釈放
少しばかり落胆して家に帰った翌朝のこと。
再び志乃が来襲して、とんでもない知らせを大声で伝えてきた。
「はあ」
気の抜けた声を上げた若先生が外を見ると、顔見知りの新聞売りの少年が多くの客に揉みくちゃにされている。
誰もが求めたその号外記事には、さらなる惨劇の様子が描かれていた。
留まり橋、今度は血溜まり橋に改名か。
それを見つけたのはまたまた点消方の男。
別人だっただけ御の字――。
呪われた点消方――。
しかし、そのやり方は同じもの――つまりは、手足を落とされた達磨状態でガス灯に寄りかかっていて、切り離されたそれらは今回は少し離れた場所に置かれていたという。
肝心なのは、殺されたのは夜から明け方までの間だということだ。
その間、一件目の犯人と目されていた女はずっと留置所にいたのである。そもそも彼女が下手人であるという証拠を見つけられていない警察は、彼女を釈放するしかなかった。
「まさかまさかの無実の罪で女を吊し上げ! さっすが公僕はやることが違うねぇ!」
ここぞとばかりに、人々は皮肉な声をあげていた。その中には、女を指して「頭がいかれている」だのなんだの好き勝手言っていた人々も混ざっているのがまたさらに皮肉である。
さて、その若先生は再び新聞記者として交番所の前に立った。
「また来たのかよ。残念だが、犯人の目星はついてない。振り出しだ。だが、絶対に捕まえてみせる――これでいいか?」
やけくそ気味に巡査は言った。
しかし、当の若先生といえば、巡査の話は右から左であった。その目は、隣の人に釘付けになっている。
その人は話し声でこちらに気付き、少しばかり首を傾げた。
――う、美しい……。
無地の黒い着物に、白い肌がよく映える。緩く結ばれた黒髪は左肩にかけられ、匂い立つような頸を露わにしていた。顔の配置はほどよく整っていて、良い意味で特徴がない……が、ふと目を離した隙にいなくなっていそうな儚さがある。
目が離せなくなった若先生に、女はくすりと笑う。たちまち茹で蛸のようになった若先生を見て、全てを悟った巡査はここぞとばかり思い切り笑ったのであった。




