・・イカなしっ!?
あ、間違えた。まずい、まずい。昨日母さんが『イカ墨パスタ』を作るって言って、イカがないからってタコで代用したのが印象強くて、つい・・・。
ってかタコ墨で大丈夫なのか?
さて、改めまして。
・・・いきなりっ!?
「うーん、難しい質問だなぁ。・・・今はそれには答えられないよ」
「そうなの。それじゃ、いつになったらそれは答えられる?」
「うーん・・・そういうことは答えはないと思うよ」
「えっ?」
「だって、人の心なんて変わりやすい物だよ? それに答えを求めるのは無理なんじゃないかな?」
「そっか、やっぱりあなたは・・・。」
その後の言葉が出てこない。
なんだ、やっぱりって何?
「月森君、これからも仲良くしてくれる」
「え? 別にいいよ」
そのままで説教キャラが出ないならね。
「ありがとう」
「いえいえ。・・・それより、さっき言いかけたのって何を言おうとしたの?」
「え? ああ、あれは月森君がどんな考えをもってるかわかったかもって言おうとしたの」
「あ、そうなんだ」
この子、よくわからんな。
まあ、悪い子じゃないって事だけはわかった気がするな。
「月森君って悪い人じゃないんだね」
「へ?」
「うふふ、ほら初めてクラスに来た時に裕司と喧嘩してたでしょ?」
「ああ」
俺はその言葉でさっきの質問並びに、昨日の言葉の意味を理解した。
「それでね、私月森君が恐い人なんじゃないかなって思ってたんだよね」
「そっか。なら昨日話してくれればよかったのに」
「だって、みんなの前で聞いて違ってたら、私クラスのみんなに怒られちゃうよ」
「あはは、そうかぁ」
俺が説教されるのはいいのかい?
「でも私の勘違いでよかったよ。・・・月森君?」
「ん?」
「これからもよろしくね」
彼女はそう言って、俺に握手を求めた。
「ああ。こちらこそよろしくね」
俺は彼女の小さな手を握った。
「おやおや、二人とも仲がよろしいようで」
俺の後ろで誰かが言った。
振り返ると、そこに裕司がいた。
「おはようさん」
裕司は手を振りながら言った。
「裕司!」
近衛さんが少し大きな声を出した。
そして裕司の方に近づいた。
「今日は早いみたいね」
「当たり前だろ。たまには早く来たら、面白い物が見れたなぁ」
「あら? 羨ましいの? やだねー、男の嫉妬って!」「何だと!? 俺はただ拓海がこんながさつな女と仲良くなっちまって可哀相だなぁって思っただけだよ!」
「ちょっと! 誰ががさつなのよ!?」
「あれ? 本人にはわからないのかなぁ?」
・・・なんだこれ?
俺はただボー然と二人のやり取りを見届けた。
「拓海君、おはよう!」
後ろから麻奈美が俺の肩を叩きながら言った。
「あれ? またあの二人やってるんだ。」
「“また”?」
「うん。いつもの事だから気にしないで」
おいおい、人には喧嘩するなって言っておいて自分はいいのかい?
「さ、拓海君行こう」
「え? 二人は?」
「いいの」
麻奈美は笑顔で言った。
「でも」
「大丈夫! 円ちゃんって体に時計でも持ってるみたいに時間には正確だから」
「そうなの? じゃあ行こっか」
「うん!」
俺等はまだ言い合っている二人を置いて、学校に向かった。
この後の事を少し話すとしよう。
二人は本当にギリギリで遅刻せずに間に合いました。
それから数日してまた二人が言い合っている姿を見ました。
近衛さんに、
「あれって、喧嘩じゃないの?」
と聞くと、彼女は
「あれは裕司が反抗してくるからそう見えるだけで、本当はお説教してるの!」
と答えてくれました。
近衛さん・・・あまり裕司を叱らないであげてね。
裕司・・・近衛さんを困らせちゃいけないよ。