エピローグ「枯れない想い」
物語は終わりを迎えました。
このエピローグでは、桜が残した想いと、それを胸に生き続ける両親の姿を描きます。
悲しみの奥に残った「小さな光」を、どうぞ見届けてください。
春の風は静かに吹き、桜の花びらが舞い散っていた。
その光景を桜と一緒に見上げることは、もうできなかった。
母・美咲は赤いランドセルを抱きしめていた。
新品の革はまだ硬く、肩紐の内側には娘の温もりが残っているように思えた。
「……さくら」
涙が落ち、革の表面に濡れた跡を作る。
父・大樹はそんな妻の背に手を置き、自分もまた涙を流した。
「泣いていいんだ。……俺も止まらない」
二人の間に交わす言葉は少なかった。けれど、その沈黙には桜がいた。
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葬儀が終わった夜。
リビングの机の上に、折り紙の鶴が一羽残されていた。
美優に渡したものと同じ折り方。小さな羽根の先に、桜の指の跡が残っていた。
「これ……桜が」
美咲が震える声で呟く。
「願い、なんだな」
大樹も頷く。
二人は鶴を胸に抱き、娘の祈りを自分たちの祈りと重ねた。
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季節は巡る。
夏祭りの夜、提灯の光の下で花火が夜空に咲いた。
美咲は空を見上げ、桜の姿を探す。
「きっと見てるよ」
大樹がそっと手を握り、囁いた。
秋の運動会。
同級生がゴールで笑う姿を見て、胸が締めつけられる。
でも、不思議と温かさも込み上げた。
桜はもういない。けれど、桜が笑った時間は確かに残っていた。
冬の夜。
雪が静かに降り、窓辺に一つの結晶が張りついた。
それは桜の花びらの形をしていた。
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
――桜はここにいる。
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年月が過ぎても、悲しみは消えなかった。
けれど、その奥には小さな光が残り続けた。
桜の「ありがとう」と「また会える」という言葉が、二人を支え続けた。
桜の命は七年で終わった。
けれど、その想いは枯れない。
両親の心に、そして巡る季節の中に、生き続けていた。
桜は虹の橋を渡ったけれど、祈りと想いは両親の心に枯れることなく残り続けました。
涙の物語はここで幕を下ろします。
けれど最後に残された言葉――「また、きっと会えるよね」――は、光となって未来へと続いていきます。




