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狼煙  作者: ニンニクアワビ
10/16

黒い線

 翌夜、隠れた森の中。

 男四人、(かなえ)を囲んでいる。

 焚き火はすでにくすぶっている。その上の鼎の中に肉羹(にくこう)が炊かれている。

 周りに車や馬の形跡がないが、包みは何個木のそばに積み上げられていた。

 そして、全員剣を帯びている。

 少年は木の後ろに身を隠しながら、男たちを観察してる。

 例の男を見つけた!

 一昨日什老とやり取りした男は、碗にお肉羹をよそった。

 彼の名は「(ぼく)」、少年とおなじ東魏出身。以前、両替商として綱成で活動していた。

 「誰だ!」

 少年の気配に気づけ、一人の大男は腰の剣に手をかけ、ゆくゆくと少年の居場所に近づいてきた。

 「ぼく、よろい、うる!」

 少年は、まだ雅言(共通語)を話せないが、大体の意味は伝われる。

 「あおい、いい、よろいだ!」

 少年が背負っている包みを地面に置き、開けると二つの鎧が皆の前に現れた。

 「おもしろい!俺達にもっと高く売れるとでも思ってるの?」

 「しかしどうやってここを見つけたのか?」

 話したのは座っている男の一人、彼は狐毛。

 「ぼくの足跡を辿り着いたか」

 話したのは狐耳。

 狐耳は鼎から鹿肉の一切れを取った。

 「そこの峰から、ここの火が見えるんだ」

 少年が答えた。

 少年が登った峰は、大野沢北側の沢畔にある山の主峰である。

 そこから南西へ十里(四キロメートル)、大野沢と濮水の間の森の中に、狐毛らが潜んでいる。

 あの山は真に険しい。少年の手は、泥と茨の跡だらけだ。

 「函、どう思う?」

 狐毛が先ほどから剣を押さえている大男にたずねる。

 函は斉軍の撃技の士(精鋭雇用兵)だった。

「紺色の糸、(サイ)革の甲片、そして山型の披膊(肩守り)、こいつは撃技(げきぎ)の士だ」

 函の手に持っているのは、川に転んで死んだ兵士の鎧。

「しかしこういう無様な死に方、撃技の士はここまで堕ちたのか」

 もう一つの鎧を手に取って、鎧の型を気味する。

「こいつは騎馬兵、牛革にして披膊も髀褌(もも守り)もない」

「そして背後には矢の穴」

 後ろに矢の穴は、背を敵に向けたことを示した。

 斉出身の函が嫌な予感をした。齊軍が大敗した予感。

「名は?」

 狐毛が少年に問う。

「蕩......と申す」

「蕩、その峰から、今日濮水の様子が見えるはずだ、どうだった?」

 少年が見たのは、地平線の彼方にある、兵士と旗で構成された一本の黒い線だけだ。

 その黒い線は、黄昏の中、徐々太くなっている。

 予感が正しかった、齊軍は大敗を喫して、東に敗走している。

 この日、齊軍が北、西、そして南から秦・魏・韓に攻められて、副将の申縛が戦死、主将の匡章が逃走。

 「小僧、この鎧、いくら売りたい?」

 狐毛が撃技の鎧に指を差して、ややからかう気分で少年に聞いた。

 「四……いや、五石で」

 什老よりニ石高くの値段、向こうは応じるか?

 「ウワハハハ、夢を見るのも五石までか」

 狐毛が笑った。

 「あのジジエグいな」

 卜はため息をした。

 狐毛は袖から、米の粒のようなものを三つ取り出した。

 焚き火の明かりの下で、金色に輝いている。米より大きい、三つのつぶだ。

 「あなた、名前は何という?」

 「蕩……だ」

 少年には今はまだよくわからない、このつぶの力。

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