キミと初デート
ガチャッ…
キミがドアの前に立っていた。
「良平君…おはよう。」
…10時前だけどね。
「ゆ…優梨…?だよな。」
「…そうだよ。…ビックリした?」
キミの顔が紅潮する。そして呟く様に、キミは一言告げた。
「…可愛い…」
『可愛い』…その言葉、私に言ってくれているんだよね。
「ホント…?」
「言っただろ。」
キミはそう言いながらポンっと私の頭に軽く手を置く。「俺、キュートなのが好きだよ。」
「うん。ありがとう。」
優しいね、キミは。
「ほら、優梨。」
キミは手を差し出す。
「うんっ。」
私はそっと手を重ねる。
やっぱりキミの手はあったかい。緊張がほぐれてゆく。
「今日さ、これからバスで行くから。直通の便があるんだって。」
「そうなんだ。乗った事あるの?」
「いや、無いよ。アネキに聞いた。」「そっか。でもなんか悪いなぁ…ホントは彼氏と行くんだったんでしょ?」
「ま、大丈夫だよ。彼氏もだいぶ良いみたいだし。」
「そう?」
「何?ずっと気にしてたのか?」
「うん…ちょっと…」
「優梨って、優しいな。」
「そう?」
優しい…それは、キミもだよ。
「あ、優梨の『ゆ』は、優しいの『優』だな。なんか、良いな。」
「…そう?良平くんは…イイ感じで平らで『良平』?」
「はははっ。なんだよそれっ。イイ感じねぇ…あ〜、おもしれぇ〜。」
「…んもぅ、冗談だよ…笑いスギ…」
ちょっと顔を背ける。
キミがあんまりにも笑うから…まともに顔合わせられないじゃん。
「あ〜、優梨、ごめんよ。でもあんまりにもオモシロすぎで…」
「…もぅ…」
膨れっ面になってみる。キミはちょっと慌ててる。
「怒るなよ〜…あ、ほら、バス停着いたぞ。」
私の家からそんなに離れていないバス停。
でも、キミと一緒に居たらいつもより近くに感じる。
「バス…何時?」
「あ、ちょっと待ってろよ。確か家に時刻表があって、持って来たから…」
キミはカバンをごそごそ探る。中からはちょっとクシャクシャになった時刻表。
「あ、10時20分ってのがあるよ。今何時?」
「今17分。」
「んじゃあと3分だな。」
…あれっ?
「あのさ、良平君…」
「うん?」
「こっち、11時30分ってあるんだけど?」
私はバス停に貼ってある時刻表を指差す。
「えぇっ!んなハズは…」
キミは時刻表をもう一回確かめる。
「あ〜っ!!!」
いきなりキミが大声をあげた。
「…どうしたの?」
「これ…今年の春までの時刻表だった…」
ちなみに、今は季節は秋。約半年前の時刻表。
「あはははっ!」
今度は私が笑う番だよ。
「しょーがないだろっ。朝、緊張してたし…焦ってたんだよっ」
また赤くなる、キミのほっぺ。
「…なんか、良平君らしいよ…」
傘もそうだったよね。
「あ〜、俺ってなんでちゃんと最後まで決められないんだよ…」
キミはくしゃっと髪をかき上げる。
そして、がっくり肩を落とす。
その姿があまりにも惨めに思えて、私は笑うのを止めた。
「はぁ〜…」
待ち合席のイスに深く座り込んで大きな溜め息をはく、キミ。
私はそっと、キミの隣りに座る。
「あのさ、笑ってごめん。良平君も、緊張したんだよね…」「当たり前だろっ。初デートなんだし…」
「そうだね…文化祭もデートってカタチじゃ無かったしね。」
「…それもあるけど…」
キミは言葉を詰まらせる。
「デートってモノ自体が、初めてなんだ。」
えっ?
「…そうなの?」
「恥ずかしいけど…」
キミは、またうつむく。
「…恥ずかしくないよ。」
「えっ?」
「だって、私も同じだもん。」
キミは、ちょっと意外そうな顔。 私は、勢い良くイスから立ち上がる。
「ホラ、いこう。1時間、時間潰さなきゃ。その辺に喫茶店かなにかあるよ。」
「…優梨…」
「もぅ、私は気にして無いからっ!ねっ?」
そう言って私は手を差し出す。
さっきと逆だね。
「…やっぱ、優梨の『ゆ』は優しいの『優』だな。」
そう言ってキミは立ち上がる。そして私の手を握る。
私の手より、一回りぐらい大きな手。
あったかい手。
「う〜ん…どうするかなぁ…」
「次が11時30でしょ?んじゃ5分前にバス停に行くとして…1時間弱あるねぇ…」
「う〜ん…」
「とりあえずさ、ウインドウショッピングでも…」
「お、いいな。さっすが。んじゃこの辺の店、見て回るか。」
「うん。」
バス停の近くにはたくさんの店がある。
「あ…」
私は雑貨屋さんの前で足を止めた。
「可愛い…」
ペアリングだった。きっと二人で付けたら…
「…欲しい?」
キミは私の顔をのぞき込む。
「えっ、いや、別にっ。」
私は慌てて反対を向く。
いきなり顔…近付けるなんて…ビックリするよ。
「あのさ、欲しいなら、ちゃんと言ってみろよ。」
「…。」
「欲しい?」
「…うん。…んじゃ、ワリカンで買…」
振り向いた。
キミは財布をカバンからごそごそと取り出して、さっとレジに並んだ。「…ワリカンで良いのに…」
ボソッと呟く。
キミが支払いを済ませた。
「はい、優梨。」
キミは指輪の入った紙袋を差し出す。
「…ねぇ、ワリカン…」
「しなくていいのっ。ホラ、俺、金持ちだからねっ。」
キミはおどけた顔。
「…ホントに…良いの…?…なんか悪い…」
「そう?」
しばらくこっちを見る、キミ。
「なあ、ちょっと喉渇かない?」
おっ?
「よしっ、んじゃジュースおごる。ワリカンにならないけど…」
「いいのっ。ほれ、行くぞ。指輪ちょうだい。」
キミに私のよりも少し大きな指輪を渡す。
「おっ、なかなかカッコいいじゃん。」
「そう?へへっ、センスいいでしょ?」
「おう。あ、あそこに公園あるぞ。」
「ホントだ。自販機もあるし…あそこに行こっか?」
ここも近所。小学生の頃ぐらいまではよく遊んだな…
私とキミは、噴水の側のベンチに腰掛けた。
「じゃあ、ジュース買って来る。」
「おぅ。俺、サイダー系が良い。」
「了解っ!!」
ぽかぽかと晴れた空。まさに運動会日和。
自販機の前に来た。
「サイダー系ないなぁ…」
みんなジュースばかり。
「いくらなんでもあるでしょ…」
とりあえず辺りを見回す。
…無さそう。
「どうするかなぁ…」
もう少し探してみることにした。
…すると、遠くで子どもの声がする。
『お母さん〜ジュース買ってぇ〜』
『はいはい。』
…あっちの方にあるのかな…
私は声のする方へ行く事にした。
ちょっと歩いた所に、自販機が見えた。
…あるかもしれない。
自販機を見てみる。
「…あった…」
ラムネの缶ジュース。
私も同じものを買う。
気付けば、随分遠くに来た。キミは心配しているかも…
私は2本の缶ジュースを抱えて少し小走りでキミの所へむかう。
ベンチが見えた。
キミの姿も見える。
私の進むスピードも無意識に早くなる。
「ごめんね、遅くなって!!」
私は息を切らしながらキミに声をかける。
…キミから返事がない…
…怒ったのかな?
「良平…君?」
キミの顔をのぞき込む。
…キミは…
「ねっ…寝てる…」
心地良さそうに寝てる。
「…おいおい…」
私は隣りに座る。
…結構焦って買ってきたんだけどねぇ…
「ふぅ…」
小さく溜め息。
ま、いっか。 ぽかぽかしてるし、遅くなったのも私が悪いし…
…キミの横顔を見ていると…こっちまで眠くなってきた…
「おい、優梨!優梨!!」
私は、キミの声で目を覚ました。
「ん…良平君?…あ、私、寝てた?」
「それより、時計見てみろ。」
…えっ?なんか嫌な予感…
「12時…4分…」
やっちゃった…
「…バス、行っちゃったぞ。」
「…もう…無かったっけ…?」
「…無い。」
…マジっすか…
「…ごめん、俺が完全に悪い。寝ちまったし…」
キミは決まり悪そうにうつむく。
「…そんな…私も…ジュース買いに行くの…遅くなったし…」
「いや…っていうか、ジュース何処まで買いに行ってたんだ?確か来る途中にあったぞ。」
…それは…
「ごめんね…反対まで行ってた…」
「えっ?」
「…そこの自販機、サイダー無かったから…」
キミはその言葉に驚いた。
「じゃあ…サイダー系無かったから、反対の自販機まで買いに行ってたのか…?」
「…うん…」
「他のにしよう…とか、買って来ない…とかは…考えなかったのか…?」
「…うん…ごめん。」
怒った?
呆れた?
…ごめんね…不器用で…
でも、キミは笑いだした。
「はははははっ!」
私はビックリ。
「優梨って、本っ当に良いヤツだよ。参った。」
そう言ってキミは、私の頭にポンっと手をのせる。
「…笑わなくても…」
「いやいや。ホント参った。やっぱり、優梨、可愛い。おまけに良いヤツだよ。」
…面白いより…かなり良い評価じゃない?
「…ありがと…」
キミはまだクスクス笑う。
「あーあ。どーするかなぁ…何しようなぁ…」
「なんでもいいよ。あー…ジュース…ぬるくなっちゃった…」
「いいよ。家で冷やして飲む。」
「そだね。…それじゃあとりあえずごはん食べよっか。」
二人とも立ち上がる。
自然と手を繋ぐ。
「…あ…」
キミは何か見つけて立ち止まる。
「ちょっと待ってろよ。」
キミは走りさって行った。
…どうしたのかな?
しばらくすると、キミが戻って来た。手には白いパックを2つ持っている。
「あっちの方で見つけたから…」
そう言ってキミは私にパックを差し出した。
ほのかにソースの香ばしい匂い。…もしかして…
「たこ焼き?」
「あったりー。なんかさ、文化祭思いださない?」
「ホントだね〜。」
…覚えてくれてたんだね。ありがとう。
「でもさ、買ってきたのはいいけど、何処で食べようなぁ…」
「…う〜ん…」
キミは辺りを見回す。私は考える。
その時、一つひらめいた。
「ねぇ、私、良い所知ってる!」
「マジで?行こう。」
やって来たのは小高い丘。ウチの近所で、ピクニックに来た事があった。
「お〜。イイ感じじゃん?さっすが。」
「まぁね。ダテに住んでないよん。さ、座って食べよう。」
「おぅ。」
パックを開ける。
ソースの匂いがどこか懐かしい。
キミはたこ焼きを1つ、頬張る。
「ん〜んまいなっ!」
「ホントだね。おいしい!」
「だろっ。ナイスチョイスだな。さっすが俺!」「…それ、自分で言う〜?」
私は少し笑いながら言う。
「だぁ〜って、優梨、言ってくれるの?」
「ナイスチョイス。」
私は感情のこもって無い声で言う。
「おいおい。もうちょっと感謝してくれよ〜」
「冗談だよ。ホントにおいしい。ありがとう。」
「うん。なら、良い。ま、焼いたのはたこ焼き屋のおっちゃんだけどね。」
キミは白い歯を見せて笑う。
「おっ、今日は青ノリ付いてないね。」
「そんなしょっちゅう付けてないよーだ。」
キミは少しふてたような顔。
「…ふふふふ。」
「ははは。」
私たちは笑う。
幸せな時間。
やわらかな風が丘の上をやさしく吹き抜ける。
秋晴れの空、澄みきった空、穏やかな時間…
「う〜ん、食った食った!」
キミはそう言いながら腕をあげてのびをする。
「うん。おいしかったね。ごちそうさま。」
私も食べ終えた。
目の前に広がる景色を、しばらく私たちは眺めた。
のんびりとした時間。
「のどかだねぇ…」
「なんだよ、年寄りくさいなぁ…優梨…」
「悪かったね…」
「別にっ。可愛いから許すっ。」
「何、ソレ…」
「ところでさ、メイク、誰にしてもらったわけ?」
急に話題が変わる。
「えっ…」
「北里?」
「…うん。…分かった…?」
「なんとなく…」
「正確には…亜花莉とお姉さんの光里さんが、メイクしてくれたんだよ。」
「光里さん?」
「うん。短大を卒業したばっかりの若くてキレイな人。今は化粧品店で働いてる。」
「へぇ〜。」
キミは優しい、あたたかいまなざしで私を見ている。
「二人とも、私に自信を持たせてくれたの。」
「そっか。だって、可愛くなったよ。優梨。」
「…ありがとう。」
そう言って私はキミの肩へもたれた。
キミは私の肩を抱く。
「でもさ、優梨が可愛くなりすぎると、俺のハードルが上がるんだよなぁ…」
「えっ?ハードル?」
「そっ。彼女が可愛すぎるとプレッシャーがねっ。」
「…だって…良平君は…何もしなくてもカッコ良いじゃん。」
「えっ?」
キミは意外な顔。
「…だって…良平君は…カッコいいから女の子から人気あるし…私、良平君の隣りが似合う彼女になりたかったの。」
…正直な気持ち。
でも、キミは意外な言葉をかける。
「…バカだなぁ…」
「えっ?」
「…隣りが似合わないのは俺の方だよ…優梨、可愛いじゃん。」
「…可愛くない。」
「…可愛い。」
…キリなさそう。
「あー、もぅ、」
私はキミを見る。
「ならさっ、似合わないモノ同士のカップルって事でっ!」
「…ぷっ…何ムキになってんだよ。」
「なってないよ。…いじわる。」
私はちょっとふくれてみる。
キミは私を見る。
「あー、もう今日は優梨ちゃんにやられっぱなしですねぇ。」
キミはごろん、と横になる。
「俺なんてさ、昨日寝る前にいろいろ考えて、結局寝坊して…慌てたらこの有様。」
「いーのっ。それで。良平君っぽい。」
「マジで?俺っぽい?そりゃ良かった。」
「もう、立ち直り早いよ。」
「いーのっ。それが取り柄だもん。」
「…そうだね。」
私も横になってみる。
目の前には空がどこまでも広がる。
「…なんか…気持ちいい。風とか空とか。」
「そうだな…あ、折角だから腕まくらしてあげよっか?」
腕まくら?
私は勢い良く体を起こす。
「けっ…結構ですっ!」
キミも起き上がる。
そして笑う。
「動揺しちゃって〜。可愛いね。」
「きょっ…今日は可愛い言い過ぎ…」
…顔が熱いよ。
「だーって、可愛いんだもん。優梨。」
キミはいっぱいの笑顔でこっちを見る。
…反則だよ…
「…もう…」
「…あのさ、」
キミは私に向き直る。目がさっきより真剣になってる。
「ズバリ、今日のデートは100点満点中何点?」
「えっ…そりゃあ…」
ちょっと考えて私は笑顔で答えた。
「もちろん、200点!」
キミは笑う。
「はははっ。100点満点って言っただろ。」
「いーの。100点プラス。マイナスよりいーでしょ。」
私も笑う。
二人で笑う。
私たちの笑い声が、秋晴れの空に、響き合う。
楽しかったよ。
ありがとう。
「…それじゃ、俺はここで…」
ココは、私の家の前。辺りは随分暗くなった。日が落ちるのが早い。
「うん。今日は楽しかった。ありがとう。」
キミはほほ笑んで、
「おう。じゃあ…月曜な。」
「うん。気をつけてね。」
「あぁ。」
…キミは帰って行く。
…ねぇ、
今日は…羽目を外しても…良いよね…?
「…良平君っ!」
キミを呼び止めた。
振り向くキミ。
「今日はありがと。」
そう言って私はキミのほっぺに背伸びした。
そして、私は何もなかったかの様に笑顔で
「また月曜ねっ!」
と言って家の方へちょっと早足で歩き出した。
多分キミは赤い顔してるだろうな。私だって自分の大胆さにちょっとビックリ。
でもこんな私もいて良いよね。
肝心の所で失敗するキミ。 以外と照れ屋なキミ。
前野良平…私の彼氏。大好きな人。
9話を書いてからすぐに書いてみました。デートは、二人らしいものになったと思います。
次回は、今のところ真章の事が書きたいので、そんな内容になると思います。
最後になりましたが、感想やメッセージ、アドバイスなど、本当に嬉しい限りです。この場を借りてお礼をいいます。
それではこの辺で。また11話でお会いできる事を祈って…




