キミとケンカ
キミとデートした。
予定通りにいかなかったけど、キミと私の距離が、前より近付いた気がする。
ありがとう。
「それで?結局タダ券は使わなかったの?」
少し呆れ気味の亜花莉。
「…うん。…でもお姉さんの彼氏、治ったから始めの予定通り二人で行ったんだって。」
少し決まり悪そうに言う私。
「まぁ、いいんじゃない?あんたららしいよ。」
そうやって、亜花莉は私の肩を軽く叩く。
「うん。」
私は照れる。
話題を変えよう。
「ところで、亜花莉と田辺君は?最近どう?」
いつもの軽いノリで聞いたのに、亜花莉の顔が強張った。
「…今私ら…ケンカ中なんだよね…」
困った様な顔をする亜花莉。
「ケンカ?!どうして?」
私は驚く。
亜花莉と田辺君は有名な長持ち&ラブラブカップルで、中学生の頃から付き合っている。
私は田辺君と付き合う前から亜花莉と友達だけど、今まで一度もケンカの話なんて聞いた事がない。
「倦怠期ってヤツ?なんかお互いギクシャクしちゃって…」
「…倦怠期…」
「付き合いが長いと必ずあるのよ。逆に今まで無かったのが不思議なくらいよ。」
「…そうなのかなぁ…」
私はうつむく。
倦怠期…キミと私にも…起こる日が来るのかな…
「でもさ、別れる訳じゃないんでしょ?」
私は少し必死な顔で聞いた。
「どうかな…」
遠い目をする亜花莉。
「…っていうかいつからなのよ?倦怠期って…」
「あんたらがたこ焼き食べてる頃。」
「土曜日に?」
「そう。電話してたら…」
「電話…」
「始めはいつもの調子だったの。でも…だんだんお互い口調が厳しくなって…」
「なんの話題?」
「…部活。」
「部活?サッカー?」
田辺君はサッカー部に入っている。3年が引退してからはキャプテンをしている。
「そう…なんか最近、1年と上手くいかないらしくて…疲れてるみたいかだから『たまには気を抜いたら?』って言ったのよ。」
「うん。別に問題は…」
「でも、それがいけなかったみたいで『今は大事な時だから気なんか抜いてられるか!』って怒りだして…」
「それで?」
「こっちも心配して言ったのにそんな言われ方されたら腹立って『あんたがピリピリしてるからみんなついて来ないんじゃないの?』って言っちゃったのよ…」
「あーあ…」
「それで電話は終了。メールも電話もないの。」
「…そうなんだ…」
私はふと田辺君を見た。
先週私に笑いかけた田辺君じゃなく、イライラした表情。
キミが様子を伺う様に話をしている。
でも、田辺君は頷く程度で会話らしい会話は見られない。
「私…いけない事…言ったのかな…」
しゅんと肩を落とす亜花莉。
「きっと、田辺君は神経質になってるだけだよ。地区予選近いって良平君も言ってたし…」
「…はぁ…」
深い溜め息をつく亜花莉。
こんなに落ち込む亜花莉は見た事ないかもしれない。
いつも太陽みたいに明るくて元気な女の子…それが亜花莉…
「それは北里がまずかったかもな。」
帰り道、キミと並んでいる。
最近の私たちはこうしているのが普通。
私はキミの部活が終わるまで待っていて、一緒に帰っている。
「そう…なのかな…確かに言い過ぎだとは思うけど…」
「真章さ、最近後輩と仲悪いんだ。1年、自己主張が強い奴等ばっかりなんだって。」
「…そっか…田辺君、キャプテンだもんね…」
キャプテンという重圧…そんな時は彼女との電話にも神経質になるのかな…
「そう。チームがそんな時でもアイツなりに頑張ってるんだよ。」
「…でも…だから力抜いたらっていうのは良いんじゃない?」
「それじゃあさ、」
キミは私を振り返って真剣な顔になる。
「自分は死ぬほど頑張って気をはりつめてるのに、簡単に"気を抜いたら?"とか言われたら、優梨はどう思う?」
「…それは…」
きっと怒る。
そうか…田辺君は亜花莉にやつあたりしちゃったんだね…
でも…
「でもさ、それって分かりにくいよ…」
「まぁな。男ってのはそんなもんだよ。みんな無器用なんだ。」
「…うん…そうだね。良平君ってそれの典型的なカンジだもんね。」
「え゛っ…なんだよそれ!」
キミはギョッとした顔。
「べぇつにっ。あ、家に着いちゃった…」
…なんだ…早いの…。
「…それじゃあ…な。」
「うん。送ってくれてありがとう。」
そう言うと、キミは微笑んで帰っていく。
…男の子って…意外と複雑なんだな…。
ちょっとだけ、キミが分からなくなった気がした。
次の日、亜花莉は、まだ田辺君と仲直りしていないようだった。
「なんかさ、お互いギクシャクしたままなんだよね。」
亜花莉は苦笑する。
「真章に、話しかけられないのよ。そういう雰囲気になっちゃって…」
「そっか…。」
うつむく私達。なんて声をかけて良いの?
「でもさ、なんか拍子抜けしてるんだ…」
「えっ?」
「ケンカする前はいつも一緒にいたんだよ。でも今はそれがウソみたい…そんなものだったのかって。」
「…それは違うんじゃない?」
「えっ…」
突然の私の言葉にとまどう様子の亜花莉。
「田辺君ってさ、大人っぽいけど意外と頑固なんだよ。だから自分の方から謝るのが苦手なんだよ、きっと。」
「…そうなのかな…」
「うん。だから本心では寂しいと思ってるんじゃない?」
「…そうか…そうだね…。ありがとう。」
亜花莉が、私に微笑む。
いつもの亜花莉の笑顔。
なんだか私まで嬉しくなる、笑顔。
放課後、いつものように体育館の二階にある観客席に座ってキミを見る。
わたし=キミの彼女という事は、なんとなく広まって、私が体育館にいることもいつもの光景になっていた。
そんな時、不意に声を掛けられた。
「あなた、有沢優梨さんよね?」
声の主はバスケ部の女子マネ・坂下麗先輩だった。
彼女は学校でも1、2を争う美女で、男女共にファンが多い。
「…はい、そうですが。」
「…隣、座るわね。」
「あ、はい。」
そう言うと先輩は私の隣へ腰を下ろした。
隣に座った先輩は、こっちを見ないでバスケ部の練習を眺めている。
すらっとして背が高い先輩。でも横顔もすごく絵になる。
「あなた、良平の彼女なんですって?」
『良平』…呼び捨て?
「…そうですけど…それが何か?」
少し怪訝そうに返す。
「あ、呼び捨て、気にしてるの?ウチの部って男女関係無く呼び捨てで呼んでるだけだから気にしないで。」
明るく笑顔で返す先輩。…よまれてた…。
「別に…それより何か?」
「別に大した事じゃないけど、ただ、気になってね。」
気になる?何を?
「良平、前から言ってたのよねぇ。好きな女の子がいるって。」
「…そうなんですか。」
本当にそれだけ?興味本意?
「ただね、意外と普通の子だなぁって。」
…カチンときた。『普通の子』…別に事実だから良いけど…本人の前で言う?
「…どんな子だと思ってたんですか?」
「そうね…少なくても私より綺麗で届かない様な子だと思ってた。」
「…すいません…」
本心じゃなかったけどなぜか謝った。
「謝る事じゃないわ。でも、本当に意外だったのよ。」
その時、ピッーと笛の合図が聞こえる。
コーチの声らしきものが『15分休憩!』と叫ぶ。
「あ、それじゃ、私行くわね。」
先輩は立ち上がって私を振り返る。
そして、すれちがいざまに私にだけ聞こえる声でこう囁いた。
「良平ね、1年の頃、私に告白してきたことあるのよ。」
えっ?
私は急いで振り返った。でも、そこに坂下先輩はもう居なかった。
ただ、一人になりたかった。
キミを見ていることが辛くなった。
キミは、坂下先輩に告白したの?
私が初恋の相手ではなかったんだね。
そういえば初デートの時、『女の子とデートするのは初めて』と言ってたね。
デートは初めてでも、初めて好きになった人は私じゃなかったんだ。
デートが初めてなら、きっと私が全部キミにとっての初めてだと思ってた。思い込んでた。
そんな自分が情けなくて…恥ずかしくて…気付いたら体育館を抜け出していた。
何気無く歩いていたら、また校舎裏に来ていた。
紅葉は葉を落とし、枝が丸見えだった。
どこか寂しそう。
はぁ〜…と溜め息ひとつ。
「有沢?有沢じゃない?」
紅葉の木の裏側から現れたのは…
「田辺君!」
「どうしたの?良平、もう練習終わったの?」
「…ううん。ちょっと…。それより田辺君こそ!どうしたの?」
「…サボった。」
「えっ…?!」
田辺君は、どんなに辛い練習でも、1回も休んだことは無かった。少なくとも、亜花莉はそう言ってた。
「なん…で?」
「…俺さ、キャプテンなんて失格なんだよ。」
そう言って、田辺君はドサッとその場に座り込む。
つられて私も隣に座る。
「1年にさ、困った奴が居るんだよ。そいつさ、自分の思い通りにならないと気が済まない奴で…」
多分、キミが話てた1年だね。
「そいつがさ、この前のレギュラー試験落ちたんだ。ま、正確には、こっちが選考したから落としたんだけど…。それが先週の金曜。」
亜花莉とケンカする前の日…
「したらさ、そいつ文句言い出したんだ。『自分より下手な奴が選ばれてるのに、自分が落ちるのは府に落ちない』って。」
「…すごい自信…。」
「俺、そいつに言ったんだ。『確かにお前の技術は認めるが、サッカーはチームプレイだから、協調性のある奴を重視したんだ』って。」
「…そしたら?」
「辞めた。部活。」
「…そうか…でも、正しいこと言ってるじゃない。なんでキャプテン失格なの?」
「そいつさ、友達5人と入部したんだ。その中の3人はレギュラーだった。」
「…それで?」
「そいつら含めて6人全員辞めた。その上練習中に接触事故があって2人怪我。部員が足りなくなって、大会に出られなくなった。」
それを言うと、田辺君はがっくりとうなだれた。
「ただでさえ部員不足で困ってたのに8人もいないと出場は無理。これまでやってた事も水の泡。」
田辺君は溜め息をついて、
「チームプレイが重要とか言ってて、俺が1番できてなきゃ、キャプテン失格だろ?なんか悔しくて…」
「…それで部活サボったの?」
「まぁね。きっと誰も来てないし。」
「えっ…」
「試合に出られないの分かったの今日だからさ…、どっちにしても今日は練習無しにする予定だったし。」
「そっか…」
しばらく沈黙。
その沈黙を破ったのは田辺君だった。
「亜花莉、元気?」
「うん…ねぇ、仲直りしないの?」
「仲直り?」
「うん…。亜花莉、寂しそうだったよ。田辺君も寂しいんじゃない?」
「…寂しいよ。でも、こんな俺、カッコ悪すぎて見せらんないよ。」
「なんで?」
私は聞き返す。
「どうしてカッコ悪いところ見せられないの?」
「どうしてって…」
「私が彼女なら、全部見せてほしいけど?」
「なんでだよ。逆ギレしてんだぞ。部員にも愛想つかされたんだぞ。そんな姿見るのなんて絶対嫌だろ。ましてやそれが自分の彼氏だたら…」
「ううん。」
私は田辺君に向き直る。
「私なら、カッコよくしてばっかりよりも、弱いところを見せてくれる方が嬉しい。」
「…なんで?」
「だって、カッコよくしてるって事は、自分を作ってるんでしょ?それよりも、素の…飾らない姿を見せてもらえた方が良い。」
田辺君はこっちをじっと見ている。
「作ってるのは疲れるでしょ?恋人の前ぐらいなら、そのままでいてもらいたい。弱音吐いたって、へこんだところだって、私の前でだけでも見せてほしい…そう思うのはおかしいかな?」
「しばらく沈黙。
田辺君を見る。
私の言葉を、ひとつひとつ整理しているような顔。
そして、自分の中で結論を出したのか、こっちを向いた。
「有沢って、良いこというなぁ。」
そう良いながらポンっと頭に手を置く。
…良平君みたい…。
「そ…そうかな。」
「うん。良い奴。良平は幸せ者だな。」
「でも、亜花莉が彼女で田辺君も幸せでしょ?」
「うん。ホントだな。」
そう言って田辺君は微笑む。
私も笑う。
「ところでさ、有沢はどうしたの?良平は?」
私は言葉に詰まる。
「…田辺君、坂下麗先輩って知ってる?」
「あぁ、バスケ部の女子マネだろ。」
「…他に…何か知らない?」
「どうした?なんかあったのか?」
「さっきその人に話しかけられたの。それで、去り際に"私は去年、良平に告白された"って…」
「あぁ…その事…。」
「その事って、やっぱり知ってるの?」
「うん…その頃はあんまり仲が良かった訳じゃないから詳しくは分からないけど。」
「じゃあ、ホントなの?」
「噂じゃな。坂下先輩のファン、多いからなぁ…俺は亜花莉が居るから興味なかったけど。」
「…そうなんだ。」
「でも、わざわさ言いわなくても良いじゃんなぁ。自分から振ったんだろ。」
「そうみたいなんだけと…」
「あのテの女はプライド高そうだから、変に対抗意識持つんだよ。」
「…そうなのかな。」
「そうだって。今良平が好きで、彼女なのは有沢だろ。もっと自信持てって。」
「うん…。ただね、そのひと"良平"って呼んでたの。呼び捨てで。」
「ほぅ…。」
「なんか悔しいっていうか…どっちが彼女か分からないっていうか。」
「んじゃ、呼び捨てにしてみたら?」
「…えっ?」
「そうしたら解決するんじゃない?」
「…そう…でもないかな。」
「そうか…。」
「でも、思い込んでたんだ。良平君の初めて好きになった人は私で、私の初恋が実のったみたいに、良平君も初恋だったって…ちゃんと聞きもしないで…自分勝手だよね。」
「そうかなぁ?」
田辺君が、口を挟む。
「俺、別にそうは思わないよ。むしろ良いことじゃない?」
「そうなの?」
「だってさ、つまりはヤキモチ焼いてんだろ。坂下さんに。」
「…多分…。」
「あのさ、」
田辺君は少し遠くを見るような感じで続けた。
「恋すると、みんな自己チューになっちゃう訳よ。だろ?相手が一番大事なんだもん。だから自分を見ててほしいとか、好きでいてほしくて無意識に良い方に考えちゃうんだよなぁ。」
「…田辺君もそう…?」
「あぁ、まぁ俺が言っても説得力無いけど。」
小さく笑う田辺君。
「だから坂下さんを意識して、ヤキモチ焼いたんじゃない?」
「…そうだね。」
「っていうかさ、一番分かりやすいのが良平だって。」
「良平君?」
「あぁ。絶対有沢しか見えてないぜ、アイツ。」
「…そう?」
「誰が見ても一目瞭然!」
「そ。だから、自分勝手で構わないよ。むしろ有沢はもっと自己チューになるべし。」
「ふふふ。そっか。」
恋は盲目って事かな?
「ありがとう。なんかそう言われたらスッキリした。」
「そう?それはどうも。光栄だよ。」
「ふふふ。亜花莉と仲直りするでしょ?」
「あぁ。とりあえず今日電話してみるよ。」
「よしよし。その調子。」
「ははっ。頑張るよ。ありがとうな。」
「いえいえ。」
お互いクスッと笑う。
これで亜花莉も元気になるね。
そんな事を考えていたら、田辺君が唐突に聞いた。
「ところでさ、なんで有沢は俺の事、"田辺君"なの?」
「えっ…」
そんな事、考えたこと無かった。
「何でって…なんでだろう。田辺君も"有沢"じゃん…」
「そうだな。でもなんかそれで成り立ってるよな。」
「そうだね。これで使い分けてるし。」
「このままがいいね。」
「だな。」
私たちはまた笑いあった。
「それじゃあ、この辺で。行くんだろ。」
「うん。体育館に行ってみるよ。まだ練習終ってないかもしれない。」
「分かった。気を付けろよ。」
「うん。また明日ね。」
こうして田辺君と分かれた。
「まだいるかな…」
体育館に足早に行った。
でも、練習はすでに終わったみたいで、誰も居なかった。
とぼとぼと帰る。
校門のそばに行く。
人影が見える。
近くに行かなくても分かった。
キミだ。
「優梨…!」
「良平君…。」
キミが駆け寄ってきた。
「帰り、いつもの場所に居なかったから…」
「ごめん…」
「もう少し待って来なかったら帰るつもりだった…いくか。」
「うん…ホントにごめんね。」
いつもの様に歩き出す。
でも、キミはどこかおかしい。
いつもはキミの方から聞かなくても話しかけてくれるのに…。
空気が重い。
いつもの私たちではなくなっていた。
そして、その沈黙を破ったのもキミだった。
「何してたの?今まで。」
「何って?」
「いや…」
何か言いたそうなキミ。
「どうして?なんかあった?」
「言えないような事なのか…?」
「別に、そんなんじゃないよ。」
「なら言えるだろ。」
おかしい。いつもの良平君じゃない。
「どうしてそんな聞き方するの?」
「…男と居たって、本当か?」
「えっ…。」
思いがけない言葉に足をとめた。
何で知ってるの?
「ホントなのか。」
溜め息混じりに言うキミ。
「誰から聞いたの?」
「麗さん。知ってるだろ?女子マネの。」
"麗さん"…。
キミの口から出てきた言葉に驚く。
「誰と居たんだ?」
口調が厳しくなるキミ。
「田辺君。」
「真章?!どうして?」
「たまたま見掛けて二人で話してた。」
「なんで?何を?俺と帰ることより大事な事だったのか?」
「お互い悩みを話し合ってたの。別に良平君が心配してることはないよ。」
無意識に冷たく言い放った。
その態度が気に入らなかったのか、キミは怒って言う。
「何だよ。何で悩みを打ち明けるのが俺じゃなくてアイツなんだ?」
「だからたまたまだってば!それより、何で坂下さんが知ってるの?」
「知らないけど、練習終わったあと、耳打ちされた。"彼女、校舎裏で男といるよ"って。」
信じられない…。
あの人はあの後私をでつけてたんだ。
なんで…。
「なんで坂下さんの事、信じたの?」
「信じるよ。あの人はウソとか冗談とか言わねえし。」
「やけに信用してるんだ…。」
やだ…。私、なんでこういう言い方しか出来ないの?
「その言い方はないだろ。実際真実だったんだし。」
「そうだけど…でもやましい事とか言えないことを話してた訳じゃないよ。」
「なら、何言ってたんだよ。」
「…。」
私はうつ向く。
キミの事。
キミの事を話してたんだよ。
なのに言えない。
すごくもどかしい。
「ほら、言えないじゃん。麗さんの言ったとおりじゃん。」
「なによ…さっきから麗さん麗さんって!坂下さんは信用して、私は信じられないの?」
「だって、矛盾してるじゃん。何にもないなら言えるだろ。」
「だから、何にもないってば!」
「だからそれなら言えってば!」
お互い口調がきつくなる。
いつも私を気づかい、優しく話しかけるキミではない。
そんな状態にうんざりしたように言った。
「田辺くんとはね、サッカー部の事を話したの。それから亜花莉とのこと…それと、良平君のこと!」
「…俺?」
不意をつかれたようなキミ。
「そうよ。良平君が坂下さんに告白したって話をしたの。ちょっとショックだったけど、話してたら落ち着いたの。それだけ!」
「なんだよそれ…何で…」
「さあ?相談すれば良いじゃない!麗さんに!私じゃ信用できないんでしょ!」
「そうじゃなくて…」
「何?」
「何でお前がその事知ってるんだって聞いてるんだよ。」
「さあね。張本人に聞きなさいよ。」
「誰だよ…もしかして麗さんか?」
「知らない!もう知らない!」
私は逃げるようにその場を去る。
みっともない。
カッコ悪い。
最悪!
遠くで、"優梨…"と言う声が聞こえた。
でも、無視した。
みじめだ。
あまりにもワガママだ。
胸が苦しい。
言葉にできないもどかしさが込みあげてくる。
声を出して泣きたかった。
私はひどい。
きちんと説明もしないで…一人で怒って…。
坂下さんの名前を聞きたくなかった。
そして、坂下さんを信じ、名前を口にしたたキミがたまらなく嫌だった。
いや…。
私は足を止める。
もしかして、キミを…坂下さんを嫌う口実にした?
「最低だ…私…。」
ふと空を見上げる。
もう真っ暗だ。
キミは毎日…こんなに遅くまで部活をやっている。
それなのに、反対方向の私を家まで送り届けてくれる。
どんなに断っても…無理矢理でも送ってくれた。
私は私が嫌だ。
キミの優しさも、心配する気持も気付けなかった私が…
涙が溢れた。
止めようとする程、涙は止まらない。
止まらない涙が頬を伝う。
この涙はなんの涙?
次から次へと流れる涙の意味を自分に問いかける。
家に着いた私は、真っ先に自分の部屋のベットへ倒れ込む。
枕に顔を埋めて、火がついたように泣き出した。
ごめんね。ごめんね。こんな私で。
こんな子供みたいな…幼稚な私でごめんね。
怒って、怒鳴ることしかできなくて…
心なかで何度もキミに謝った。
しばらく泣いて、泣き疲れた私は仰向けになった。
目は腫れぼったい。
顔がヒリヒリする。
頭がボーッする。
ふと、ある事が頭をよ切った。
無意識に声に出していた。
「明日…どんな顔して会えば良いんだろう…。」
もう、キミの顔が見れない。
お待たせしました。11話です。前回からかなり経ってしまいました(汗)
話はシリアスで、次回に続きますが…どうなるのか私にも分かりません(苦笑)後編をお楽しみに!
最後に、毎回言っておりますが、メッセージやアドバイス本当にありがとうございます!今後も応援してやって下さい。それでは、12話でお会いしましょう!




