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霊命預所(仮)  作者: シズキ
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「よいか冥界に落ちたものは生前の苦業をここで償い曇りない魂となってリンネへと向かう、その業は犯した罪により数年から数百年もしくはそれ以上となる、そこから逃げられるものなどいない常に監視者がいるからな」

そこまで言って紫鶖は目を閉じ扇を口元に持っていく

「だが、たまにこの冥界から浄化の途中で出られるものがおる罪を犯しながらその罪を代わりに受けて魂の望みを叶える愚か者がな」

まさか!と彼は思い至った『待ってて下さいね』その声が頭をよぎった。

「待ってくれ、俺はそんなの望んじゃいなかった」

「なら先程の母の言葉はお前には必要なかったのか?」

それは・・彼は口ごもる。

母に会いたくなかったと言えば嘘になる、口では会いたくないと言いながら本音は母の本心が知りたかった、死んでしまった理由も--

「俺は・・いや俺には必要だったのかもしれない、口には出さなかったがあいつは俺の本音を見抜いていたんだな」

彼の言葉に紫鶖の眉間にシワがよる。

「命は魂そのものを見る、たとえ魂が口にせん事もその者が真に知りたいと思った事を察するのじゃ、お前は母に会いたかったそして言いたい事があっただが母は冥界におりお前とは二度と会えなかったはずじゃ、なぜなら冥界で浄化された魂はそのままリンネの輪に乗る、縁が続いておればまた会えたであろうが望みは薄かったであろうな」

あいつは俺達、いや母さんを冥界から引き寄せたんじゃないのか?そして俺達はここに居る、だが罪を償いもせずのうのうとあいつの話し相手だけしてそれが浄化に繋がるのか?俺も母さんもホントはここに居るべきじゃないものなんじゃないのか?あいつと話をしなくちゃ駄目だ!

「あいつは、あいつは今どこにいるんだ?!」

「妾の友をあいつ呼ばわりか」

紫鶖の目が静かな怒りを秘めて男を睨みつける。

その威圧さに彼の口調がどもり変な丁寧語になった。

「いや、あの・・か、彼女は今どこにおられるのですか?」

男は紫鶖に萎縮しながらもそう聞き返すと、少し怒りが収まったかのように軽く息を吐き出す。

「命はお前の母の罪を代わりに受けておる」

「それはどういう意味なんだ!・・意味ですか?」

再び紫鶖にギロリと睨まれ男は言葉を言い直した。

命は彼と母が言葉を交わし今まで言えなかった事、伝えられなかった事、すれ違ってしまった事などを話して欲しいと思っていた。

だがもし彼の母が冥界に居たとすれば話が出来ないうえに二度と会えなくなる可能性もあった、だからもし冥界にいたのであれば自分が彼の母の罪を肩代わりして自分の元に母を預けてもらおうと考えていた、それが彼女にどれだけの負担を強いるとも、彼女は彼と母が話し合い分かり合えるようにしたかったのだ。

「そう言って命は妾の冥獄へアクセスしてきおった、お主の母を探すためにな」

「それじゃあ命は今・・」

「そうじゃ」

「あいつ・・命と話がしたい会わせてくれ!」

ブチブチブチと紫鶖の中で何かが切れる音がする。しかしそれを堪えて

「駄目じゃ」

と冷たい視線を送るに留めた。

「なんでだよ!」

「ゆうたであろう、命はお前の母の罪を代わりに受けておると、それがどれだけの事かお主には分かるまい」

「確かに俺の母は自殺したその罪は償わなきゃならねえ、なんだったら俺が代わりに償う!」

「明?!」

母は二人の会話に呆然と聞き入っていた、だが代わりに償うと言われた事で我に返った。

「ダメよ!貴方には私の罪は関係ないのよ!」

「うるせえ!今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ、頼む、命と話をさせてくれ!」

母の顔をちらりと見て彼は紫鶖に向き直った。

「いいかげん・・」

プツンと最後の何かが紫鶖の中で切れた。

「ええい!いいかげん様をつけぬか!」

手に持つ扇を男に向けて紫鶖は言葉を続ける。

「命命と馴れ馴れしく呼びよってからに!」

えっ?

二人の呆気ない顔が紫鶖を見上げる。

男は一瞬思考が止まった。

何に怒られたのか分からなくなるほどだったが、そういえばと男は今までの会話を瞬間的にリプレイして今まで様をつけて呼んだことがない事に気がついた。

そう言えば俺、あいつの事をあいつとかこいつとか命としか呼んだ事無かったな、あ、いや命様・・か?

「すみません、以後気をつけます」

紫鶖は手に持つ扇を握り潰さん勢いで握りしめており、その眼差しは魂が砕けそうな程の冷酷な目をしていた。それにより男は一瞬背筋が凍る思いをして頭を深く下げ腰を九十度に折り曲げ謝罪した。

「お主達は命にとって大切な者であろうが、妾には罪を犯したいっかいの魂にしか過ぎん本来なら見せるべきものでは無いと妾は思うておる、だが今回は見せておくべきかもしれぬな」

そう言うと紫鶖は扇を開き(そら)に向かってヒラヒラと踊らせた、その瞬間何色とも言えぬ綺麗な色が(そら)を埋め尽くす。

「これはどんな事があろうとも本来なら見せるべきものでは無いと心しておけ」

二人はその眩い光を仰ぎみて目を見開く。

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