旅立ちは突然に
しいなここみさま主催『朝起きたら企画』参加作品です。
朝、いつもの時間に目覚め、アラームが鳴る前の時計を止める。
妙に薄暗いのは気のせいか?
時計を見るが時間はやはりいつも通りの6時28分。 アラームの鳴る2分前。
雨音も雨垂れの音もしないから、雲が厚いのだろうか?
蛍光灯のスイッチを入れた……が、点かない。
停電か?
そう言えば目が覚める前に、何となく揺れているのを感じた様な気もする。 ならば地震のせいだろうか?
カーテンを開ける。
が、そこには何も見えなかった。
「なんだこりゃ……?」
何か汚れの様な物がこびり付いていてガラスがガラスの用を成していない。
このまま窓を開けると、この汚れも部屋の中に入ってきそうな、ドロリとした粘性のありそうに見える何か。
取り敢えず外を確認したいが、このワンルーム、窓があるのはこの一面だけだ。 仕方なく薄暗い部屋の中を歩き玄関で立ち止まる。
ドアスコープから外を見るが、よく解らない。
意を決してドアを開けようとするが ――開かない?
何か重量物がドアに接触している感じ、だろうか? 少しだけ開くが、それ以上はうんともすんとも言わない。
「どうすりゃいいんだよ、これ……」
部屋に戻り、スマホを見ると何故か圏外である。
冷蔵庫を開けるとやはり通電していない。
ふと、水道はどうかなのかと洗面台に行って、オレは吹いた。
「なんじゃこりゃー!?」
オレはオレじゃなかった。
いや、オレには違いないのだが、今のオレじゃなかった。
端的に言えば学生時代のオレだった。
多分高校くらいのオレの顔だ。
「……どうなってる……」
呟きを咎める様に、ぐらりと部屋が揺れる。
「今度は地震かよ!?」
激しい揺れだ。
縦からも横からも揺れている様な、アトラクションの様な揺れ方。
――ベキッ……!
玄関から、何かが壊れた様な音。 いや、自分を誤魔化すのは止そう。 恐らくドアの壊れた音が聞こえた。
ついでに某恐竜映画で聞いた様な、巨大な生物の遠ざかる足音らしいものも。
恐る恐る玄関へ向かうと、半ば壊れたドアの隙間から、街中では有り得ないシダの様な植物が見えた。
「………………………………ああ、もう!」
どう考えてもイヤな予感しかしないが、確認しない訳にもいかない。
部屋着から、そこそこ丈夫そうなジーンズに着替え、趣味で買い集めた特殊警棒とサバイバルナイフ、鉈を装備。 これまた趣味で買った指ぬきグローブと、スニーカーではなくジャングルブーツを履いて、壊れたドアを越えると、
ジャングルがそこにあった。
少し歩いて振り返ると、自分の住む部屋があった。 正確に、部屋だけがあった。 隣室も上階もなく、ただ自分の部屋だけがポツンと鎮座しているのが見えた。
ぐるりと周囲を回ると、ガラス戸には鳥の糞らしいモノがべったりとへばり付いている。
まあ、鳥の糞なのだろう。 何羽分なのか、一羽分の巨大な鳥の糞なのかは解らないが。
「……どうすんだよ、コレ……?」
部屋の中のタンクにまだ水は残っている。
冷蔵庫の中のモノのうち、足の速いモノで食事を終わらせ、日持ちしそうなモノは残しつつサバイバル生活……?
少なくとも水が残っているウチはここを拠点にして……。
などと考えつつ少しずつ周囲を探索する。
幸い、先程の足音の主は見えないし、まだ食べられるかどうかは解らないが実りの多い森に見える。
『――時空震を感知しました。 ただ今より修復致します』
森を探索して暫く、急にアナウンスの様な声が聞こえてきた。
『作業員は速やかに船内へお戻りください』
その謎のアナウンスに、猛烈にイヤな予感を覚えたオレは部屋へ走った。 全力疾走なんて何年ぶりだろう。 身体が走り方を忘れている様なギクシャクした動きにもどかしさを感じながら、ひたすら走る。
『作業員は速やかに船内へお戻りください』
繰り返されるアナウンスが焦燥感を駆り立てる。
ヤバい。
絶対ヤバい!
だが、壊れた玄関が見えた!
今のこの足でも十秒と掛からない、はず!
『修復を完了致しました。 作業員は通常作業へお戻りください』
そんなアナウンスと共に、オレの部屋は消えた。
目の前から、スーッとその姿を消した。
「――マジかっ!!!??」
これで先程まで考えていたサバイバル計画は全てパーである。
というか、
「部屋で待っていたら……戻れて、いた……?」
項垂れる。
項垂れるしかない。
だが、
オレは立ち上がりヤケクソになって叫んだ。
「狩りに行こうぜ!!」
さあ、これは異世界転移なのかタイムスリップなのか、それすらもはっきりしないまま、終わる!




