キミのなみだ
学校の帰り道、やっぱり考えていた事はキミの事だった。
(レギュラー大丈夫だったかな…良平君、もう帰ったかな…)
結局、実行委員会の仕事もロクにこなせず、先輩に怒られてばかりだった。
今日はあまりにも気持ちが落ち着かない。キミの心配事は、私の心配事になってた。
こうやって気持ちが落ち着かない時や、気分を変えたい時は、いつもと違う道を通って帰る。今日は裏口から帰る。
校舎裏にある裏口。
普段は全く人がいない。だから私のお気に入りの散歩コース。
大きな紅葉の木。
真っ赤な落ち葉。
桜みたいに可憐な散り方はしないけど、私は紅葉の方が好きだった。
「小さい秋、小さい秋、小さい秋、みぃ〜つけた。」
つい童謡を口づさむ。これも楽しい。
「目ぇ〜隠し鬼さん手〜の鳴る方へ…」
…その続きは歌えなかった。
キミがいた。
キミと目が合った。
「優梨?今歌ってた奴って、優梨か?」
キミは目を丸くして私に聞いたっけ。私はとにかく恥ずかしくて何も言えなかった。
「すげぇな。俺さ、すんげぇ音痴だから、歌とか歌えねぇよ。」
「わっ…私も音痴だけど…誰もいないと思ったから…」
キミのせいだよ。キミのせいで顔が紅葉みたいになってゆく。
「あ、そんな事より、良平君、テストはどうだったの?発表、あったんでしょ?」
その瞬間、聞かなきゃ良かったって思った。
だって、キミは分かりやすいぐらいに顔を曇らせたんだもん。
「…落ちた。」
沈黙―。落ち込んだキミに、私はなんて声をかけたら良いの?
「そっか…残念だったね…」
また沈黙―。
私は顔をあげられなかった。目が合うと、その悲しそうな目を見ると、絶対泣くから。
「でもさ、一応準レギュラーにはなれたんだ。だから、頑張ればまだチャンスはあるよ。」
「うん…そうだね!私、応援してる!だからさ、準なんて早く卒業しちゃって、レギュラーになろ!」
「おぅ!」
そう言いつつも、キミの目は笑ってない。
すると、キミのまあるい目から、涙の粒が落ちた。
「あ、なんだよ。俺、カッコ悪っ!泣いてやんの。」
キミの涙は止まらない。
「俺さ、今まで…っていっても、幼稚園から先は、泣いた事、無かったんだぜ。」
切れ切れの言葉。私の心はもう号泣。キミの涙が私の心に流れたのかな…
「あ〜、ちくしょう、止まんねぇ。涙って、こんなに止まんなかったっけ。」
キミの涙は、まだ止まらない。
「俺さ、弱くなったんだよな…昔はこんなんじゃなかった…」
私の口は、勝手に開いてた。そして無意識に言った。
「いいじゃん、泣いたって、カッコ悪くなんてないよ。」
キミは、驚いた様にこっちを見る。
「もし良かったらさ、泣いちゃいなよ。
すっきりするよ。」
キミの瞳に溜まってゆく涙。
「泣く事を我慢しないで。大丈夫。私、笑わないし、見ない。」
そう言った瞬間、キミの目から大粒の涙。
キミは大きな声で泣いた。
「…おさまった?」
「…あぁ。」
やっとキミが泣き終えた。
長かったような…短かったような…不思議な感覚。
私はキミの側を離れられなかった。キミを直視出来ないけど、側にいたいと思った。 ―落ち葉の上で、座り込む私たち。
「ありがと。」
「え?」
「泣いたトコロ見られたのが優梨で良かった。」
「ホントにレギュラー、なりたかったんだね。だからあんなに泣いたんだね。」
またちょっと沈黙―
「泣きなよ、良平君。私の前で良かったら。」
「ばか。男がそんなに簡単に泣けるか。」
「良いじゃん。でも、楽になったでしよ?」
「まあな。」
そう言って立ち上がるキミ。私の前に手をさしだす。
「送ってく。」
「えっ?」
「もう、暗くなってきたし、明日は休みだし、部活ないし…送ってく。」
「そんな、大丈夫だよ!一人で帰れる。」
「お前が良くても、俺が心配なんだよ。ほら。」
そう言って、さらに手をさしだすキミ。
キミの手に触れる。ひんやりとどこか冷たい。
お互い、黙ったまま歩いた。話かける言葉が見当たらない。
家の前に着いた。
「そんじゃ、ここで…良平君、大丈夫?」
「おう!大丈夫だよ!!」
キミの笑顔。良かった。笑顔が戻った。
「俺さ、あんな風に人に弱み見せたのって、優梨が初めてだよ。」
「そうなんだ。…なんか光栄。」
「おぅ!永久保存版だぜ。」
お互い笑った。そして、キミは帰れる。
「それじゃあな、優梨!また学校で!」
「うん。また学校でね!」
キミの笑顔がまだ残ってる。なんで?
キミの泣き顔がまだ残ってる。どうして?
キミの笑顔も泣き顔も、全部大好き。
私の前では弱みを見せてって言ったの、嘘じゃないよ。
いろんなキミが見たいの。もっと見せて。
前野良平―笑顔に溢れた。泣き顔が浮かぶ名前。大切なキミの名前。




