第二話 雨の中僕らは笑う。
夏に呼ばれた気がした。いつもは通らない道。
慣れないながらも、いつかきたかのような思いで道を行く。道の先に神社が見えた。奇妙な感じだ。
ここで何かに出会えるような気がする。本当はきっと何も起こらないはずなのに。
「朝よ起きなさい!」
階段下の母の力強い声で夢から覚めた。
少し汗をかいている。どうやらつけていたクーラーが消えていたようだ。
眠たい目を擦りながら、自分の部屋を出て、階段を下る。
「おはよう、母さん。」
「あんた、もっと早くおりてきなさいよ、朝ご飯もう覚めちゃったわよ。」
"今日の天気は曇りのち雨で、午後は強い雨になる地域もあるので傘を忘れないでください。"
雨か。実は僕は雨はそんなに嫌いではない。まぁ髪がうねったり、濡れたりなど嫌な部分もあるのだが、何よりも雨の日独特の街の匂いといった、晴れの日には見れない非日常感が好きなのである。
ご飯を食べ終える。「ご馳走様。」
着替えて歯を磨く。
「いってきます。」
「いってらっしゃい!」
通学路をいく。しばらく歩いた時だった。
見覚えのある影がコンビニで雨宿りをしている。
「おはよう安おせーぞ。」
「おはよう友春」
隼人と美優だ。いやもう一人いる。
「おはよう春。」
「おはよう神谷さん、美優。あと隼人も。」
「おい、俺のことをおまけみたいに言うな」どうやら神谷さんもこの近くに住んでいるらしく、一緒に登校することとなった。
「雨うぜーな。天気じゃ曇りのち雨とかいってたけど、もうちょっと降ってるし。」
隼人がうざったそうにそう言う。
「別に髪短いしあんたはいーでしょ。女子なんか、
大変なのよ、うねったりするからめんどくさいし、
ね。神谷さん。」
「そうだね。でも僕も春と同じように雨は意外と好きだよ。」
「俺いつか神谷さんにそんなこと言いましたっけ?」
「まぁまぁ、推測だよ。」
そうこうしているうちに学校に着いた。
キーンコーンカーンコーン
午前の授業を終え、昼休みになる。
メールの通知がなった。
"よろしく春図書室に来て欲しい。"
昨日交換した神谷さんからのメッセージが来た。
ガチャ
「どうしたの神谷さん。」
「いや、少し話したいことがあってね。」
「うん。」
「その、僕たちで8不思議を調べないか?」
「まぁいいけど」
「よかった。それじゃ部室に行こうか。」
「部室?」
どうやら神谷さんはオカルト研究会なるものに転校した日に入ったらしい。だが部員は神谷さんだけらしいので、一緒に8不思議を調べる部員を探していたそうだ。
「隼人も、美優も誘おうと思うけどいいよね?」
「もちろん。」
二人にメールを送り、早速部室に行くことになった。どうやら3階の端にあるらしく、そこは授業でも行く機会がない、準備室室だらけの部屋が並ぶ場所だったので、周りからは幽霊廊下と呼ばれている場所だった。
その廊下を歩き一番端の場所で僕らは止まる。
「オカルト研究会。ほんとにあったんだ。」
「まぁ僕もここにはあまり来ないけどね。じゃあ入ろうか。」
鍵を開け中に入る。
そこには長机と椅子が数個。そして本棚があるだけの小さな部屋だった。
「埃っぽいね。でも、部室っぽくていいかも。」
「確かにそうだよね。それにここには人が来ないから、ちょっと変なことしてもバレないかもね、してみる?」
「へ、変なことって?」
「もちろん…」
「おーめっちゃいいじゃん。ここが部室かー」隼人が入ってきた。遅れて美優も入る。
「おー」
「それじゃふたりも来たことだし、活動について話そうか。えーと僕は8不思議を調べたいと思っていてね。それで春に協力してもらおうって言うわけなんだ。よかったら2人も入るかい?」
「面白そう。」
「入るよ。」
二人は喜んで入部することとなった。
「それじゃ、この入部届けを喜門寺先生に渡してきてくれるかな。」
入部届けをもらい、先生に出しに行くこととなった。廊下は雨の影響もあり、暗い。まるで夜の学校にようだ。特にこの幽霊廊下は電気がないので、
他の場所よりも君が悪い。
「神谷さんはどうしてそんなに8不思議に興味を持っているの。それにやけに詳しいし。」
「…そうだね。実は僕の兄がこの学校の卒業生でね。
このオカルト研究会に入部していたんだ。まあ、兄は事故で亡くなったんだけど、だからこそ兄の見ていたものを見てみたくなったんだ。」
「なるほどね。ごめんね辛いこと話させたかもしれない。」
「大丈夫だよ。気にしないで。」
そうこうするうちに職員室に着いた。
「喜門寺先生いらっしゃいますか。」
どうやらいないみたいだ。
「手分けしよーぜ。」
隼人がそう言う。美優と隼人、僕と神谷さんで手分けして喜門寺先生を探すことにした。
「もしかすると、科学準備室かもしれない。
さっき部室に行った時に教室の電気がついていたし。」
僕たちは部室に戻ることにした。
「ねー春は8不思議の2つめの謎、知ってるかい?」
「ごめんわからないや。」
「実は僕たちの部室がある。幽霊廊下に関することなんだ。」
「そうなんだ。どんなの?」
「雨の日に幽霊廊下で女の人が泣いているって話だよ。」
「今日みたいな雨?」
3階に行く足が重くなる。
気のせいだろうか。少し女の人の啜り泣くような声が聞こえるような気がする。
「神谷さん…もしかして、また、仕込んだ?」
「いや、今日は仕込んでないよ、見に行こう、」
そういい、階段を上がり廊下に出た時だった。
雷が鳴って廊下を明るくする。
一瞬。
廊下の向こう。ずっと向こう側に人影が見える。
それは大きく手を広げたような格好であった。
雷の光も消え再び廊下は暗闇に包まれる。
「春見に行こう。」
そういった神谷さんは僕の手をとり走り出した。
「今のは絶対8不思議だ。そうでしょ春。君も見たよね」
「うん。僕も見たけど、、見間違いかもしれない。」
「いや、二人が見たのだし。声も聞こえたし、間違いじゃないかも。」
走り、先ほど見えた、人影のところいく。
そこには何もなかった。
次の瞬間だった。
バァンと大きな音がなった。どうやらそれは科学準備室からなったらしい、数秒だったあと、そこから目を疑うようなものが吹き出してきた。それは炎であった。それは理科室の耐火カーテンの間をすり抜けガラスを破り、噴き出したのだ。
「危ない!」
そういって神谷さんを守る。炎から離れているとはいえ、かなり熱かった、
「あつっ」
だが神谷さんを守るために耐えた。
「春っ大丈夫かい?」
「うん、大丈夫。神谷さんの方こそ、大丈夫?」
「うんっ僕は‥」
「コラっお前ら何をしている!!」
廊下の先から、怒鳴り声が聞こえる。
「京松先生だ…」
「お前ら離れろっ!」
そう言いながら。消化器を持って走っていく。
「あなた達職員室に来なさいっ!」
そういって怒鳴ったのは教頭先生だった。
職員室に連れて行かれる。
「だから、僕らじゃないんです。」
「じゃあだったらなんであそこにいたの!?授業でもあそこにいくことなんかないはずよ!あなた達以外考えられないわ。」
「だから違うんです。鍵も持ってませんし。」
「鍵は関係ないでしょ。あなた達待ってなさい、すぐ親御さんを呼ぶから。これだからオカルト研究会は‥なくなった方がいいのよ。」そういって職員室内部の相談室から彼女は出て行った。
「どうやら弁明は無駄みたいだね。…ねぇ春。僕のことを信じてくれるかい。」
「えっ、うん。信じるよ。」、
そういうと彼女は再び僕の手を引く。
「走るよ!春。」
手を引かれ職員室から飛び出す。
「待ちなさいっ!!」後ろから怒号が聞こえる。
ただひたすらに走った。もう声は聞こえない、
「あはっあははは」
何ともいえぬ笑いが二人を襲う。おそらく親に電話されて大学生の話なんかを教頭はしていたのだろう。だが、二人揃って逃げ出したことが、僕らにはおかしくてたまらなかった。
「もう春ってば早いよ。」
「ごめん。でもこれからどーする。きっと僕は退学だよ。」
「二人でどこか遠い街まで逃げようか?」
彼女が冗談まじりに言う。
少しドキッとした。
当てのない逃避行。きっと親や先生、ましては警察からの逃避行だろう。背筋がゾッとする。
だけど神谷さんとなら。
うん逃げよう、そう言おうと口を開けようとした時だった。
「春はタイムリープって信じる?」
思いもよらない彼女の言葉に僕は言おうとした言葉を忘れた。