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嗜み
薊には、「候館」と呼ぶ旅館がある。
ここは、五十年前、薊がまだ燕の国都であった時に建てられた官営旅館。
その時、燕文候が秦に対抗する合縦連合に参加した。
各国の使者は、この候館で泊まり、燕候との謁見を待つ。
燕文候が遷都した以降、使者の往来が減り、ここは一般公開になった。
狐毛は、冬越しの時、いつもここで泊まる。
もう一つ、「臨淄軒」という酒場がある。
ここで、渤海で穫った鮑を食べながら、楚国の米で醸造された瑶漿を飲むのは狐毛の嗜み。
この二箇所で使うお金は、民が使う刀幣ではなく、金貨である。
狐毛が売買で手に入れた金は、この二箇所でしか使えない。