オマエとオレ
「おい、前野!」
オレはバスケの監督にいきなり呼び出された。
「はい、なんでしょうか?」
息を切らして監督の方へ走っていく。
「前野、お前は背が高いんだからもっと積極的にボールに触れ。それができればお前はもっと強くなれる。」
「…はぁ…。」
…訳が分からなかった。わざわざそれを言うために、練習中に呼び出すなんて…。
「あのな、スタメンで使ってた、山川って居ただろ。アイツ、ケガして明後日の練習試合は無理なんだと。そうなるとレギュラーが1人いるんだよな〜。」
「えっ…監督…それって…。」
「一応、今日のお前の頑張り次第で決めようと思っている。しっかりな。」
そう言って、監督はオレの肩をポンと軽く叩いた。
「はいっ、頑張りますっ!」
オレは周りが驚くほどに大きな声で返事をした。
「良平、はい、タオル。」
そう言って、オレの前に白くて細い腕がのびてきた。
振り返ると麗さんがいた。今は休憩中だ。
「…どうも。」
ワザとそっけなく振る舞った。
麗さんは…アイツを傷つけた…。でも、その原因はオレにあった。
「そうだ、この前、彼女見たよ。いつも練習見てるよね。今日は居ないけど。」
「…今日は委員会があるから終るのがちょうどオレと同じくらいなんです。」
「へぇ〜。そうなんだ。」
麗さんはこっちを見ない。何を言おうか考えている。
「ね、彼女、スキ?」
いきなり近付いてきた。
「好きです。」
「そう。でも彼女、知らないみたいじゃない。私と良平の事。過去にアンタが私にした事。」
麗さんは冷たいまなざしを向ける。
「…麗さん。」
オレは麗さんを真っ直ぐ見る。麗さんは少したじろぐ。
「優梨にはきちんと言いました。オレが麗さんに何をしたか…。」
「それでもあの子、付き合うんだ。」
フッと鼻で笑う麗さん。
「…オレは麗さんに何を言われても返す言葉もありません。オレはアナタを傷つけた。…でも…アイツを…優梨を傷つけることだけはやめてください。かわりにオレに言って下さい。」
「…悔しいのよ。」
「えっ?」
「何で私は罰ゲームの告白で、あの子は本気の告白なの?なんで私じゃなくてあの子なの?」
「麗さん…。」
「…見苦しいわよね。ごめんなさい。もう、あんたたちの事に干渉しないわ。」
麗さんは少し歩いて、立ち止まった。
「あの子と別れたら…許さないわよ。」
小さくて、か細くて、呟くような声だったけど、オレには確かに聞こえた。
オレは笑顔になり、その場で
「はい。」
と小さく言った。
部活の終ったあとのミーティングで、監督から正式に発表があった。
「山川のかわりだが、前野を使う。前野、しっかりな。」
「はいっ!」
周りからは拍手が起こった。オレはただ、アイツに真っ先に聞かせてやりたいと思った。
そのアイツを校舎裏で待つ。
すっかり日が落ちるのが早くなった。吐く息が白い。冷たい空気が頬をさす。
ふともたれかかっている木を見上げる。
紅葉の木…。今は葉がないが、秋口には綺麗な葉っぱをたくさん付けていたっけ…。
そしてなにより…初めて誰かの前で…泣いた時も…この木の前だった。
そんな事を考えていると、息をはずませてアイツが走ってきた。
「良平君!ごめんっ!遅れちゃった…待った?」
「待った。10時間ぐらい。」
そう言って、オレはニヤッと笑った。
「…そ、ごめんね。10時間も。んじゃ、行こっか。」
アイツもイタズラっぽく笑った。
優梨。オレの彼女。オレが涙を見せた唯一の人でもあった。
オレたちは歩き出した。オレたちは自然と手をつなぐようになった。
優梨の手は以外と大きい。
オレのアネキは多分優梨より小さい。
でも…自分よりも細くて長い指を見ると、やっぱり女の子なんだって感じる。
「もー、委員長なんてやるんじゃなかった!」
「えっと…文化委員だっけ?文化祭は終ったけど、今は何やってるんだ?」
「特に行事がないから、逆に何か無いかって。それでみんな言いたい放題。」
そう言うとアイツは
「困ったもんだ。」
と肩をすくめた。
「そっか…。大変なんだな…。あ、オレ、明後日の練習試合はスタメンで出してもらえることになった!」
オレは今日一番のニュースを伝えた。
「本当に?スゴいじゃんっ!嬉しい!良かったねっ!」
優梨は頬を赤らめながら、笑顔で喜んでくれた。
「おうっ!まだレギュラーの代わりだけど。」
「そうなんだ…。でも、選手は選手じゃん!頑張ってね!応援に行きたいな…。」
「…でも、遠いぞ。無理して来なくても良いから。」
オレは優梨を見つめて続けた。
「優梨は、来れなくてもずっと応援してて。結果は、真っ先に知らせるから。」
「…うん。分かった。」
ちょっと落ち込んだ優梨。オレはその小さい肩を抱きよせた。
「そんな顔するなよ…。笑ってくれ。」
「良平君…。」
「優梨が笑うとな、オレ、無敵になれるんだよ。だからさ、笑ってくれ。」
手をつないでいるときより、アイツの匂いが近くなる。
あったかくて、包み込んでくれるような、優しい匂い。
「…うん。分かった。」
優梨はオレの腕からすり抜けて、優しい笑顔で言った。
「頑張ってね!シュートバンバン決めちゃって、レギュラーになってよ!」
「おぅ、まかせとけ。あ、優梨の家だろ。もう着いたよ…。」
ちょっと…いや、かなり寂しかった。
もっと一緒に居たい。アイツの笑顔と声で包まれていたい…。
「あ、本当だねぇ…残念。また、メールとかして。」
優梨は家の門を開ける。そして、オレの方に近付いて、そっと唇に触れた。
「…またあした。」
暗くてはっきりは分からないが、かすかな月明かりに照らされた優梨の顔は、きっと真っ赤だろう。
オレは微笑んで、
「またあした。」
と言った。
優梨を待っていたときよりも辺りは暗くなり、寒さも増してきた。
でも、オレは全く寒くなかった。全身、なんとも言えないぬくもりで満たされている。
オレは家へ帰る。優梨の家とは正反対だ。でも、絶対に帰りは優梨を送って帰る。
心配だ…ということもあるが、何よりアイツとずっと一緒に居たかった。
オレたちはなかなかお互いの時間が合わない。だから、帰りぐらいは一緒に居たい。
アイツはオレと同じ思いらしく、帰りの時間が違っていてもオレが終わるまで待っていてくれる。
ワガママかもしれない。子供なのかもしれない…。
でも、オレはアイツが大好きだ。可愛くて…愛しくてたまらない。
ずっと好きだった。初めて見たあの時から…。
『前野君、コレ、落ちたよ。』
少し笑ってオレの手元から落ちた紙を手渡すアイツ。
その紙は国語のテストの解答用紙だった。
『あ…ああ…ありがとう…。』
アイツの手から奪うようにテスト用紙を取りあげる。
確かアイツはクラスの最高点だった。
オレはおそるおそる聞いた。
『…点数…見たのか…?』
『うん…ごめん…でも、99点なら全然悪くないんじゃないかな…』
と言って、優梨は不思議そうな顔をして去って行った。
99点?いや…そんな事はない…。…もしかして…!
オレは自分の解答用紙を見た。
…66点。…アイツ、逆から見たのか…?6が9だと思ったのか…?…変なヤツ…。
―…これが、オレと優梨との出会いだった。
アイツは覚えてないかもしれない。でも、オレには忘れられない思い出だ。
…ヤバイ…思い出しただけで口元が緩む。…笑ってしまう。
「あー、もう、ダメだな、オレは」
口にだして高ぶる気持を抑える。
オレは走り出した。
このままだとまたアイツに会いたくなってしまう…。
ダメだ。オレは明後日の事を考えないと…!
寒くて暗い夕方、アイツの家と反対方向にあるオレの家へ、オレは走る。
顔が赤いのは、寒いのと走っているのと…アイツのせいだ。
優梨…好きだよ。
ずっとオレの横で笑っていてくれ。その笑顔で、オレは強くなれるんだから…。
有沢優梨。アイツの名前。居心地がよくて、あったかい、聞いただけで元気になれる、アイツの名前。
いかがでしたか?今回は良平目線で小説を書いてみました。良平は優梨の事をこんな風に思っているのか…とか、優梨とわかれた後はどうしているのか…とか、少しでも想像して下さると嬉しいです!
それでは、次は14話でお会いしましょう!また感想等下さい♪それでは〜




