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プロローグ
それは、あまりにも静かな始まりだった。
世界は長いあいだ、戦い続けている。
なぜ戦っているのか、誰もはっきりとは覚えていない。ただ敵がいて、味方がいて、剣を取る理由がそこにある。それだけで十分だった。
朝になれば戦場へ向かい、夜になれば生き延びたことを確かめる。そんな日々が繰り返されている。
レイもまた、その中の一人だった。
守るために戦う。それが正しいと信じていたし、疑うこともなかった。
――あの日までは。
霧の戦場で出会った、一人の少女。
本来なら迷うことなく斬るべき相手だった。
なのに、その刃は届かなかった。
届いたはずなのに、なぜか止まってしまった。
まるで最初から、斬るつもりなどなかったかのように。
そしてそれは、相手も同じだった。
視線が交わる。
そこにあったのは、敵意だけではない何か。
理解できない感情が、確かにそこにあった。
それが、すべての始まりだった。
これは、嘘から始まる物語。
守るための嘘と、壊れていく愛の物語だ。




