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霊命預所(仮)  作者: シズキ
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5

ハァ--今日も溜息が出る。足取りは重くいつもの道がどこかで途切れたらいいのにと思うほど憂鬱な気持ちだった。

彼の通う学校は公立の普通の高校だ、表側は・・ただ他と違うとすれば不良が多いという事、そして学校にはそこらの不良も纏めるトップがいる。今は三年で頻繁に顔を出す事も少なくなったようだが、その代わり二年の不良が幅を利かせている、彼はそんな彼等の良い道具にされているのだった。

ハァ--また溜息が出る。

そうこうしている内に足は学校の門をくぐった。教室に向かい自分の机に座る、それだけで彼の気持ちはホッとした。

一時限目、二時限目と過ぎていきやがてお昼休みになる。気分はもう解放されたように感じていた、その時だった。

「やぁ、岩本君いるかな?」

その声に心臓が嫌な鼓動を打ち鳴らす。クラスの視線が彼を黙って指していた。皆分かっているのだ、彼等が学校の問題児だと。

「今昼か?俺らと食おうぜ」

「行こうや」

肩を抱かれ無理やり連れてかれる。机には昼の弁当が残されていた、彼等は男子生徒とお昼を食べたい訳ではなかったのだ、ただ彼を連れ出しまた無茶な事を言い聞かせいいように使いたいだけなのだ。

彼等は体育館の裏に場所を移し、男子生徒を壁際へと立たせる。

「なぁ岩本、俺らが昨日どれだけガッカリしたか分かるか?」

彼の肩を掴んで壁に押しやる。

「グッ?!」

「あれだけのブサイクを連れてくるなんて言わば才能だよな」

「それとも何か?俺らに対する当てつけのつもりだったのか?」

彼らの仲間が小馬鹿にした様な笑いを含めて言った。

「『彼等は心が曇っていたようですね』」

不意に彼女の言葉が思い出される。

あの不思議な体験を彼は心の中で思い返していた。出会った瞬間から何か違う感じがして、異様に惹き付けられた、声を掛けたら丁寧な言葉で穏やかな声にちょっと罪悪感を覚えた事を思い出す、それでも彼等の要求の方がその時は勝っていた。だから無理やり彼女を連れて行った、だが本来起こるはずだった事は起こらなかった、僕は彼らに殴られたが彼女は僕を強いと言ってくれた、彼らに従うしかなかったこんな僕を、彼女は強いと・・・

「おい!聞いてんのか!?」

「お前には今後、俺達の小遣い稼ぎをしてもらうからな!」

「なぁに、親の金ちょろまかしてくればこれからも俺達が守ってやんよ」

ゲスな笑い声を上げて彼等は意気揚々と言い放つ。

「『貴方は強いですね』」

彼女の声が頭の中で繰り返し聴こえる。

「・・やだ・・」

「あっ?」

「もうお前らの言うことを聞くのは嫌だ!!」

彼等は顔を見合わせる。

「はあ?何言ってんのお前」

「俺達に喧嘩売ってんのか!?」

「お前なんかが俺達に意見するなんて100万年はぇえんだよ!」

ダンッと壁を叩く音、ビクリと彼の身体が反応する。

「『貴方にほんの少し勇気をあげましょう』」

彼女の言葉がまた頭に響く。そして彼は腕にはめられてる花のミサンガを見た。

「『この子達が貴方に勇気をくれますよ』」

そうだ、僕はこんな生活が嫌だった。変われるものなら変わりたい、こんな惨めな僕は嫌だ!

「なんと言われようと、僕はもうお前達の言いなりにならない!」

「へぇ、イヤに強気じゃんか」

「お前どうなっても知らんぞ」

彼らの一人が腕を振り上げその拳が彼を捕える。

殴られる--そう思って目を瞑った瞬間だった。

「何してんだお前らこんな所で?」

穏やかそうなそれでいて、有無を言わせない気迫を持った一人の若者が歩いて来た。

「あ、赤羽(せきわ)さん!」

彼等は慌てて背筋を伸ばす。

若者は壁際に立たされてる少年に目を向ける。そして彼らに視線を投げかける、それだけで彼等は冷や汗が止まらなかった。何故なら若者はここら一帯を纏めあげる程の実力の持ち主、言わば不良のトップと言われる男だったのだ。

「こいつ何かしたのか?」

静かな声が体育館裏に通った。

「い、いや、こいつ俺達の言うことを拒否ったもんで」

「そ、そうっす、で、ちょっと締め上げようと」

「ふ〜ん」

その時だ、男の裏拳が走った。何の気なしに放たれた拳、まるで子犬を撫でるかのように無意識な拳は目にも止まらぬ速さだった。

ズザザッと身体が地面を舐める。

何が起きたのか分からなかった、ただ一瞬の間を置いて強烈な痛みが襲った。口の中は切れ血が滴る、歯が折れたのかと思った。意識はなんとか持ちこたえていたが、頭がクラクラして上手く思考がまわない。

男は殴った奴へと歩いてくる。

「なぁ、お前何でそんなこと言ったの?」

膝を折り彼の側へしゃがみこむ。

「『あーあ、赤羽さんやっちゃったよ』」

殴られたのは壁際に立たされていた岩本と言う彼だった。

男等は殴られた彼を見てニヤニヤ嫌な笑いを浮かべ、これから起きるであろう最悪な事態を面白がり想像した。

「赤羽さん、そいつ生意気なんすよ」

「少しやっちゃってくれませんか」

「なんなら俺らも」

「テメェらは黙ってろ」

冷たい眼差しが彼らを射抜く、それだけで縮こまる三人の男達。返事も出来ずにただその場に立ちすくむ。

今にも死ぬ程殴られそうな冷たい目をした男の目が彼を見つめまた問いただす。

「なぁお前何してんの?コイツらの言った事分かってるよな?」

彼は必死に目の焦点を男に向ける、男の目は冷たいままだ。頬を手で押えながらも彼はその男を睨み返した。

「僕はもう、アイツらの言いなりにはならない!何をされようが僕はもうこんな生き方は嫌なんだ!!」

「言うじゃねえか」

男は拳を握り腕を上げた。

「『また、殴られる』」

目を瞑り必死に痛みに耐えようと唇を強くむすんだ。

クシャッと頭を撫でる掌が彼の頭に落ちてきて

「お前根性あるじゃねえか」

と、ニコリと笑うその顔にさっきまでの冷たい瞳はなく、男は嬉しそうに微笑んでいた。

「せ、赤羽さん?」

「お前ら、こいつの根性見てなんも思わねぇのか?」

「はっ?」

「いやそいつ、俺達の言うこと」

「赤羽さんがそいつを締めてくれるんじゃないんで?!」

彼等は赤羽の行動を不思議そうに見つめる。

「こいつ俺の拳をまともに受けて、それでも言い返したんだぜ、お前らがこいつを凹しても言うことを聞くとは思えねーな」

「赤羽さん!」

「そんなことないっす!」

「赤羽さんを知らねぇから、そんな事を言ってるだけっすよ!」

へぇと男達に言われて赤羽が彼を睨みつける。

「だってよ、お前俺の事知らねぇであんな口聞いたのか?」

彼は赤羽を見て頭を振った。

「知ってます、貴方は有名な不良の元締めだと・・裏で貴方に敵う者はいないと言われている人だって・・でも僕は、もう誰の言いなりにもならない!力で来るなら来ればいい!僕は力の限り抗ってみせる!」

土と一緒に拳を握りしめる。そして赤羽と三人の男達を睨みつけて言ったのだ。

「てめぇ生意気なんだよ!」

「こうなりゃ俺っちで凹るまでだな」

そう男達が言い放った途端、赤羽はくくくっと笑って見せた。

「赤羽さん?」

「無駄な事はやめとけ、それにこの俺を知っていてもなおこの口を叩くんだぜ」

そう言いながらも笑いは止まらない、ついには頭を抱えて大笑いし始めた。

「赤羽さん!?」

「ほら、保健室行こうぜ」

突然赤羽は彼の肩に手を貸し彼を連れて歩き出した。

「コイツの根性は本物だ、おめぇら鬱憤が溜まってるなら何時でも相手してやるから俺んとこ来いや」

赤羽は睨みを見据えた目で男らに向かってそう言い、彼と一緒に体育館裏を去っていった。

「何なんだ!?」

男等は赤羽の言動に疑問を持ったが、誰一人赤羽に文句を言うやつはいなかった。それは赤羽が本当は血も涙もない冷酷な奴だと知っていたからだった、しかし今の言動はそれとは似つかわしくなかった。実は赤羽にはもう一つの顔があったのだ。


保健室で治療を受けた彼は、事の成り行きを聞かれ戸惑った、だがそこは赤羽が説明し頭を下げる事で話は終わったように思えた、だがその行為に彼は別の意味で戸惑い、先輩が自分を庇って彼等を説得してくれたのだと付け加えるように話した事で、先生も一応の納得をしてくれたのだった。

赤羽はその言い訳に笑っていたが、噂と違う先輩の姿に彼は不思議な感情を持ち始めた。


帰り道、彼は先輩に付き添われて途中まで一緒に帰っていった。教室で声を掛けられた時は驚きもした、クラスの皆も不良のトップが来た事に驚きを隠せなかったが、気作な物腰の先輩に誰もが不思議そうに見つめてくるのだった。

「悪かったな、力は抜いてたんだがかなり吹き飛ばしたよな」

先輩は苦笑いを浮かべながら謝ってきた。

「いえ、あれで僕は目が覚めた気がするんです。だから謝らないで下さい」

頬に貼られた湿布を触りながら僕は先輩に答える。

「お前ホント根性あるよな、普通はビビるだろ」

「そうですね、でもこれが僕に勇気をくれたんです」

そう言いながら僕は手首に結んである花のミサンガを先輩に見せた。

「へぇ、花で作ってあるミサンガか?可愛いな、今のお前にはちょっと可愛すぎだけどな」

先輩が笑って見せる。

「彼女が僕に勇気をくれますよって言って作ってくれたんです」

「へぇお前彼女いたんだ」

「あ、いえ、そう言う彼女ではないんです、名前も知らない女の子で、僕が彼等に言われてナンパした子なんですよ」

その事情を聴きながら彼女の不思議さの経緯なんかを僕は先輩に話した。彼女を見て逃げ出した彼等、それを怖がってた自分、申し訳なさそうに謝る彼女、そして自分を取り戻し不思議な力で優しい勇気をくれた彼女のミサンガ、その全てを包み隠さず僕は先輩に話したのだ。

「ふ〜ん、不思議な女の子だな」

「信じてくれるんですか?!」

「なんだお前、俺に嘘を話したのか?」

笑顔で言う先輩に僕は首を思いっきり振った。

「そんな事ありません、全部本当の事なんです」

「だろうな、お前が嘘をつく奴か見分けがつかねぇ程俺はお人好しじゃねぇよ」

ハハハっと先輩は笑った。

「にしても、そんな不思議で可愛い子なら俺も会ってみたかったな」

「僕ももう一度会いたいです」

「次はちゃんとしたナンパか?」

「な、ナンパって、僕はただ・・」

彼女にお礼が言いたいんだろ?と先輩は口にする、その言葉に僕はコクリと頷いた。

「真面目くんだなお前は」

「えっ?」

「俺だったらそんなに可愛い子なら俺の女にならないかって誘うけどな」

不意に真面目な顔をして赤羽は言い放つ、なんてことはないとでも言う顔をして

「せ、先輩!?」

赤羽は、男はそのぐらい砕けてた方がいい時もあるんだぜと岩本の背を叩いた、真面目君も程々にな、そう付け足しながら。

それからたわいない話をして先輩とは別れたが、僕は先輩のギャップに戸惑いを覚えていた。先輩は確かに自分を殴って凄んできた人だったが、それに負けず反論した事で先輩は自分に好感が持てたと言ってくれた、俺はそういう奴が好きなんだよ、暴力にも屈しない男を見せた時、俺はそいつの内面を見る。

そう話していた、本当にそうなんだろうか?あれが先輩の姿なんだろうか?それならあの噂は?冷酷無比な暴力の権化そう言われている先輩は?でもさっきの先輩は噂されてる人となりとは違って見えた。

あれが本当の先輩なんだろうか?

川面を見ながら僕は橋の中程でそんな事を思っていた。

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