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8時間目 涙は悲しみの数

前回の続きです。

「俺が魔法を使えない・・・いや、使えなくなった原因は俺の父親にあるらしいんだ」


月森君はこの言葉をさも恨めしそうに口にした。


「ど、どういう事?」

「実は・・・俺の魔法は使い方次第じゃ危険な物だったらしいんだ。属性はわからないけど、それを知った父親は俺の魔法を封じたらしいんだ」

「えっ!? そんなことができるの?」

「さあ? でも月森家頭首たる者ならできて当然らしいよ」


・・・え?


「頭首?」

「うん」

「お父さんが頭首ということは・・・拓海君は次期頭首!?」

「まあ、そうだろうね」

「すごい! 月森家の人は何人か知ってるけど、本家の人と会うのは初めてだよ」

「天宮さん」


月森君はその言葉に暗い表情になっていた。


どうしてだろう?


「俺が魔法を使えないことは知ってるよね」

「あっ!?」


そうだ。月森家は世界でも有数の魔法一族。つまり、魔法の使えない月森君は・・・。


「俺ね、だから逃げるように母さん達と家を出て行ったんだ。だから俺は月森の姓が嫌いなんだ。魔法を使えない月森家の次期頭首、そしてそれを封じたのは頭首だって言うから笑っちゃうよね」

「月森君・・・。」


私はひどく後悔した。


私は月森君が記憶の奥底に二度と表に出ないように埋めた、悲惨な記憶を掘り出してしまったのだから・・・。


今の私はこんなにも後悔している。


しかし、私はこの後、もっと聞いてはいけない事を聞いてしまうのだ。

おそらく、その話は他の誰にも話してはいけない事だろう。


「月森君・・・悲しい?」

「え? 何が?」

「そんな悲しい過去を背負っていて」

「あはは、俺なんてまだマシだよ。月森の家から逃げればいいんだから。本当に可哀相なのは恵魅だよ」


月森君はまた恨めしそうな顔になった。


「どうして?」

「・・・天宮さん? この話は恵魅、そしてみんなには話さないでおいてほしいんだ。いい?」


私は頷いた。


「ありがと」


月森君はここに来て初めて笑顔になった。


「さて、まずは俺が月森家から逃げてから恵魅が魔法課に入った理由を話さなくちゃな。・・・そっか、あれから5、6年経つのかぁ」


月森君は懐かしそうに言った。


「俺は月森家を逃げて近くの学校に通い始めたころだよ。恵魅もその時は俺と同じ学校に通い始めたんだよ。でも、それが失敗だった。恵魅は魔法使いという理由だけでいじめられ始めたんだ」

「恵魅ちゃんが!?」

「うん。でも恵魅は魔法を使えなかった」

「一般人に魔法は使っちゃいけないからね」

「恵魅もそれを知ってたんだね。そして、俺は恵魅がそんな事になっているとも知らずにその現場を見ちゃったんだ」


「・・・それで、月森君はどうしたの?」

「簡単だよ。まあ、俺より年上の奴がいたから、まずそいつを血祭りにしたら、他の奴等も逃げて行ったんだよ」拓海君はそう言ってまた笑った。


・・・月森君。


私は気がついたら目頭が熱くなっていた。


「あれ? 天宮さん?」

「・・・可哀相」

「え?」

「月森君が可哀相で・・・何か想像したら・・・涙が・・・。」


そんな私に月森君は優しく微笑んでくれた。


そして、

「うん、ありがとう」

と、こう言って私を彼の胸の中に埋めた。


私は月森君に魔法の話題を出した事を後悔した。

そして、その胸の中で私は大きな悲しみの雫を流した。


月森君は、

「ごめんね・・・ごめんね」

と私に何回も言ってくれた。


私が悪いのに、彼は悪くないのに・・・。


しかし、私は言葉を発さなかった。・・・いや、発せなかった。


私はしばらく、悲しみをたくさん詰まっている胸で・・・泣いた。


ごめんね・・・月森君。・・・ううん、拓海君。


〜〜〜〜〜


俺はあれから少しの間、天宮さんを抱いていた。彼女は・・・俺とは立場が違うが、しかし俺の理解者なのはわかった。・・・いや、知ってたのかもしれない。


彼女は俺を哀れんでくれた。

それは今までの俺だったら迷惑だっただろう。

しかし、彼女に・・・魔法を使える人に俺の気持ちが解り、その上、涙を流してくれた彼女は本当の理解者なのだ。



俺は彼女が泣いてる理由がわかる。


俺もあの時、傷つきながも魔法を使わなかった恵魅を見て涙を流した。


彼女はあの時の俺と同じなのだ。


様々な事があり、人は成長する。しかし、それは一人では克服できない。

周りにいるたくさんの人に助けられなければ、人に真の成長はないだろう。


時には、こうして泣いてくれる彼女のような人が迷惑という事もある。

しかし、涙は人の悲しみの数。

その共に泣いてくれる人は悲しみを知った人。


ごめんね。俺が話さなければ君は悲しみを知らずに泣くことはなかった。


ごめんね。俺の分まで泣かせてしまって。


そして、俺は君に何もできない。・・・ごめんね。


俺の前には涙を流してくれた知ってしまった彼女。

そして、彼女の前には何もできない哀れな俺。


人の喜びには終わりが来る。しかし、言い換えれば悲しみも同じことだ。


だから、その涙が止まるまでこうしてあげる。

何もしてあげられない俺にできる唯一の事。


だから・・・その涙が全部落ちたら・・・今度は君の笑顔を・・・幸せに満ちた明るい笑顔を・・・見せてね。

また続きます。

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