少女
黄昏の中、狐毛らは齊軍が山道に設けた一番目の営に着いた。
この営には、およそ斉兵百人が泊まっている。
うまく紛れ込むために、狐毛らは来る途中、函から必要な高唐弁を学んだ。
幸い、敗兵はあまり他人と喋る意欲はない。
狐毛ら一行には一つの帳が振り分けられて、夕食は粟米のお粥に野菜漬け。
一方、蕩は、営が見えやすいところで谷間の様子を見ている。
営には防御工事がない。此時、夕日がすでに沈んでおり、営には五人の巡回しか外にいない。
十里の以内はひっそりしている。山道を通る人が見当たらない。
「ほーほーほー、ほ」
三長一短、これは蕩が出した合図。
「守備少し、外から兵士来てなし」
という意味だ。
「そろそろ雨神が来るんだよ」
突然の声に蕩がびっくり。
ふりかえば、いつの間にうりろに一人の少女が立っている。
「あなた、奴らに合流しない?」
月の光で顔がよく見えないが、少女は素朴な服を着て、背中に籠を負っている。
ただ、蕩が里で見た女子と違って、彼女の髪は短く、そして散っいる。
どうする?居場所がバレた以上、彼女を殺め......いや、少なくとも気絶させなければならない。
「あなた、奴ら口下手だから追い出されたのか?」
蕩が葛藤している間に、少女が不快な声で蕩を揶揄した。
少女が話した言葉は蕩がよくわからない。でも「奴ら」と言い続けているから、少なくともこの女子は斉軍と関わりはないようだ。
蕩が思い出した、狐毛らと初めて出会った時。
蕩は袖の深いところから、一粒の金を取り出した。
「これ、あげる」
それは昨日、狐毛からもらった金の粒。
「おうち、かえって、ここでみたこと、はさないで」
蕩は手足を使って、少女に言葉の意味を分からせる。
「ハハハ、あなた、やはり口下手な人だな」
少女が金の粒を取って、月の光に照らしてじっくり見る。
「きれい、あーりーがーとうー」
少女は、蕩にならつて手足を使う。
「あたし、いえは、すぐあそこ、いまかえる」
少女は、遠くないところの営を見つめ、不気味な顔をしている。
「奴らは嫌いだ」
「でも大丈夫、いつか神々が懲らしめてあげるから」
蕩にわからない言葉を残して、少女は夜に消えた。
まもなく、谷間で雨が降り始めた。