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第12話「名前を呼ぶ理由」
「ねえ、名前で呼んでいい?」
何気ない一言だったはずなのに、空気が変わる。
これまで苗字で呼び合っていた距離が、静かに崩れ始める。
「……いいよ」
少し照れたような笑顔。
その日から、彼女の名前を呼ぶたびに、心の奥がじんわり熱くなる。
ただの呼び方が、こんなにも意味を持つなんて思わなかった。
「〇〇ってさ」
自分の口から出たその音が、妙に愛しく感じる。
もう友達じゃない。
でも、恋人とも言えない。
曖昧で、甘くて、壊れやすい関係が、静かに形を取り始めていた。




